第六話 事件発生!
*翌朝
トン、トン、トン・・・と、台所で包丁を使う音がして、フレディアは目が覚めました。
そして目が覚めると、すぐにエリーゼの所へ走って行きます。
「あら、おはようフレディアちゃん。昨日はよく眠れたかしら?
悪いけどお兄ちゃんを起してきてくれない?」
「ラジャー!!」
フレディアは大急ぎで二階に駆け上がり、シルバーを起こしました。
「う~ん・・・。もう朝か~」
「お兄ちゃん!早く起きて!ソフィアの所に遊びに行こうよ!」
「あ、そうか・・・。ふぁ~・・・。じゃあ、行くか!」
「もうすぐ朝ごはんですよ。それまでに帰って来てね」
出かける二人に、エリーゼが声を掛けます。
シルバーの家と、村の宿屋はほんの目と鼻の先でした。
フレディアがうるさく言うので、ちょっとだけ顔を出すつもりで家を出たのですが、この日はいつもの朝とはちょっと様子が違っていました。
なにやら宿屋の方が騒がしいようです・・・。
宿屋に近づくと、村のおばちゃんがシルバーに話しかけてきました。
「ちょっと、ちょっと、聞いた?宿屋にどろぼうが入ったそうよ!」
「えっ?! どろぼう?」
シルバーが驚いていると、うわさ話が大好きな、ピンクの髪が自慢のハデハデなおばちゃんも話に入って来ました。
「何でも旅の女の子の荷物が盗まれたんだって!
この村始まって以来の事件よね!」
「それって、もしかしてソフィアの事じゃ・・・」
二人が急いで駆け付けると、宿屋の入り口でソフィアが駐屯所の兵士と話をしていました。
「また何か気づいた事があれば、駐屯所の方へ連絡しもらえますか?
それではこれで・・・」
帰って行く兵士を見送りながら、ソフィアは考え事をしていました。
(これでどろぼうに入られるの二度目だわ・・・。盗まれなかったのは、ポケットの中に入れていた、パパからもらった“紫の結晶石”だけ・・・)
(はっ!そうだ!!きっと、これを狙っているんだわ・・・。
でも・・・。これはいったい何なのかな?)
「ソフィア、どうしたの?」
「あ、フレディアちゃん。シルバーさんも!」
考え込んでいたソフィアは、フレディアに声を掛けられるまで、二人がいる事にまったく気づきませんでした。
「うん・・・。どろぼうに入られてね、荷物もお金もぜーんぶ取られちゃった・・・。も~最悪!!」
「え~!誰に取られたの?」
フレディアは、どろぼうの意味がよく分からないようで、ソフィアに聞き直しています。
「うふふ・・・。そんなの分かんないよ」
「この村の人は、そんな事しないぜ!」
シルバーはフレディアに教えてあげました。
「じゃあ・・・。村の人以外の人ね?」
フレディアはそう言うと、キョロキョロと周りを見回します。
するとちょうどそこへ、昨日出会った顔に傷のある青年が歩いて来るのが見えました。
「あ!!村の人以外のひと発見!!」
そう言うなり、フレディアは青年の所へ駆けて行きます。
「ねえ、ねえ・・・」
「わわっ!な、なんだ、なんだ!!」
(あ!!昨日のかわいい女の子だ!)
(な、なんだろう・・・ドキ、ドキ・・・)
「あなたどろぼうさん?」
「わわわ・・・。な、何で知ってんだ?!」
「ソフィアのお金取ったの?」
「わわっ!オ、オレはそんな事しねえよ!
オレの盗むのは、ダンジョンのお宝だけだ!人の物は盗まねえよ!!」
そこへ慌ててシルバーとソフィアがやって来ました。
*シルバーの家(二階)
「ごめんね、うたぐって・・・」
フレディアは、青年に謝りました。
「い、いや、別に気にしていないから・・・。
オレけっこう大物だから!は、は、は・・・・・」
(本当は相手がキミじゃなかったら、ボコボコにしていたけどな)
「ところで、災難だったな~。どろぼうに何もかも盗まれちまってよ」
「そうだよな・・・。寝るところはオレの家を使えばいいけど・・・。
お金がなけりゃ、パジャームへ行けないもんな・・・」
シルバーはソフィアに向かって、そう言いました。
ソフィアは本当に困った顔で、頷いています。
その時、顔に傷のある青年が妙案を思いついたらしく、シルバー達に言いました。
「あ!そうだ!!お金儲けの話ならあるぜ!!
実はオレ・・・。この村の近くの遺跡に、あるお宝を手に入れるために来たんだ」
「だけど一人じゃちょっとキツくて、困っていたんだよ・・・。
どうだ?オレの仕事を手伝わないか?」
「オレの欲しいのは、そのお宝だけだ。それ以外に手に入れた宝は、お前たちにやるよ!
