第四話 迫り来る軍団
「出会い頭で、お前は何言うとんねん」
いきなりの爆弾発言から始まる、久しぶりの人間との会話。
それにしても、まさかのあの強い人が真琴だったとは……。
――納得だわ。
「その面白味のない顔は島しかいないはず。更には、その髪の毛の無駄なサラサラ具合もそうだね」
「お前はさっきから基準がおかしいんだよ」
相変わらず一癖も二癖もありすぎるのは、真琴クオリティと言ったところか。
先程も言ったが、真琴は、俺が小学生の頃から仲の良い男女九人のグループ――
通称ムイトズのメンバーの一人だ。
本名は『蘭真琴』。
俺と同じく十五歳で、武闘派な女子だ。
「あ、やっぱりその細い目も……」
「もうそのノリはええわ! それにしても、何で真琴がここに?」
「いや、それはこっちのセリフだわ」
「……た、確かに」
真琴に思わぬ正論を吐かれて、少し動揺した俺だったが、どうやらここにいる理由が分からないのは、真琴も同じようだ。
「もしかして、道の真ん中で寝てるところから目が覚めた?」
「うん」
「もしかして、紅い空を見てびっくりした?」
「もちろん」
「もしかして、ベットだと思い込んで倒れて、そのまま頭を地面で打ったりした?」
「それは無い」
「で、ですよねぇ……」
キッパリと切り捨てられて、またもや動揺する俺だった。
それにしても、ほとんど同じ境遇のようだ。
ということは、やはり、ムイトズで遊んでいる時に何かがあったのだろう。
もしかしたら、他の七人も、案外周りに転がっているかもしれない。
「というかここは何処で、なんなの?」
「俺が聞きたいくらいだけど、周りの感じからして、間違いなくどっかの田舎ではある。まあ、紅い空に関してはなんとも言えないけど……」
「使えないなぁ」
「酷いな!?」
安定の罵倒を浴びせられ、この世の理不尽さを理解し始めた俺であった。
にしても、この紅い空はとても不気味だが、なぜかどこか懐かしさを感じ取れていた。
俺が少しの間紅い空を見つめていると、真琴が「あ、そだ」と、突如呟いた。
「どうした?」
俺が真琴に視線を移して、何気なく話しかける。
「島はさ、我らがここで目を覚ます前のことって、何か覚えてる?」
「それって、さっき俺が質問した内容と同じじゃね?」
先程、『それにしても、何で真琴がここに?』と聞いた時に、一瞬にして返されてしまい、それで質問が終わってしまったのだが、今の真琴の質問の内容は、ほとんど一緒だと思う。
そう思い、俺は質問に質問で返す。
というか、相変わらず独特すぎる一人称だな。
自分のことを『我』と呼んでいる女子なんて、そうそういないはずだ。
「いや、何でかは分からないんだけど、頭にモヤがかかってるみたいにさ、直前の記憶が思い出せないんだよね……」
「え、それ完全に俺も一緒だわ」
「やっぱり! 良かった、我だけじゃなくて。コレで道連れにできる」
「安心……じゃねえよ。何しれっとヤバいこと言っとんねん」
真琴との合流から、明らかに騒がしくなった。
しかも、俺が一方的なボケにツッコミをするという、謎の構図。
「というか、こういうツッコミの担当は蒼だろ?」
「そんな人もいましたな」
「故人にされとるやんけ」
蒼というのは、これもまたムイトズのメンバーの一人である。
ムイトズ中では数少ない常識人なのだが、なぜかいじられキャラになってしまっている可哀想な人だ。
「結局情報交換したけど、収穫はなし……だな」
「だねぇー。まあ、気軽に行くしかないんじゃない?」
「適当だな……というか、さっきのオオカミみたいなヤツは何だったの?」
俺は思い出したかのように、謎の生命体について、真琴に尋ねてみる。
……まあ、結果はわかっているが。
「あー、さっきのヤツ? 我の蹴りで一発だったね」
「お前って、そんな運動神経いいキャラだったっけ?確か、50m走二桁とかじゃ……」
そこまで言いかけて、俺は隣から明らかな殺意を感じとり、口笛で誤魔化すことにした。
実際のところ、真琴は極端な運動音痴である。
正直、跳び箱を飛べている所を見たことがない。
だが、先程の洗礼された蹴りを見ると、全く運動音痴には見えなかった。
まさか、蹴りとかパンチとかは別腹みたいな感じか?
