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第九話 開かれた闇の扉

*そして次の日の朝



「おはよう! みんなよく休めたかしら?」


テーブルに座っている三人を見て、エリーゼが声をかけました。


「あ、あの・・・・。母ちゃん・・・・」


「あら、どうしたのシルバー?」


「実はオレ・・・・。た、旅に出ようと思っているんだ」


「ええ、知っているわ。昨日フレディアちゃんから聞いたもの」


「えっ?!」


「あわわわ・・・・」


フレディアは慌ててエリーゼの後ろに隠れました。


「行ってもいいのかい?母ちゃん」


「どうせ止めても聞かないんでしょ?

でも、約束して。決して無茶はしないと」


「それからシルバー・・・。

何か困った事が起きた時は、この手紙をパジャームの“クルーガ”という人に渡しなさい。

きっと力になってくれるわ」


そう言うと、エリーゼはシルバーに手紙を渡しました。


「分かった!パジャームのクルーガだね!」


受け取った手紙をシルバーが袋にしまうのを見届けたエリーゼは、最後にこう言いました。


「シルバー。 ソフィアちゃんを守ってあげるのよ!」


「フレディアちゃん。

ここはあなたのお家ですからね、いつでも帰ってきなさいね」


「はーい!!」


元気よく答えるフレディアの声を合図に、シルバーが号令をかけました。


「よーし!!パジャームへ向けて出発だ!!」



村の入り口でフォークと合流したシルバー達は、まずは海辺の町プクプクへ向かいます。

その途中、峠にあるレイピアの遺跡を探索する事にした一行は、そこで“赤い結晶石”を手に入れる事が出来ました。

思ってもみない成果を上げ、幸先の良いスタートを切った一行ですが、この後とんでもない出来事に遭遇する事になります。


険しい峠を抜けて、眼下に美しい海とプクプクの町が見える所まで来た時でした。

ゴーーーッ!という地鳴りのあと、大きな地震が起こったのです。

そして急に空が真っ暗になったかと思うと、雷鳴が三度鳴り響き、そのあと身の毛もよだつ不気味な咆哮が辺りにこだましました。


「な、何だ!今のは?!」


シルバーはあまりの出来事に、理解が及ばない様子です。


「地震の後、空が真っ暗になって・・・」


ソフィアも、必死に事態を整理しようと試みます。

でも、フレディアはしっかりと見ていました。


「わたし見ちゃった!何か得体の知れない物が、空に向かって無数に飛び出して行くのを!!」


「あれはパジャームの方角だ!!まさかエルサラームの“闇の扉”が開いたんじゃ・・・」


フォークの言う闇の扉とは、異次元にある魔物の住む世界と、人間の住む世界とを繋ぐ扉の事で、3000年前に起こった大いなる厄災を意味します。


「よし、オレは先の様子を探ってくる!!お前たちは町の宿屋で待っていてくれ!」


「お、おい!フォーク!!一人じゃ危ないぜ!!」


シルバーが止める間もなく、フォークは一目散に走って行きました。


「まったくしょーがないな・・・。言われた通り、町で待機しているか・・・」



プクプクの町へ着くと、町の入り口に立っていた案内役の看板娘が、慌ててシルバー達に話し掛けて来ました。


「な、な、何なの? あなたも見たでしょ?アレ!!

あ!ご、ごめんなさい。 海辺の町プクプクへようこそ!

は~・・・。しかし一体あれは・・・」


あまりの驚きに、町の案内どころではありません。


宿屋の前に立っていたピンク色の髪をしたハデハデなおばちゃんも、シルバー達を見ると慌てて話しかけて来ました。


「ね、ね!今の見たでしょ?! じ、事件だわ!!

ウオーターフォールに住んでいるお姉ちゃんに教えてあげなくちゃ!!」


道具屋のおばちゃんも、シルバーたちを呼び止め、話し掛けてきました。


「いま、何か変なモノが空に飛んでったね!?

あなた達も見たでしょ?」


家の前で遊んでいた小さな女の子と男の子の姉弟は、怖がって泣き出しそうになっていました。


「しゅ、しゅごい・・・。オシッコちびりそう・・・」


「こ、こわいよ~。おがあぢゃ~ん」


男の子はすでに泣き出しているようです。


他の町の人たちもみな外に出て、南の空を眺めていました。

そんな人たちへ、フレディアは嬉しそうに片つ端から声を掛けて行きます。


浜辺にいた年老いたお婆さんは、険しい顔をしてフレディアに話してくれました。


「これはきっとエルサラームの扉が開いたんじゃよ。

最近、この国は悪いことばかり起こっているからね・・・。

むかし、王様とケンカして国を出て行った王子様さえおれば、こんな事にはならなかったろうに・・・」


武器屋のおやじさんは、さらに物騒なことを言っています。


「おい、おい・・・。

ブランデールの王様と、息子の王子が戦争をおっぱじめたって聞いたけど・・・。

あれがそうかい?」


なにやらとても危険な話題ですが、パブのお姉さんもこんな事を言っています。


「ブランデールの王位継承が原因で、戦争が始まりそうだって聞いたけど、あれはちょっと違うような気がするわ・・・」


さらにパブのマスターまでもが・・・。


「ひや~っ!一体どうなってんだ?あれはパジャームの方角だよな・・・。

ブランデールの王子がどこかの村を攻め滅ぼしたって聞いたけど、今度はパジャームの街を襲ったのか?」


など、など・・・。

これからブランデールへ行こうとしているシルバーにとって、この話は穏やかではありません。父親が帰って来ないのは、これらの事件に巻き込まれたからではないかと、とても心配になってきました。

ソフィアも険しい顔つきで話を聞いています。

どうやら幻の宮殿だけではなく、これから行く先では、何やら想像を超える大変な事が起こっているようです。


そんな危なっかしい世情の中でも、お構いなしに商売に励んでいる者もいました。

シルバーたちが大きなテントの前を通った時、入り口に立っていたしょうちゃん帽をかぶった若い男が声を掛けて来たのです。


「いらっしゃい! あんたトレジャーハンターだね?

