第八話 幻の宮殿 エルサラーム
*今から三か月ほど前。
砂漠の街パジャームにある盗賊団のアジトに、三人の男が集まっていました。
一人は頭にターバンを巻いた男で、もうひとりはスキンヘッドの男。そしてフォークと、いずれもみんな一癖ありそうな男ばかりです。
「ふぁ~。こう毎日毎日砂嵐じゃ、俺たちどろぼうの商売あがったりだぜ・・・なぁ、おい!」
大きなあくびをしながら、スキンヘッドの男がボヤいています。
「まったくだ!今日で8日目だぜ!8日目!!
外はこの街始まって以来のひでえ砂嵐で、どこから地面で、どこから空なのか、分かったもんじゃねえ。天と地が一つになるって、まさにこの事だぜ!」
頭にターバンを巻いた男がスキンヘッドの男に答えています。
「まったく、おまんまの食い上げだぜ・・・」
そうボヤく盗賊団のアジトに、赤い髪をした仲間が勢いよく駆けこんで来ました。
「た、た、た、たいへんだーー!!」
「す、砂嵐が・・・・・。 はぁ、はぁ・・・・。
お、おさまった!!」
「おめえ、何そんなに慌ててんだ? そりゃ、けっこうな話じゃねえか」
スキンヘッドの男が邪魔くさそうに答えます。
「ち、違う! き、宮殿が・・・・。 宮殿が現れたんだ!!」
「はぁ?おめえ何言ってんだ?」
ターバンの男は意味が分からず、その男に問いただしました。
「ぜー、ぜー・・・・。
こ、この砂嵐で砂漠の地形が変わってしまったんだ!!
いままで砂に埋もれていた遺跡が出て来たんだよ!!」
「ほ、本当かよ?!」
それまで話を聞き流していたスキンヘッドの男とターバンの男が、慌てて男に駆け寄ります。
「本当だ!疑うなら自分の目で確かめてみな!」
「お、おい!こりゃきっと、すっげえお宝が眠っているぞ!!」
俄然やる気を出す男たち。
「よし!さっそく仕事に行こうぜ!!」
そう言うと三人は急いで走り出しました。
「お、おい! お頭の留守中に勝手な事するとヤバイぜ!!」
フォークが三人を引き留めようとしましたが、三人は聞く耳を持ちません。
「な~に、お宝をがっぽり持ち帰えりゃ、お頭も文句は言わねえよ!」
フォークにそう言うと、大急ぎで出て行きました。
「お、おい・・・。 オレは知らねえぞ!」
*それから二日後
「た、たた、大変だ!!」
アジトに赤い髪をした男と、ターバンを巻いた男が帰って来ました。
「おい!どうしたんだ!!お前ら、ひでえ怪我してるじゃねえか!?
宮殿で何があったんだ?!」
フォークは、驚いて聞きました。
「あの宮殿の中はトラップだらけだぜ!
あちこちに罠が仕掛けられているんだ! せっかくの財宝を目の前にしながら、危なくて手が出せねえんだ・・・」
「それで命からがら逃げてきたって訳か?で、もう一人の野郎はどうしたんだ?」
フォークは一緒に出て行ったスキンヘッドの男の事を聞きました。
「あ、あの野郎!俺たちを裏切りやがったぜ!!」
「やっとの思いで手に入れた、”青い結晶石”を奪ってトンズラしやがったんだ」
「な、なにー!!」
***
「・・・・とまぁ、こんな具合だ。
今は国が管理していて、この宮殿に立ち入る事は出来ねえけどよ、こんなおいしい話をオレたち墓どろぼうが指をくわえて見ている訳がねえ・・・」
「これ以上は企業秘密ってやつで、お前たちには話せねえけど、お頭は宮殿に侵入するうまい方法を考え付いたらしいんだ・・・。
それには、この緑の結晶石が必要ってわけさ!」
「ふ~ん・・・。じゃあ、その盗まれた青い結晶石って、まだ見つかっていないの?」
フレディアは綺麗な結晶石が気になるようです。
「ああ・・・。そう言う訳だ。
で、お前たちどうするんだ?オレはもう用が済んだから、そろそろパジャームへ帰るけど?」
「わたしも行くわ。いつまでもシルバーの所に迷惑をかけていられないもの・・・」
ソフィアは、シルバーの家にお世話になっている事を気にしているようです。
「よし!オレもブランデールへ行くよ!!
