第七話 結晶石
準備を整えて青年の言っていた場所へ向かうと、すでに洞窟の前で彼は待っていました。
「よお!来たな!オレの名はフォーク!!よろしくな!!」
「よろしくお願いします、フォークさん」
ソフィアが挨拶を返すと、フォークは慌てて言いました。
「おっと!オレにさんはいらねえよ!
フォークと呼んでくれ!その代わりオレもお前たちにさん付けはしないぜ!」
「わかった、オレたちは仲間だ。これからはそう呼ぼう!」
シルバーが三人を代表して答えました。
シルバー達が入った洞窟は、ドルガ遺跡と呼ばれる所です。
洞窟や遺跡と呼ばれる場所は、魔物が棲み処にしていたり、侵入者を防ぐ罠が仕掛けられている事が多く、普通の人は怖がって寄り付きません。
シルバーも遺跡の探索は初めてでしたが、今回はお宝探しのスペシャリストであるフォークが一緒です。
ガレキや岩などの障害物を爆弾で排除したり、普通の人では見逃す隠し部屋や階段をポンポンと見つけ出し、探索を始めてわずか五日でお目当てのお宝、”緑の結晶石”を手に入れる事が出来ました。
「やっほー!やったぜ!ついにお宝を見つけたぞ!!
へっ、へっ、へっ・・・。オレはこいつを探してしたのさ!!」
「緑色した結晶石? ね、ねえ、フォーク。いったいその緑の結晶石ってどんな宝物なの?
高価な宝石なんかには見えないんだけど・・・」
ソフィアは緑の結晶石が気になるようで、フォークに尋ねました。
「は、は、は・・・。これは宝石なんかじゃないよ。
これは”カギ”みたいなものさ。
まぁ、ここじゃあ何だから、村に帰ったら教えてやるよ!行こうぜ!!」
***
そのころ神様たちは、技術と創作の神様の家で将棋に熱中しておりました。
「う~む・・・・。こ、これは手厳しい・・・。そりゃ!これでどうじゃ!!」
技術と創作の神様が、気合で攻め込みます。
「む、む・・・。お、おぬし、やるのう・・・。
とりゃ! ふぁ、ふぁ、ふぁ・・・。これでどうじゃ!」
恋を取り持つ神様も負けてはおりません。
「う~む・・・。み、みごとじゃ・・・。で、ではこれでどうじゃ!!」
再び技術と創作の神様の攻撃です。
「む、む!!何と!その手があったか?!う~~む・・・」
白熱した戦いが続いています。
そこへ、恋を取り持つ神様の元で修業している、天使のオリビアがドカドカと入って来ました。
ドタ、ドタ、ドタ・・・・。
「神様!!神様――!!」
「わ、わ、わ!! こ、こりゃー!!」
技術と創作の神様は慌てて将棋の盤を押えますが、すでに手遅れでした。
「ば、ばっかもーん!! ドタバタ走るから、や、山が崩れてしもうたではないかー!!」
恋を取り持つ神様が、大声で怒鳴りました。
だけどオリビアは、そんな事にはまったく動じません。
「な~んや・・・。えらい帰ってこえへんと思ったら。
将棋で”山くずし”して遊んでたんかいな・・・」
「ば、ばっかも~ん! あ、遊びとはなんじゃ!遊びとは!!」
「そうじゃ、そうじゃ! これは遊びではないぞ!! これは修行の一貫じゃ!!」
技術と創作の神様と、恋を取り持つ神様は、顔を真っ赤にして怒鳴ります。
「や、山くずしとバカにするでない!! いかに音を立てずに駒を取るか・・・。
位置、角度、ちから加減・・・。そしてその一瞬の集中力と判断力!!
これは遊びではなく鍛錬じゃ!!」
恋を取り持つ神様は、オリビアに向かって持論を展開しています。
「そうじゃ、そうじゃ!まだおぬしの様なひよっこに、理解できる領域ではないわい!」
技術と創作の神様もグダグダと文句を言っています。よほどの好勝負だったのでしょう。
そんな神様たちを、何故かジトッとした目で見る天使のオリビア。天使としての経験が豊富なベテランの貫禄・・・とでもいうのでしょうか?神様の文句など何とも思っていません。
「ふ~~~ん・・・・。 ほんまかいな?
