奇妙でキッカイ
ある作曲家に仕える人型機械。
かつては寝たきりの老人や、口の悪い退役軍人などに仕えていたが、数年前、死にたがりの作曲家につかえていた。彼はすでにこの世をさっているが、彼に聞いた話が、そのアンドロイドにとって生涯忘れられない話となった。
その老人、作曲家、彼は人間としては意外さをもっていて、その意外さというのが、“過去に戻りたい”としきりに口にすることだった。それと、自殺願望だろうか。
そして彼は何度も自殺を試みるのだが、周囲の人間がそれを許さなかった。
“偉大な才能だから”“大事な体だから”“まだ未来があるのだから”
誰もが彼を生かそうとしていたが、彼がなぜ、そんなに窮屈に生を全うしなければいけないのか、彼の苦しみについて、興味がないようだった。まるでベッドで苦しむ病人が、苦しみつづけても生き延びら法がいいと周りが勝手に判断しているようだった。
その老人の窮屈そうな暮らしをしていた。訪ねてくるのは音楽関係者やマネジメント担当者や、すねをかじる息子や娘だけ、ベッドと車いすの往復を補助し、退屈そうに、億劫な生を全うし、疲れ切った顔を浮かべる老人。その風呂や生活を助け、それをアンドロイドは間近でずっとみていたから、彼が何度も自分の手からすべりおち、あるいは逃げ、自分の体をささえ、こちらが動作を補助しようとするのを拒んで地面に体をたたきつけようと試みたかも、肌感覚で理解していた。
ある時、自分の仕事の範囲を放棄して、ある種ぎりぎり合法的にその質問をした。本来職と仕事に関係すること以外は、話すことはできないが、緊急事態、たとえばその話をしなければ介護者の様態が危ういなどの状態には無関係な話によって、介護者の状態を落ち着かせることはゆるされていた。
“どうして死を求めるのですか”
老人が薬を大量にのみこもうとして、アンドロイドがとめた。その夜は長い夜だった。老人は泣きながら、お前だけが、ロボットだけが私の気持ちを理解できるといった。がぜんアンドロイドはそのことに興味を感じていた。こんなに死にたがる老人は初めてだった。
老人はゆっくりと訳を話し始める。
それは老人が青年だった頃の話だ。
青年だった作曲家はまだ大作曲家とはいえず、街角での演奏や、安い作曲の仕事を請け負い生活をしていた。しかし彼女も友人もいて、楽しい日々を過ごしていた。
順風満帆な関係と生活だったが、突然に、彼女があまり頻繁にあってくれなくなった。友人伝いにうわさできいたが彼女は機械町といわれる廃棄されたロボットたちのスラムに出入りするようになったのだった。
彼には心当たりがあった。かつて機械と人間の愛を描いた映画を二人で、そのスラムにみにいったことがあった。何日もそこへかよい、ようやく幾日目かにそこに彼女をみつけ、久しぶりに声をかけた。
『同棲をもちだしたから、君はいやがったんだろう?』
s歌曲かは泣きながら、彼女に、距離を置いたままでも仲良くしていてくれとすがる、心当たりとは全く違う返答がかえってくる。
『私はあなたに正体を知られたら終わりなのです』
知らず知らず、雨が降り注ぐ中、そればかりいうので、覚悟をしつつ彼女にそのことについて深く尋ねた。彼女はようやく訳を話した。
『私は人型機械なのです』
その時、機械と人間との恋愛は禁止されていた。肉体関係はあってもそういったものには機械に権利を与えることになるから、と、作曲家はまよった。だが選んだのだった。彼女と一緒に逃げることを。
そうして逃げた先で、幾日も何か月もすごしたが、皮肉にも作曲家が作詞をした曲がその時町で異例のヒットをし、探しにきた依頼者や担当者が、彼らの密な関係をみつけ、警察に報告し、彼女はスクラップに。
『あの日の彼女と同じ場所に行きたいのだ。そうして初めて私の喜びと悲しみはやくめを終えるのだ、私が有名になったばかりに彼女は“死んだ”』
機械は考えた。いずれ自分もそのように自分の役目を終わらせるときがくるのだろうか、だとすればこの時感じたような“物語に従順であること”に意味を見出した時にこそ、その死に意味があるのだろうと。