父ちゃんの失踪と、エルサラームの出現・・・。なんかすごく嫌な予感がするんだ!」
シルバーも決心したようです。
「お兄ちゃんが行くなら、わたしも行く!!」
元気よく答えるフレディアですが、どうやら楽しそうだからついて行くようですね。
けど、フォークは大喜びで飛び跳ねています。
「え!! フレディアちゃんも来るの?!」
(やったぜ!!)
「よ、よし! じゃあ、明日の朝出発だ!!
オレは村の入り口で待っているぜ! そんじゃあな!!」
そう言うと、フォークは張り切って帰って行きました。
そしてフォークが部屋を出て行くと同時に、ソフィアがシルバーのそばに歩み寄ります。
「あ、あの・・・シルバー。じ、実はわたし・・・。」
その様子を見て、驚いて飛び跳ねたのはフレディアです。
「あわわ・・・・。
た、たいへん!!こ、この雰囲気はきっと愛の告白ね!!」
突然の事にどうしていいのか分からず、その場でクルクルと回るフレディア。
「ど、どうしょう!
お、落ち着くのよフレディア!!」
そう自分に言い聞かせると、、二人の邪魔にならないよう、部屋の隅までササッと移動しました。
「あなたに見せたい物があるの・・・・」
「オレに見せたい物?」
そう言うとソフィアは、ポケットの中にしまっていた物を出しました。
「うわ!! こ、これは結晶石?!
し、しかも紫色の・・・。
ソフィア、これは一体どこで手に入れたの?」
「パパにもらったの。
わたしのパパは、考古学者なの。 エルサラームの研究では、第一人者と言われている・・・」
「あ、それで・・・。
お父さんに会うために、パジャームへ行くんだね?」
「うん・・・。
あ、あのねシルバー。 わたしどろぼうに入られたの、これで二度目なの」
「えっ?!」
「きっとこの結晶石を狙っているんだわ!
だから、私と一緒にいるとあなた達にもきっと迷惑が・・・」
「なんだ、そんな事を気にしているのかい?
オレたちもう仲間なんだぜ!そんな事気にするなって!」
「オレがキミを無事にパジャームまで連れて行ってやるよ!!」
シルバーは胸を叩いて、ソフィアに答えました。
「だけど・・・。この紫の結晶石の事は、フォークにはまだ黙っていた方がよさそうだな」
「シルバー・・・。ありがとう!」
ソフィアは安心したのか、嬉しそうにほほ笑んでいます。
だけどその様子を見たフレディアは、もう黙って見てはいられません。何故か愛のキューピットとしての、天使の使命に火がついたようです。
早とちりでなければ良いのですが・・・。
(もーーーっ!! お兄ちゃんたら・・・・)
(何をもたもたやってんのよ・・・・)
「よ~し!かくなる上は、このフレディアちゃんが、このキューピットの弓矢でピシッ!と決めてあげるわ!!」
フレディアは弓矢を取り出すと、シルバーに向けて構えます。そして矢を放とうとした瞬間、シルバーがフレディアに声を掛けました。
「なぁ、フレディア・・・。
あ、あれ?そんな所で何やってんだい?」
「あわわわ・・・・・」
フレディアは慌ててキューピットの弓矢を後ろに隠しました。
どうやらフレディアは、キューピットの弓矢が人には見えない事を忘れているようです。
「なぁ、フレディア。この事はまだ、母ちゃんには黙っておいてくれよ?」
「きゃはは・・・・。ラ、ラジャー!!」