#2
デイヴィッドはすっかり暗くなった夜の街を足早に歩いていた。ミドルタウン地区はダンベスの経済の中心地とまでは行かないものの、バーやパブなどの飲食店が多く立ち並ぶ繁華街だ。週末ということもあって人通りはいつもより多い。
デイヴィッドは”シックスストリート”という看板の店の中に入る。そして、少し背の低い金髪の男の隣のカウンター席にコートを脱いで座った。
金髪の男がグラスを傾けながらデイヴィッドに話しかける。
「随分と寒くなったよな。お前は最近調子どうよ」
「最近って言っても前に会ったのは一週間前だろ」
そう言いデイヴィッドはバーテンにノンアルコールカクテルを頼んだ。
金髪の男は何かを待っているかのような視線をデイヴィッドに向ける。デイヴィッドはため息を吐きながらその期待に応えることにした。
「ジョンは最近どうなんだ」
ジョンと呼ばれた男は待っていたと言わんばかりのテンションで一週間の近況を報告し始めた。
「よくぞ聞いてくれた兄弟。前に話した娘のことは覚えてるな」
「ジェシーだっけ?」
「そう、あのジェシーだ」
あの、とか言われてもデイヴィッドは知らないのだがそれを知っててあえて言ってるのはわかっていたので特に反応しなかった。
ジョンは続ける。
「俺はついに、明日ジェシーとデートすることになった!」
「やったなジョン!ようやくお前の魅力に気付いてくれる女性と巡り合ったかもしれないのか!」
デイヴィッドの言葉に少しテンションを下げて答える。
「”ようやく”と”かも”は余計だけどな。まぁ、俺はやったぞ!ってことだ。以上」
「カレンには報告したのか?」
「言ってない。まだデートするってだけだし、カレンは最近忙しいみたいだから。ほら、例の”ヒーロー”の件で」
それを聞いてデイヴィッドは納得する。カレンはそれなりに大きいニュースメディアでネット記者をしているのだ。先週も七時に三人で会う約束していたが、”狐のヘルメットの男”の件があって急に来れなくなった。今日も誘ってはみたが、忙しいから来れないとのことだった。
デイヴィッドは差し出されたノンアルコールカクテルのグラスを傾けながら呟く。
「”ヒーロー”ねぇ」
その呟きを聞いたジョンが言う。
「お前も狐ヘルメットは犯罪者だって口か?」
「いや、別に。ジョンはどう思ってるんだ?」
ジョンはあまり間をおかずに答える。
「俺はかっこいいと思うぜ。だって一週間で警察が手出しできなかった組織の犯罪者を七人も懲らしめたんだぞ」
「警察も日々市民の役に立ってるんじゃないのか?」
デイヴィッドの言葉を受けジョンはすぐさま言った。
「警察を批判したいんじゃない。警察は必要だからな。俺も”狐のヘルメットの男”は犯罪者だ、と主張する警察は正しいと思う」
でも、と付け加えてジョンは続きを話す。
「この街には法もいとわないクライムファイターが必要なんだよ。それが”残虐な自警団”か”正義のヒーロー”かはどっちでも良い」
少しの沈黙の後ジョンは口を開く。
「あぁ、やめだやめ!この話はもうやめようぜ。そんなことより今日は俺の奢りだ。ジャンジャン飲めよ」
ジョンはバーテンを呼び、同じものをもう一杯頼んだ。そして勝手にデイヴィッドの分も頼む。
「おい、俺はこの後用事が……」
ジョンはデイヴィッドの言葉を聞く気もないように鼻歌を歌っている。
デイヴィッドは薄く微笑んでため息を吐いた。
「わかったよ。でもアルコールはダメだ」
そう言いデイヴィッドはバーテンにノンアルコールカクテルをもう一杯頼んだ。