第二話 黒い生物
「何か、予想以上に遠くないか?」
体力に自信は一切ないが、俺は頑張って走りにくいあぜ道をかけていた。
しばらく走り、例の黒い物体との距離は10m程度までに縮まった。
俺はとりあえず、今の道より低い段になっている畑の中に身を隠し、観察を始める。
何かもぞもぞ動いているし、もしかしたら、イノシシだったりするのかもしれない。
まあ、こんな考えが出てくるのも田舎だからなんだがな。
相変わらずそれは紅く、似たような畑の景色が続いていた。
「うーむ……なんなんだアレは? やっぱりもぞもぞ動いてるし、生物だよな。かと言って、人間と言うわけでもなさそうだな」
やっぱり、イノシシとかの野生生物説が濃厚かと思い始めていると、何かそのシルエットに動物とは思えないようなものがあった。
「む? 何かよくよく見たら、鍬みたいなの持ってないか?」
遠くからだということや、周りに対照するものがないせいで、黒い物体の大きさを測ることはできなかったが、明らかに鍬のようなものを持っていることは確認できた。
「ということは、人間……なのか? それにしては、しゃがんでもないとあんなシルエットにはならなさそうやけど」
仮に人間だとしても、あぜ道の真ん中で鍬を持った状態でしゃがんでて、もぞもぞしてるとか、完全に話しかけない方がいいオーラがプンプンしている。
「何かホラゲーみたいになってきた……」
こういう時、極度の優柔不断な自分にムカついてくる。
さっさとどうするか決めないと、何も始まらないというのに……。
「くっそぉ……話しかけるにしても、ハードル高すぎるやろ」
見知らぬ場所で、見知らぬ人間(仮)に話しかけるのは、いくらなんでも俺の性格上難しいところはある。
「こんな時真琴なら、何も考えずに話しかけに行けるんだろうな……」
『真琴』というのは、先程も出てきたムイトズのメンバーの一人である。
思いついたことはすぐ行動に移すし、とりあえず当たって砕けろな精神の持ち主だ。
……因みに、ヤツは腐っても女子だ。
「くぅ、みんなに会いてえな……」
早くも、弱気になる星島創。
俺が立ってしゃがんでを繰り返している当たりだった。
「……ん?何かよくよく見れば、鍬みたいなシルエット三つくらいないか……?」
――俺が明らかな違和感に気づき始めたのは。
何かの見間違いかとも思い立ち、再び目を凝視させて見つめ直すが、
「いや、絶対そうだわ。完全に鍬みたいなシルエット三つあるわ」
疑惑が確信に変わった頃、俺はもう一つ重要なことに気がついてしまう。
「あれ、完全に人間ではないやろ」
そう、鍬が三つあるとなれば、鍬を縦に三つ持ったまま、道の真ん中でしゃがんでいる人……という認識になってしまうのだ。
「じゃあ人間では無いとすれば、アレは一体……?」
その事実に気がついた途端、背中に一筋の汗が駆け巡る。
「明らかに関わらない方がいいよな……。見なかったことにして、さっさと逃げた方が身のためな気がしてきた……」
ここでは流石の好奇心も、恐怖心に勝ることは無かったらしく、俺はそそくさと反対に振り返って静かに前進して行く。
だが、どうやら俺の人生はどれも一筋縄では行かない様子だった。
「何コイツら!? キモイんですけど!?」
そんな全力の叫びが、真後ろから聞こえてきたのだ。
俺はその叫び声を聞いて、心臓が飛び出るかと思う程驚く。
その声の発信源である真後ろに、首を素早く回して確認すると、先程の黒い物体……いや、生物らしきものが、三つのシルエットに別れて離れていた。
そして、シルエットが囲むように移動した真ん中には、声を発した張本人であると思われる人物が、地面に腰をつけて、上半身だけが起き上がっている状態にいた。
「絶対行った方がいいよな……それにしても、今の声って――」
明らかに女声だったが、少し音程が低くめで、歯切れがよく、単刀直入過ぎるあの言動は、何処かで聞き覚えがあった。
「というか、考えるのは後やな。怖すぎるけど、突撃しなければ……!」
俺は畑から道への段を、華麗に飛び越して道に出ると、そのまま声の主の場所へ足を動かす。
途中まで走って距離を縮めたあと、音を立てないように、忍び足で黒い生物の元へ近づいていく。
黒い生物は、道の真ん中と両端に、三匹こちらに背中を向けて立っていた。
どうやら、何かを見つめている様子だ。
俺の身長が170cmちょいなのに対して、黒い生物達は俺の腰くらいの高さしかなく、とても小さいことが見て取れる。
真ん中の黒い生物は、右手に持った鍬を地面に立てており、両端は、鍬を前に突き出して前後に小さく揺らしていた。
その姿は、まるで子供が、棒で虫を突っついているかのようだった。
もしかして、先程の声の主に対して鍬をツンツンしてるのか?
