第一話 白紙に戻る
眠りから覚めるのはいつも突然の出来事であり、俺の目覚めが良かったことは指で数えられるほどに少なかった。
何か、途方もなく長い悪夢を見ていたのか、記憶はないが、身体中を酷い倦怠感が覆い尽くしていた。
……いや、身体中というか、それは身体の芯からによるものだったのかもしれない。
いつもとは違いすぎる環境でも、目覚めの悪さだけは変わらないようだった。
「……ふぁっ!?」
俺は目に差し込んでくる強い光によって、無理やり夢の中から引きづり出される。
寝そべった体制から、重い瞼を下ろしたまま勢いよく頭を前に倒して飛び起きる。
「もう……まだまだ春休みなんだし、寝かせてくだふぁいよ……」
だが俺の睡眠欲は、起こしにかかっている太陽と思われる光さえも押しのけ、そのままベットに倒れ込む。
と、思い込んでいた。
「――った!?」
俺が後ろに倒れ込むと、柔らかい枕が迎えこんでくれる。
と思いきや、後頭部に鈍い痛みが走ったのだった。
「え、え……? ベットだよな……?」
後頭部を擦りながら、柔らかさとは程遠い硬い地面だったことに驚く。
慌てて立ち上がり、俺の寝転がっていた地面を覗き込むと、更なる驚きが待ち受けていた。
「なにこれ、砂利?」
そこには、淡い薄橙色の土の上に砂利が軽く引かれた道があった。
「俺はここで寝てたのか……? というか、そもそもここ何処やねん!?」
地面から、視線を周りの土地に移動させる。
先程の道は、車が一台通れる程の幅であり、更に奥へと一直線に続いていた。
その道の両端には、一段低い場所に何も作物の育てられていない畑のようなものがあり、それもまた、はるか遠くまで広がっていた。
「要するに、畑のど真ん中……いや、見慣れたド田舎ってことか」
もう一度深く見渡してみると、俺の住んでいる地域で見慣れたような光景だということに気がついた。
だが、畑の土は色あせており、長年使われていないようだった。
更には、草一本すら生えていない。
「何か変やな……というか、段々状況を把握してきたことで、めちゃんこ怖くなってきた」
ある程度の状況を把握し、次に自身の状態を考えてみると、意味がわからなくなってくる。
もしかして、誘拐されたりしたのか?
いや、仮にそうだとしても、こんな場所に放置する訳ないな。
ますます謎が深まる中、俺は今までとは比にならないほどの衝撃を与えるものを見てしまった。
俺はあまりの驚きに、声すら出なくなってしまった。
まさにこれこそ文字通り、言葉を失うということなのだろう。
目線を真上に移動すると、そこには見たこともないような、『紅い空』が果てしなく続いていたのだった。
紅い空……いや、真紅に染まった世界とでも言うべきか。
何だか厨二病みたいになってしまっているが、この光景を見てしまえば、それ以外の言葉は出てこないと思った。
夕暮れの空とは比にならないほど濃く、そして、何か禍々しさを見て感じとれる。
「ここは本当に日本……いや、地球なのか?」
しばらく呆気を取られて紅い空を見ていると、甲高くて不快な鳴き声を降り注いで飛んでいる、コウモリのような生物をも確認できてしまった。
「俺何気にコウモリ初めて見たかも……」
しばらくの間、脳が活動を停止したのち、俺はハッと我に返った。
「これって、地球滅亡の瞬間だったりする?」
俺の脳裏に一瞬だけそのようなSF思考が過ぎったが、生憎ここは現実。
棒立ちしている訳にもいかないので何かしたいところだが――
「いや、とにもかくにもだ。何にせよ、俺が意識を失って、ここで寝ていたまでにあったことを思い出すんだ」
やっと、進展がありそうな議題へと、頭の中での討論の末辿り着く。
「まずは、俺自身のことだよな」
俺は、『星島創』。十五歳で、高校受験が終わった春休みに、うぇーいってなっていたはずの男だ。
「良かった、記憶喪失とかは流石に大丈夫だったみたいだ」
実は記憶喪失で、彷徨ってました☆
……とかいう落ちだったら、一番つまんない展開だった。
いや、いっその事その展開だった方が楽だったかもしれないが。
「というか、俺はなぜこのテーマ服を着ているのだ……?」
俺は今、テーマ服こと、ヒヨコの鶏冠がフードに付いている、真っ黄色のパーカーを身につけていた。
そして、少しダボッとしたジーパンに、革製の大きなブーツを履いている。
「俺がみんなと遊びに行く時に着る、いつもの格好だな。……でも、俺愛用のショルダーバッグは何処へ?」
『みんな』というのは、俺が小学生の頃から仲のいい、男女九人のグループ――
通称『ムイトズ』という軍団のことだ。
確か、直近もアイツらと遊んでいた気がしなくもないが……。
「んー、何か頭が混乱してるみたいで、直前のこととかが一切思い出せない……」
一週間前のこととかは容易に思い出せるのに、なぜか昨日や一昨日となると、頭からすっぽり抜け落ちているかのように思い出せない。
「うーむ。色々と考えてみたものの、何の成果も得られませんでしたなぁ」
結局紅い空のことや、この場所のこと、俺自身に何が起こったのかすら掴むことはできなかった。
「強いて言うなら、直前にムイトズで遊んでいたことぐらいだな」
俺は自身の服装を鑑みて、ヤツらと遊んでいた可能性が高いと推測していた。
理由は簡単だ。
このテーマ服こと、ヒヨコのパーカーは、ムイトズでの遊びの時しか基本着ないからだ。
「結局、俺の足で情報を集めないといけなくなったってことか……」
何だか、ゲームやら漫画やらでありそうな展開になってしまった。
だが、一度こんな風な体験をしてみたいとも思ってた自分がいた。
正直、恐怖心と好奇心が俺の中で競り合っているようだったが、好奇心の圧勝で結末を迎えたようだ。
恐る恐る、俺は、謎の場所での記念すべき第一歩を踏み出したのだった。
「……なんやアレ」
――と、思いきや。
あぜ道の遠くに見える黒い物体が、俺の目に入ってしまったのだった。
優柔不断である俺は少し行くのを躊躇ったが、ともかく情報が欲しかったため、ビクビクしながらもその方向へとかけて行く。
――記念すべき第一歩は呆気なく散ってしまったのだった。
創「――次回予告ぅ!」
創「……あ、なんかすみません。こんな感じのノリなんで、以後お見知り置きを……!」
創「えー、ゲホンゲホン。では改めまして……」
創「次回予告! 見知らぬ畑で目を覚ました俺こと星島創。謎の黒い生命体を見つけ駆け付けるも、彼方まで広がる畑に、突如としてどこかで聞き覚えのあるような女声が響き渡って――」
創「ということで、次回第二話、『黒い生物』!」
創「ブックマークとか、評価ポイントとか、評価ボタンとか……。あ、あとあと感想とか! どっしどしにお待ちしてるらしいですぞー」
創「ってことで、次回もお楽しみに!」