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#3

 狐のロゴのフルフェイスヘルメットと黒いライダースーツに身を包んだデイヴィッドは雑居ビルの屋上にいた。その目は肩身狭そうに建っている向かいの背の低い雑居ビルを鋭く観察していた。

 アンダータウン地区と呼ばれるこの場所は、隣の華やかなオーバータウン地区とは打って変わり寂れた雑居ビルやアパートが立ち並ぶ人気が少ない地区だ。そのため、夜は殺人や内臓目的の誘拐、麻薬売買などの犯罪が頻発している。

 現在の時刻は午前一時ほど。本来であればもっと早く来る予定だったが、ジョンに付き合わされてこの時間になった。

 デイヴィッドが観察している雑居ビルは彼が今まで襲撃し、尋問してきた犯罪者が所属していた組織のアジトだ。尋問の結果、このアジトに部下から”マウス”と呼ばれているボスがいるらしいことが判明した。

 実のところ一人目の尋問でボスの居場所はわかっていた。ならなぜ残り六人も尋問したのか。それは相手を油断させるためだ。

 組織の人間は襲われた構成員に拷問の痕跡があることを知っている。だからもちろん情報を吐いたことを警戒するが、実際アジトは襲われない。毎日別の構成員が拷問を受けてるだけだ。襲われた構成員は全員警察に保護されているため近付くこともできない。

 ビジネスを脅かされている事実は変わらないが、ひとまずアジトの位置はバレていないと錯覚するだろう。事実、二日目には武装した構成員に囲まれていたビルも三日目には警戒が解かれていた。しかも一週間も続けて襲ったことにより、組織は人員を”狐の男”の捜索に割いていてアジトの守りは疎かになっている。それでも十人ほどはいるだろうが。

 デイヴィッドは今いる雑居ビルの屋上から出て、向かいの雑居ビルの裏口へと移動するために路地裏に入る。



 裏口には拳銃を持った見張りが一人いた。デイヴィッドはゴミ箱の影に隠れ、近くにあった空き缶を向かいに投げる。

 カンッという高い音が路地裏に響き渡った。

「?」

 見張りの男は音のした方へと近づいてきた。

 デイヴィッドは男の背後に忍び寄る。背後から右腕を男の右脇腹を通して右肩に置いた状態で男の右腕を自身の右肩に乗せる。その体勢から思いっきり男の肩に体重を乗せることで右肩を外す。あまりの激痛に男は右手に持っていた拳銃を落とし悲鳴を上げる。だがデイヴィッドの左手が男の口を塞いだことによりその絶叫が建物の中の人間に聞こえることはなかった。

 デイヴィッドは右腕を解き、すかさず男の首を締める。しばらくして男は意識を失った。


 デイヴィッドは裏口の前に立ち、静かに扉を開いた。狭い通路には誰もいないが、左手前と右奥にある二つの扉からは人の声がした。

 デイヴィッドは手前の部屋の前で立ち止まり深呼吸をする。そしてドアノブに手をかけて一気に中に入った。


 部屋の中にはデイヴィッドから見て左側に二人、右側に一人の計三人の男がいた。そのうち左手前にいた男がデイヴィッドに殴りかかる。

 デイヴィッドは男の内側に入る。振りかぶった男の右腕を自身の左腕で受け止めながら間髪入れずに右拳で男の顎を砕く。

 その後ろの拳銃を構えた男に向かって目の前にいる意識が朦朧としている男を蹴りつける。拳銃を構えた男は目の前に男がもたれかかったことでバランスを崩して壁にもたれ掛かり、明後日の方向に拳銃を発砲した。

 デイヴィッドはすかさず壁にもたれ掛かった男の顔面に飛び蹴りを食らわせ壁を蹴る要領で背後にいたもう一人の男の顔面に左拳で打撃を与える。その男は猟銃を持ったまま扉に激突し、扉ごと通路に飛び出した。

 デイヴィッドは通路に飛び出した男の意識が消えるまで何度も何度も殴り続ける。


 騒音を聞いて奥の部屋から拳銃と小銃で武装した二人の男が飛び出してきた。

 デイヴィッドは荒い息を吐きながら猟銃を手に持ち、左側の拳銃を持った男に向かって投げつける。顔面に猟銃がクリーンヒットした男は拳銃を落として顔を覆いその場にうずくまる。

 デイヴィッドは小銃を構えた男との距離を前転受け身で詰め急所を蹴り上げる。それと同時に小銃を素早く奪い、男の手の届かないところへ投げた。

 そこにうずくまっていた男が這いつくばった状態でデイヴィッドの両脚を狙う。虚を突かれたデイヴィッドは呆気なく両脚を拘束された。急所を強打した男は根性を振り絞って立ち上がり身動きが取れなくなっているデイヴィッドの脇腹や腹部に数発の打撃を与える。肋骨が折れる鈍い音がした。

 デイヴィッドは痛みに耐えながら両腕でガードの姿勢を取る。そして右脚を力尽くで男の拘束から引き剥がし、顔面に蹴りをお見舞いする。

 両足の拘束が解けたデイヴィッドは急所を強打した男の右手首を掴み捻った。あまりの激痛に男は膝を床に着いて身動きが取れなくなる。手首を捻り続けた状態でデイヴィッドは男の右側に移動し、後ろから男の右肩を掴むと、男の肘に向けて外側から思いっきり膝蹴を食らわせて腕を折った。