それに魔物を倒せばお金が入るし・・・。どうだい?やらねえか?」
この世界では魔物が多く存在しており、またその被害も深刻なものでした。
そのため、魔物を倒すと、国から補助金がもらえるのです。
「ふ~ん・・・。宝探しか・・・。面白そうだな・・・。
よし!オレやるよ!!」
シルバーは真っ先に答えました。
「あ~!わたしも~!!」
もちろん、フレディアも元気よく返事をします。
「ちょ、ちょっと、みんな!それって危険な仕事なんでしょ?
私のために、みんなを危険な目に遭わせる事は出来ないわ!」
ソフィアは慌てて止めようとしました。
だけどそんなソフィアに、シルバーは優しく説明します。
「いや、これはオレ自身のためでもあるんだ。
実はオレも、ブランデールへ行くことに決めたんだ!」
「今度の事件で気づいたんだ。
女の子のソフィアが一人で頑張って旅をしているのに、男のオレがここでウジウジしていちゃダメだってことに・・・」
「母ちゃんには悪いけど、オレやっぱり父ちゃんを捜しに行くよ!
そのためにお金を貯めるんだ!!」
「よし!決定だ!!それじゃあオレは村を出てすぐ東にある洞窟の前で待っているぜ!!じゃあな!!」
そう言うと、青年は部屋を出て行きました。
「よし!じゃあ早速用意をするか!」
シルバーは立ち上がると、自分の部屋の机に向かいました。
「えーっと・・・。確かここに隠しておいた・・・。
あっ!あった、あった」
シルバーが机の引き出しからヘソクリ170ゴールドと、薬草を3つ、爆弾を3つ取り出したところへ、エリーゼが入ってきました。
「あら?もう一人のお友達は帰ったの?」
「あわわ・・・。か、母ちゃん!!」
シルバーは、あわてて爆弾と薬草を元に戻すと、何食わぬ顔でテーブルに戻りました。
「あ、ソフィアちゃん大変だったわね。
落ち着くまで、しばらくここに泊まりなさいね」
「おばさま、ありがとうございます!」
「わーい!ソフィア、今日はわたしと一緒に寝ようね!」
フレディアは大喜びです。
「それじゃ、ごゆっくり」
そう言うとエリーゼは戻って行きました。
「あ~ビックリした!もう少しで母ちゃんに見つかるところだったよ・・・」
シルバーはふ~っ!とため息をつくと、探検の準備を始めました。
ソフィアはすでに旅をしているので、特に改めて行う準備はありません。
彼女はムチを武器に、風の攻撃魔法も使えるのです。もちろん、魔物との戦闘経験も豊富です。
それに比べてシルバーは、戦闘経験は少ないけれど素質は十分に持っています。
武器は剣です。そして魔法は味方単体への回復魔法を使うことが出来ます。
そして、もっか氷の攻撃魔法を練習中。
そしてフレディアは、もちろん天使なので、人が魔法書で覚える魔法とは、けた違いのすごい魔法を持っています。
これから向かう遺跡に巣食う弱い魔物などは、彼女の放つオーラの前に、姿を現す事も出来ないでしょう。
フレディアの武器は弓矢ですが、いま持っているキューピットの弓矢は戦闘向きではないので、新たに購入する必要がありそうです。
そして魔法は、攻撃型の神聖魔法と、味方全員の回復魔法です。
それではここで簡単に、この世界の魔法について説明をしておきましょう。
その起源となったのは、はるか昔の、神話の世界にまでさかのぼる事になります。
その時代、神様同士が二つに分かれて戦っておりました。
闇の神々は、恐ろしい魔物を従え、地上と地下を支配しようと企んでいました。
一方光の神々は、人間に地上の支配を任せ、自分たちは天空でその様子を見守ろうと考えておりました。
ところが闇の神々の力はすさまじく強大だったため、やがて戦況は光の神々にとって不利な状況となって行きました。
そこで光の神々は、自分たちの能力の一部を、人に授ける事にしたのです。
能力を授けるにあたり、神と人は契約を結ぶことになりました。
こうして出来たのが、のちの魔法書と言われています。
また魔法だけでなく、武器や防具、アクセサリーにも神様はその力を注ぎ込みました。
こうして生まれたアイテムは、素晴らしい力を秘めていたので、人々は貴重なお宝として大切に扱ってきたのです。
そして長い戦いの末、ついに闇の神々を異界へと追いやり、やがて地上は人間が支配するようになったのでした。
ただこの戦いから逃れた一部の魔物は、深い森や洞窟に隠れ住み、いまだ生きながらえていますし、魔力の弱い魔物は、異界の隙間からこちらの世界へ来る事が出来るようで、人と魔物との戦いは、まだ完全に終わってはいませんでした。