第五話 謎の救世主
「あ、アレ完全に建物だわ!」
「ガチじゃん。でも、建物というより、小屋じゃない?」
「……」
希望の光は、一瞬にして暗くなっていったようだった。
いや、だが、このまま消耗戦になるよりかは数倍マシのはずだ。
「こうなったら、凸るしかないぞ!」
「え、後ろのヤツらに?」
「なわけ! できたらそうしたいけど、そこには死が待ってるぞ!」
その小屋までの距離は、ざっと100m程だった。
真っ直ぐ続いている道の右側に、ポツンと一戸だけそれはあった。
見た目からして、農具置き場と言った感じで、とても古びているようだ、
このままのペースで走り続けられれば、追いつかれる前に着くことができるはず……!
「ねぇ!」
「どうした真琴!」
「……何か後ろのヤツらの一部が、急に加速してきたんですけど!」
「――ファッ!?」
俺は真琴の言葉を受けて、激しく息を切らしながら、すぐさま後ろを振り返ってみる。
軍団との距離も100m程に縮まっており、その中にいた数匹のヤツらが、急に加速してきていて、ぐんぐんと俺らとの距離を縮めていた。
その数匹だけは、俺らが先程見たオオカミ(仮)とは違い、本物のオオカミのような四足歩行だった。
「え、これって小屋に着くまでに、あのオオカミ擬きに追いつかれないか!?」
「……もうヤバいかも」
真琴の体力も、いい加減限界のようだ。
また、それは俺にも言えたことだった。
段々と失速していっているのが、簡単に分かる。
小屋との距離は半分ほど縮まり、残り50mと言ったところか。
だが、オオカミ擬きとの距離も比例して縮まっており、もう足音がはっきりと聞こえる程度のところまで来ている。
「これ絶対に間に合わないぞ!?」
希望の光は目と鼻の先まで来ているというのに、あと一歩のところで届きそうになくなっている。
「何か武器になりそうなものとか……ないよな」
とりあえず思いついたことを口に出してみるが、この状況で武器になるようなものはある訳がなく、声に出している途中で諦める。
「そういえば島……」
「どうした!」
「――我さっきの鍬持ったままだったわ」
「……今なんて? まさかだけど、今まで走ってた間ずっと持ってたの……?」
「うん」
「……お前やってんな」
小屋はもう目と鼻の先だ。
このまま駆け込めば、一旦ヤツらの猛攻を凌ぐことができるだろう。
だが、そう簡単に入らせてはくれなかった。
行く手を阻む、四匹の者がいたのだ。
――俺らは先程の衝撃発言を経たあと、残りの体力を全部使って小屋の目の前まで来ていた。
目の前の古びた木のドアを開けて入れば、ミッションクリアなのだが、惜しくもオオカミ擬き達に追いつかれてしまい、ドアへの道を塞がれてしまっていたのだった。
後ろの軍団との距離は100m程であり、俺らが動きを止めた今、ぐんぐんとその距離を縮めてきている。
俺らに向けて唸り声を発し、いつでも飛びかかって来れるような体制で待機しているオオカミ擬き。
今すぐに突破しなければ、後ろから近づいてきているオオカミ(仮)達に袋叩きにされて、ゲームオーバーだ。
かと言って、オオカミ擬きを突破する手段は――
「あるんだよなぁ! やっちゃってくれ、我さん!!」
その独特な一人称を参考にしたニックネームで、最恐のコマである真琴を繰り出す……!
あいつが、なぜかずっと鍬持っていたせいで追いつかれてしまったようなところはあったが、ここでやってくれればプラスマイナスゼロだ。
「ちかれた」
「……ん?」
「疲れたって……言ってんの。やば、死ぬ」
そう言い残して、真琴は足から崩れ落ちていった。
俺は真琴の手から落ちていった鍬を掴み取り、ヘロヘロになりながらも構えた。
「……あ、これ俺がやらないといけない感じ?」
その時、オオカミ擬きが飛びかかってきた。
――俺は咄嗟に両手で持っていた鍬の柄の部分で、オオカミ擬きの噛みつきを受けて止めて、そのまま受け流す。
「初めて剣道部で良かったと思えたわ……」
次の攻撃に備えて、再び構え直す。
鍬の下の方を両手で強く握り、首の高さに刃の部分を持ってくる。
そのまま左足を一歩さげて、膝を軽く曲げ、左足に重心をかける。
「どこからでもかかって来やがれ……! 来ないなら来なくていいけど」
地面に倒れ込んだ真琴を背に、四匹のオオカミ擬きと睨み合う。
だが、そんなことをしている間にも、後ろから迫る軍団の距離は縮まっていき、タイムリミットも迫ってくる。
俺が自分から仕掛けようかと思い始めていたその時だった。
小屋の古びたドアが悲鳴を上げながら開き、中から大きな人影が現れたのだった。
「さっきから何の騒ぎでふか……?」
その一言で、その場に一瞬の静寂が訪れる。
……が、静寂クラッシャーの異名を持ちし真琴が無反応な訳もなくて――
「――いや、誰だよ」
「真琴……!? お前生きてんのか?」
「勝手に殺すな」
地べたに大の字で寝そべりながら、か細い声で応答する真琴。
そして、小屋のドアから身を出してこちらに話しかけてくる謎の男が、再び話しかけてきた。
「誰なのはこっちのセリフでふ! と言いたいところでふが、どうやらマズイ状況のようでふね……」
語尾にいちいち『でふ』をつける謎の男は、急に声色が変わり、状況の悪さを理解したようだった。
「そこの鍬を持った、黄色の君!」
「ふぁい?」
突如指を指され、驚く俺。
謎の男は小屋の影で見た目がよく分からなかったが、こちらに危害を加えるつもりではないと思わせるような声だった。
「僕はコレから結構大きめな魔法を使うでふから、ちょっと時間稼ぎをしていて欲しいのでふ!」
「わ、分かりました……?」
「あ、ついでに、できればそこのジェネラルレイダーも倒してくれるとありがたいでふが……」
魔法?
ジェネラルレイダー?
この人は一体何を言っているんだ……?
俺はその男が言っていることの一部が理解できなかったが、とりあえず時間稼ぎをすればいいという事だけはわかった。
「真琴、立てそう?」
「ちょっと腕貸して」
「ほいよ」
地面に座り込んでいる真琴に、鍬を持つ手を片方放して差し出す。
真琴ががっちりと俺の腕を掴んだことを確認すると、勢いよく腕を引っ張りあげた。
それと同時に真琴はジャンプして、高く飛び上がり、俺のすぐ右に着地する。
「さっきまでヘロヘロだったのに、もう大丈夫なの?」
「我の体力の再生速度を侮るでないな。さっきのは小休憩だよ」
「それなら、次は俺が休んでも――」
俺がそう言いかけると、真琴のパンチが背中に飛んできた。
「――ッ!?」
「何甘ったれたこと言ってんの! その鍬は島が使っちゃっていいよ。我は今のパンチでウォーミングアップできたからね」
「コイツ……俺を腕試しに使いやがったな」
先程までの弱気な真琴はどこに行ってしまったのやら……。
まあでも、やっぱりこの方が真琴らしいか。
あまり乗り気ではないし、正直今すぐにでも休みたいが、どうやら頑張らないといけないようだ。
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