丁度真ん中のヤツが、先程見えた人間に被っていて、向こうも自分に気がついているかは分からなくなっている。
……よし、とりあえず、人間だったとしてもそうでなくても、一度話しかけてみないと何も変わらないよな。
俺は勇気をだして、声をかけてみることにした。
「あ、あのー……道を伺いたいのですが……」
俺が声を発して空気を震わせた途端、目の前の三匹の生物は音も立てずに、顔と思われる部分をこちらに向ける。
「――――!?」
俺はその生物を視認して、あまりの驚きと恐怖に言葉が詰まってしまった。
その見た目を簡単に言い表すなら、それは『オオカミ』だった。
だが、明らかにオオカミとは言えない点があった。
ボサボサとした黒色の毛で覆われた体。
二本の短い足で立っており、手も人のように道具などを持ちやすい形だ。
更には、異常に長いしっぽ。
オオカミのように、尖った口。
そこから垂れだしている、長くて灰色の舌。
何より決定的に違ったのは、その生物は単眼だったことだ。
真ん中に、吸い込まれてしまいそうな程大きな瞳がひとつあり、そこには反射した俺がしっかりと映り込んでいた。
まるでそれは、俺がもう逃げられないことを案じているかのようだった。
とりあえず、オオカミなのかなんなのかよくわからないから、オオカミ(仮)としておこう。
すると、オオカミ(仮)達は、お互いに見合って口を何かモゴモゴと動かし始めていた。
それは、会話をしているかのようだった。
俺が焦って頭が真っ白になっていると、オオカミ(仮)達の会話が終わったらしく、再び俺のことを見つめてきていた。
「あー、えーっと……一旦落ち着きましょ? ね……?」
俺が警告のようなものを言った時には、既に遅かったようだ。
――オオカミ(仮)達は、俺に向かって鍬を振り下ろしてきていた。
創「今回もやります、次回予告!」
創「……ってか、なんなんあの……えーっと、その……アレやよ、アレ……。あっ、そうそう、未確認生命体のUMAみたいなの!?」
創「……と、とりあえず次回予告っすね」
創「えー、次回予告! この世に存在する生物なのかも怪しい、謎のオオカミのような生物三匹に声をかけてみる俺。だが、そんな努力も虚しく、相手はこちらとコンタクトをとるつもりは甚だない様子であった」
創「そして唐突に振り下ろされる鍬! 俺こと星島創は、目の前の攻撃的生命体をどうにかして、声の主を救えるのか……!?」
創「次回第三話、『我は真琴』!」
創「よーわからんが、ブックマーク、評価ポイントに、評価ボタン……と、感想? とかとか、いっぱいやると良いことがあるらしいっす! 知らんけど!」
創「駆け足気味だったけど、そーゆーことで次回もお楽しみに! ……タイトル通り、やっと自称美少女も出てくるかも?」