……怒らせないようにしておこう。
「んー、目が一個しかなくてキモかったから蹴ったりしたけど、何か蹴った時の感触が変だった気がする」
「蹴った理由ヤバいな。その感触が変だったというのは?」
真琴の短気さに少し引きながらも、 蹴った時の感触について深く聞いてみる。
「何かね……」
真琴が言いかけたその時だ。
「ちょっと待って、何かもの凄い地響きしてないか?」
地震かと思うほどの大きな揺れと、ドタバタという大きな音が聞こえ始めた。
揺れはかなり強く、普通に立っているのが少し厳しい程だ。
あの真琴ですらも、手をブンブン回して倒れないようにバランスを保っている。
「ねぇ、地震にしては長くない?」
真琴が扇風機を通じて話しているかのような声になりながら、聞いてくる。
あまり地震は体験したことがないが、一向に揺れが収まる気配もなく、むしろ強くなってきている気すらしてくる。
「流石におかしいな……」
俺が疑問に思いながらふと後方を振り返ってみると、そこには絶望が待ち受けていた。
――道の奥の方から、オオカミ(仮)の数百とも思われる軍団が、こちらに向かって突撃してきていたのだった。
「うおおおおぉ!? 走れ走れ走れぇ!!」
俺らは今、砂利や大きな石で走りにくい道を、全力で走っていた。
「ちょ、腕ちぎれるって!?」
もちろん、途中で脱落しそうな真琴の腕を持った状態で全力で駆けている。
というか、何か真琴が重い気がする。
体感、50m走は今なら、6秒台取れる気がする位の速さだ。
それにしても、まさかあの地響きと大きな音の正体がオオカミ(仮)の軍団だったとは。
通りで弱くなるどころか、近づいてきているから強くなっていったわけだ。
恐らく、先程逃げていった三匹のヤツらが、仲間を大量に率いて、復讐するために戻って来たのだろう。
捕まれば命はない。
「真琴ぉ! 絶対に転ぶなよ? もし転んだら詰みだからな!」
「そんぐらい分かってるっての! というか、結構距離縮んできてるんですけど!」
「ふぁ!? 具体的に、あとどんぐらい?」
「多分、サッカーコート二個分くらい!」
「何で例えがサッカーコートなんだよ! えーっと、なら200mくらいなのか。……それって、近いのか?遠いのか?」
「我に聞くなし! 自分で考えろ!」
俺らは全力で走りながら、大声で会話をしていた。
喉が枯れてしまいそうだった。
だが、200m程離れているのであれば、体力が持つ間は大丈夫だろう。
……体力が持つ間は。
これは、体力弱者の俺と、更に重症な真琴には、無理難題と言える。
どうにか隠れるなりなんなりしなければ、いずれかは追いつかれてしまうだろう。
とは言ったものの、こんな周りに畑しかない場所で、隠れられるような建物があるとは考え難いし、あったとしても、入れば逆に袋のネズミだろう。
……もしかして、これって既に詰んでるのか?
「真琴さぁん! 何かいいモノ持ってたりしないの!?」
「そんなんあったら、とっく使ってるわ!」
「ですよねぇ!」
もしかしたら……と思ったが、流石に甘くはないようだ。
「ってか、我そろそろ限界なんだけど!」
「奇遇だね、俺もそう思ってたわ!」
「変なところで被んじゃねえよ! 島も体力尽きたら終わりじゃん! どーすんの!?」
「こっちが聞きたいわ!」
いい加減お互いが解決策が無さすぎて、喧嘩腰になってきていた。
そんな時だった。
「……なあ、あれって建物じゃね?」
俺らに希望の光が、一筋差し込んできたのだった。
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(元々↑のような形式で後書きをやっており、それを後からこれまでの次回予告形式にしていたため……この話から、しばらく後の話まで、こんな感じの後書きになっちゃってます。時間があれば段々と次回予告形式にしてこーかなー。って感じです)