第三話 我は真琴
「え、ちょ待てよ!?」
俺は本能的な危機を感じ、咄嗟に地面を蹴って後ろに跳ぶ。
鍬は元々俺がいた場所に、そのまま勢いよく振り下ろされて、深く地面に突き刺さった。
今動いていなければ、致命傷になっていたかもしれない。
だが、コレで一つハッキリとしたことがある。
あのオオカミ(仮)は、明らかにこちらを敵対視しているということだ。
というか今頃なんだが、あのオオカミ(仮)はなんなんだ?
二足歩行だから、オオカミでもないし、そもそも会話みたいなことしてる時点で、相当な知能はあるのだろう。
だが、人間以外にそれほどの知能を搭載している生物何か聞いたことがない。
しかも、単眼の生物は存在するのか?
考えても、結論として宇宙人しか出てこない。
でも、そんなものSFでもないのにある訳ないよな。
俺が考察していると、先程鍬を振り下ろしてきたヤツ以外の二匹が飛び出してきて、左右から、鍬を俺の腹部目掛けて薙ぎ払ってきた。
「――っ、それはキツイって……!!」
鋭い刃が、俺の命を狩り取ってやろうと迫り来ている。
後ろにまた跳ぶにも、もうそこまで刃が来ているし、距離も足りるか怪しい。
かと言って、しゃがむなんか論外だ。
となると――
「大ジャンプ見せたるわ!」
俺は全力で地面を蹴りあげて、宙に飛んだ。
すると、次の瞬間。俺の靴の下を、すごい勢いで通過していく鍬。
軽く風を感じたと思えば、その直後に鍬同士が激しくぶつかって、甲高い金属音が畑中に響き渡る。
俺はそのまま鍬の上に着地して、大きく後ろに後退する。
急に鍬に俺が乗ったことで、前に引っ張られて倒れ込む二匹のオオカミ(仮)。
俺が運動音痴と罵ってきやがったあヤツらに、是非とも見せてやりたかった。
一方的な攻撃なら俺の少ない体力が持つ限りであれば避けられそうだが、続けていても俺が不利になるだけだ。
そもそも、わけも分からない生物を、俺が攻撃してしまっていいのだろうか。
正当防衛ではあるかもしれないが、できれば反撃はしたくない。
俺が余裕をカマし始めていると、最初に鍬を振りかざしてきたヤツが、鍬の刃の方を地面に突き刺して、一つだけの目を瞑り、またもや口をモゴモゴさせ始めた。
「何だ? また会話でもし始めたのか? でも、他の二匹はモゴモゴさせてないけど……」
何か違和感を覚える俺。
すると、そのオオカミ(仮)がモゴモゴし始めた途端、辺りに軽い風の流れが発生したように感じた。
しばらく風が俺の肌を叩いていた後、突如風の流れはピタリと止まったのだった。
俺が不思議に思いながら、目をつぶったままのオオカミ(仮)を見つめていると、いきなりその大きな瞳を開かせる。
その瞬間、俺は見えない空気の圧力のようなものを腹部に感じた。
だが、その時には既に、俺は空を舞っていて――
「うわっ!?」
いきなりの出来事に戸惑い、俺は空中で手足をじたばたさせる。
だが、せめてもの抵抗も虚しく散り、俺はそのまま地面に落下してしまっていた。
だいたい、玄関のドアの高さ程上に跳んでいたと思う。
「ったいな……!?」
不意打ちの攻撃で警戒をしていなかったのも相まって、俺はモロに腰を痛めてしまった。
「折れては無さそうだけど、めちゃんこ痛いな……」
いや、一旦腰を痛めた件は置いておくとして、それよりも驚くべきことがあったではないか。
「今俺が飛ばされたのは、オオカミ(仮)の仕業……?」
明らかに、オオカミ(仮)がやったとしか思えない状況だが、何をどうやったのだと言うんだ。
「何か、空気砲みたいだったよな……」
俺が腰を擦りながら、今起こった出来事に対して色々と考えていると、またもや風の流れを感じ始めた。