 男の絶叫が建物全体に響き渡る。


 それと同時に背後の階段から複数の足音が聞こえる。

 デイヴィッドが振り向くとそこには四人の男がいた。狭い通路だと銃は扱いづらいと思ったのか手にはナイフが握られている。

「はぁ、はぁ、……さっさと来い」

 デイヴィッドが息も絶え絶えにそう言った直後、手前の男が右手に持ったナイフを勢いよく突き出して飛び掛かった。

 デイヴィッドはそれを外側に避けつつ左右の拳で男の右脇腹を一撃づつ交互に打ち、その後右拳で男の顎を砕いた。仕上げに右掌で男の顎を持ち上げつつ左腕で男の頭部を掴み、後頭部を床に激突させる。男は動かなくなった。


 残り三人の男は、消耗していながらもこの一連の動きを五秒足らずで行ったデイヴィッドに戦慄し後ずさる。だが、すぐに気を持ち直して向かってくる。


 一人の男がナイフを振りかぶる。するとデイヴィッドは男の内側に入り込み振りかぶった男の右腕の肩付近を右手、手首辺りを左手で掴んで体重を乗せて、右足で男の右脚を刈ってそのまま後方に倒す。

 次に右側の男がナイフを突き出してくるが、デイヴィッドは難なく避けて左手で男の右手を掴み右側の壁に叩きつける。衝撃で男は右手に持っていたナイフを反射的に手放す。落下したナイフを右手で掴み男の右手の甲から平へと貫いて右側の壁に固定する。右手を貫かれた男の絶叫が響き渡る。

 左側にいたもう一人の男がナイフを勢いよく突いてくる。デイヴィッドは咄嗟に後ろに下がろうとするが壁にぶつかる。デイヴィッドは直前でなんとか右に避けたが疲労が溜まっているため身体の反応が少し遅れてしまい男のナイフが左脇腹を裂いた。痛みを無視して男の急所を蹴り上げ、前屈みになった途端に両手で頭部を掴み顔面に膝蹴を炸裂させる。顔面に膝蹴を受けた男は両手で顔面を覆って後退り向かいの壁にぶつかった。それと同時に三人の中で最初に倒された男が立ち上がってナイフを振りかぶる。デイヴィッドは避けながらもその勢いを相手にそのまま返す形で左掌で男の顎を持ち上げた直後、床に男の後頭部を打ちつけた。

 最後に残ったまだ顔を覆っている男の顎に回し蹴りを放つ。


 全ての敵を倒したデイヴィッドは左脇腹の傷を確認する。出血が止まりそうにない。この傷は考えていたより深刻だった。しかし、まだデイヴィッドの目的は果たされていない。

 デイヴィッドはナイフを一本拾いふらついた足取りで上階に向かった。


 デイヴィッドが三階のある部屋を開けると一人の小太りの男が部屋を拳銃を構えていた。男が反応するよりも早く手に持っていたナイフを男の右肩目掛けて放つ。小太りの男は左手で右肩を押えて拳銃を床に落とした。

 小太りの男が言う。

「どうも無傷じゃすまなかったみてぇだな」

 デイヴィッドは男を無視して言う。

「お前が”マウス”だな。聞きたいことがある。話してもらうぞ」

「お前に話すことなんてねぇ」

 マウスのその言葉を聞いた途端、デイヴィッドはマウスとの距離を一気に詰めの傷口を押しながら言う。

「手負いでもお前を殺すことはできるぞ」

 マウスは苦悶に表情を歪めながらも不敵な笑みを浮かべる。

「お前は絶対に殺さねぇよ」

 その時、遠くから警察車両のサイレンの音が聞こえた。

 デイヴィッドは問う。

「お前の組織はダンベスで最も小さいが腐ってもボスだ。”デューク”の居場所を知ってる。そうだな」

 マウスは笑いながら答える。

「そんなこと知りてぇのか」

徐々に近付くサイレンの音にデイヴィッドは結論を急ぐ。時間がない。

「”デューク”とはいつもどこで会う!早く答えろ!」

 マウスの傷口を押さえるデイヴィッドの手が徐々に力を増していく。

 マウスは苦悶に表情を歪める。先ほどの余裕はもうない。

「知らねぇよ。あいつはその時その時で会う場所を変えやがる」

 サイレンの音がすぐそこまで迫ってきた。しかもこの男から聞き出せる情報は今のところはもう無い。

「クソッ!」

 そう吐き捨ててデイヴィッドはマウスに背を向け部屋を後にしようとする。

「待てよ」

 マウスが呼び止めた。

「お前には感謝してる。俺の組織は遅かれ早かれ消されてた。お前がこうしてくれたおかげで消される前にサツに逮捕されることができる」

「お前、まさかそれを狙って……」

 デイヴィッドの言葉をマウスが遮る。

「おい、俺がまだ話してるだろ?」

 デイヴィッドは不快そうに言う。

「わかった、続きを話せ。時間がない」

 マウスは続ける。

「ここで野垂れ死ななきゃまた会いに来い。そん時はもっと実のある話をしてやるよ」

 デイヴィッドは一度だけ背後を気にした素振りを見せたがすぐに正面を向いて出て行った。

 血の跡だけがデイヴィッドの背後を()けていた。

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