ここはトレジャーハンター専門の店さ!

すごいアイテムがあるから、ちょっと見てってくれよ!」


その男の勧めで、シルバーはちょっと中をのぞいてみる事にしました。


テントの中には大きなテーブルが置かれ、その上には色とりどりのアクセアリー類や変わった色の石などが陳列されており、テーブルの前には顔に赤と青のラインを入れた男が立っていました。

顔に入れたラインは、ファッションなのか?それともどこか辺境の地の風習なのかは分かりませんが、ともかく巨体の屈強そうな男です。


「いらっしゃい!

お!あんたトレジャーハンターだね?しかもやり手の!

いや、いや、謙遜しなくてもいいぜ。俺くらいになると、見ただけで直ぐ分かる!!」


「え? そ、そうかな~。

オレってそんな風に見えるのかな~。 は、は、は・・・」


そう言われてちょっと嬉しそうなシルバーを、ソフィアは心配そうに見ています。


「実は・・・。

兄ちゃんのようなすごいトレジャーハンターのために、とっておきのお宝を取ってあるんだよ・・・」


「どうだい、見たいだろ?」


①はい

②いいえ


②を選択しました。


「い、いや、別にそこまで・・・」


「おい、おい・・・。悲しいこと言うなよ、兄ちゃん。

小物じゃあるまいし・・・」


「じゃ、じゃあ、見るだけなら・・・」


少しは警戒してみせたシルバーですが、田舎の青年らしく素直に答えます。


「そうだろ、そうだろ!

何しろ、これは誰にでも見せられる物じゃねえ!

俺の目にかなった大物だけにしか見せられねえんだからな!!」


シルバーは少し顔を赤くして照れています。

それを見たソフィアは、彼の純粋さを少し危ぶんでいるように見えます。


心の中で(シルバーって、ほんと田舎者丸出しなんだから・・・)とか、けして思っている訳ではありません。 多分・・・。


①を選択しました。


「じゃあ、見てくれ! これだ・・・」


「え!そ、それって紫の結晶石?」


驚いて声を出したのはソフィアでした。


「お!姉ちゃんよく知っているじゃねえか!!

さすがは俺の見込んだトレジャーハンターだぜ!!」


「これはよ・・・・。

何と!砂漠に突然現れたエルサラーム宮殿の中で見つけた、極上のお宝なんだぜ!!」


「へえー! すげえな・・・」


シルバーは本気で驚いています。


「すげえだろ!!

本当はこの結晶石を使って、世界中の遺跡を探索するのが俺の夢だったんだがよ・・・。

ちょっと体を壊しちまってな・・・。

それで、こいつを使って俺の果たせなかった夢を叶えてくれる、大物のトレジャーハンターが現れるまで、大事に、大事に取っておいたのよ!!」


「どうだ!兄ちゃん!!

この紫の結晶石・・・。特別に10万ゴールドで譲ってやるぜ!!」


「えっ!オ、オレそんな大金持ってないよ。

それに紫の結晶石なら、もう持っているしさ」


「な、なんだぁ?もう持っているだって?!

は、は、は・・・。兄ちゃん、冗談がうまいな!!」


「よし!特別に5万ゴールドにまけてやるよ!!

それくらいなら持っているんだろ?」


「い、いや・・・。

実は、これだけしか持っていないんだ・・・」


シルバーは全財産の5000ゴールドを見せました。


「な、なんだぁ?たったこれだけかよ。

しょーがねえな・・・。

女の子を二人も連れているから金持ちかと思ったのに・・・」


男はちょっとがっかりしている様子で、顔のラインがへの字になっています。


「まいったな・・・。

じゃあ、それだけでいいよ・・・」


「い、いや、それが・・・。

宿にも泊まんなきゃいけないし・・・。全部無くなると困るんだよ」


「かーっ!まいったな~。

仕方ねえな~。宿代の200ゴールドだけ残しておいてやるよ」


「は、は・・・。わ、わりいな・・・」


「じゃあ、これ持って行きな!」


シルバーは代金と引き換えに紫の結晶石を受け取りました。


「それを使ってガンガンお宝をゲットするんだぜ!!」


男はそう言ってシルバーの肩を叩くと、さっさと店の外に送り出しました。



「やったー!お兄ちゃん、安く買えてよかったね!」


フレディアは大喜びしています。

けどソフィアは、ちょっと困った顔をしてシルバーに言いました。


「ねえシルバー・・・。

どうして紫の結晶石を買っちゃったの?」


「え?! い、いや、つい言葉に乗せられちゃって・・・。

ご、ごめん・・・」


「でもソフィア!すっごく安くしてもらったんだよ!

本当は10万ゴールドもするんだからね!!」


「だから怪しいのよ」


「????」


フレディアは、ソフィアの言っている意味がよく分からないようですね。

だけどシルバーは、そう言われて反省しきりです・・・。


「は、は・・・。 や、やっぱり・・・」


「とにかく、一旦宿屋さんへ行きましょう。

フォークが偵察から戻っているかも知れないし」


しょんぼりしているシルバーを見て、ソフィアもちょっと可哀そうに思ったのでしょう。

それ以上言うのをやめました。


「わたし、お腹がすいたー」


フレディアは、相変わらずマイペースです。

けど、そのおかげで険悪な雰囲気にならずに済みました。


「そうだな、宿屋へ行くか」


シルバーの言葉に、ソフィアも笑顔で頷いています。




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