まさかと思い、俺がオオカミ(仮)達の方を見ると、案の定、全員が鍬を地面に突き刺した状態で目を瞑り、口をモゴモゴとさせていた。
しかも、今度は三匹が一斉にやっているせいなのか分からないが、先程よりも風の流れが強く感じる。
「これって、ヤバいんじゃないの!?」
俺が焦り始めていると、忘れかけていた本来の目的をふと思い出す。
「というか、オオカミ(仮)達が壁になってるせいで奥に進めてないけど、さっきの人は大丈夫なのか?」
俺が風に身を打たれながら、オオカミ(仮)達の間から後ろを見ようと、顔の位置を変えてみる。
「……ん?」
すると、そこには居たのだった。
オオカミ(仮)が地面に突き刺した鍬を手に取り、背後から振りかざしている人間のすがたが。
「――ふんどりゃあ!」
そのままその人間は、鍬を真ん中のオオカミ(仮)に振り下ろした。
せめてもの手加減のつもりか、刃の方ではなく、持ち手の木の部分を振り下ろしていた。
ボコンという、如何にもタンコブになりそうな音を鳴らしたあと、その人間はオオカミ(仮)に追い打ちをかける。
「我の全力キック!」
右足を前に突き出し、靴の裏の平らな部分でオオカミ(仮)の背中を蹴り出す。
いきなりの不意打ちに対応できずにいたオオカミ(仮)は、そのまま前方に吹き飛んで、俺の目と鼻の先辺りまで転がってきた。
どうやら身長の通りに、体重も軽かったようだ。
その人間は続けて残りのオオカミ(仮)の方に、鍬の刃の部分を交互に向ける。
「お前らも一発ぶちかましてやろうか?」
意外にも、オオカミ(仮)達の知能はしっかりとしているらしい。
その言葉を受けた残りの二匹は、一目散に転がっているオオカミ(仮)を持ち上げて、俺の真横を通って逃げていったのだった。
俺は今の光景を見て、思わず声が漏れる。
「つ、つぇ……」
俺は、既に遥か遠くに行ったオオカミ(仮)達を見た後、一瞬にしてアイツらを蹴散らした張本人の方に視線を移す。
というか、一人であんなにできるなら、俺が助けに来た意味ってあったの?
俺は一瞬自分の存在意義を否定しそうになるが、どちらにせよ、オオカミ(仮)一瞬で蹴散らすことができるような人間だ。
きっと、もの凄い人なんだろう。
俺がそう思いながら、その人のことを見てみると、予想を180°超えた答えが返ってきた。
その人物は、俺の肩ぐらいの身長という小柄で、更には、腰につく程の長さの美しい茶色がかった髪の女性だった。
その長く、美しい髪は黄色のチェック模様のリボンで縛られていた。
大きな目をぱちくりとさせて、俺の顔を覗き込んでくる。
そう、その人物は――
「え、真琴やん」
「その面白味のない顔は、島だな!」
少し前に話した、蘭真琴だった。
真琴「ということで、蘭真琴でーす。以後、お見知り置きを〜」
創「わ、我さん数話前での次回予告の時の俺と同じようなこと言っとるやん……。ってかそもそも、最後にちょっぴり出てきたばっかなのに、この次回予告の場に乗り込んできてええんか……?」
真琴「あ、そーなの? まあ、そんなのどっちもどーでもよくてですな、とりま次回予告でしょ?」
創「せやな。本題を忘れちゃいかん……。と、いうことで次回予告!」
真琴「謎の長髪茶髪美少女のスーパーキックによって、窮地の危機を脱した創!」
創「ようやく、知り合いにーーしかも、『ムイトズ』のメンバーの一人との合流を果たせた創は安堵の息をつこうとするが、現実はそう甘くはないようだった!」
真琴「ってことでことで、次回第四話ーー」
はじまこ「「『迫り来る軍団』!」」
創「ブックマーク、評価ポイント、評価ボタン、感想の四種の神器を俺らに授けてくれるとより助かるそうですぞー!」
真琴「ってことで、我の活躍を指でもしゃぶりながら待っててね〜」