まぁ、そんなんどうでもええねんけど」
「神様、わたしのキューピットの弓矢を知らへん?
どこ探しても見当たらへんねんけど・・・」
「何じゃと?キューピットの弓矢がなくなったじゃと?
バカモン!な、なんでわしが・・・」
と、そこまで言いかけた恋をとりもつ神様でしたが・・・。
「あぁ! し、しもうた!! フレディアに持たせたままじゃった!!」
「あっちゃー! 大丈夫かいな・・・。あの子にそんなもん持たせたままで・・・」
呆れた顔で神様たちを見下ろすオリビア。
二人の神様は、ばつが悪そうに、黙々と将棋の駒を拾い始めました・・・。
*シルバーの家(二階)
「教えてくれフォーク。緑の結晶石とは一体何なんだ?」
シルバーがフォークに説明を求めました。
フォークはそれに答えます。
「古代遺跡の重要なお宝のある部屋には、必ず扉にカギがかかっている。
だが、カギ穴はねえ。普通のカギで開けるんじゃねえんだ」
「扉にはこの結晶石をはめ込むようになっていて、そこにこいつを取り付け、外から光を当ててやると、扉の中に設置されたセンサーが働き、扉が開く仕掛けになっているのさ」
「それは、どの結晶石でも開くの?」
ソフィアが訊ねました。
「いや、扉によって結晶石の色が決まっているんだ。
赤い結晶石の扉に、違う色の結晶石を取り付けても扉は開かない。
光の角度や、色調が違うと開かない仕掛けになっているようだ。
まったく良く出来ているぜ!古代人の知恵ってやつだな・・・」
「じゃぁ、いろんな色の結晶石があるのね?」
「いや、まだ二種類しか確認されていない!ほとんどの場合、赤い結晶石が使われているんだ」
「だから、この緑の結晶石はすっげえ貴重なんだ!
以前この色の扉が開かれた遺跡には、国宝級のお宝があったんだぜ!!」
「えっ!そ、そうなの? 赤と、緑だけ・・・」
ソフィアは驚いたような仕草で、ポケットの中に手を入れました。
「じゃあ、フォークはこれですごいお金持ちになれるのね?よかったね!」
フレディアは、楽しそうにフォークに言います。
「は、は、は・・・。いや、実はこれはオレのじゃねえんだ!
オレはお頭の命令でこいつを手に入れただけさ!」
「みんな、パジャームの砂漠に現れた”幻の宮殿”の話は知っているよな?」
「一か月以上前に突然砂漠に現れた、幻の宮殿”エルサラーム”ね?!」
フォークの問いに、ソフィアが真っ先に口を開きました。
「えっ? オ、オレ知らないよ・・・」
「あー!! わたしも知らな~い!」
シルバーとフレディアは知らなかったようです。
「ま、まじかよ?」
いま世間で大騒ぎになっている話題を知らないなんて、これにはフォークもびっくりです。
「じゃあ、わたしが説明してあげる」
驚くフォークに代わり、ソフィアが説明を買って出ました。
天と地がひとつに交わり、七つ目の太陽が沈むとき、いにしえの闇の扉は開かれん。
世界が闇につつまれし時、虹を駆ける銀嶺の覇者現れ、その闇をはらわん・・・。
「これはアルドスという予言者が唱えた、3000年前に現れて災いをもたらした幻の宮殿エルサラームが、再び現れるという予言の言葉なんだけど・・・」
「誰も本気で信じていなかったのよ・・・。
ところがブランデール城のお抱えの賢者ガウスという人が、この予言を的中させたの!
時と場所もピッタリとね。
それで、いまこの宮殿は国が管理していて、これが本当に幻の宮殿エルサラームなのかどうか・・・。世界中から集められた考古学者たちが調査しているのよ」
「おわっ! よく知ってんだなーソフィアは?!」
「え、ええ・・・。まぁ・・・ね!」
「へっ、へっ、へっ・・・。 しかしまぁ、ここまでは一般の人が知りうる範囲でよ・・・」
「実はここだけの話だけどよ。
国の調査隊が入る前に、オレたちの仲間がこの宮殿に忍び込んでいるんだ!」
「ええー!!」
驚くシルバーたちを前に、フォークはその時の様子を話してくれました・・・。