第五話 エリーゼの想い出
家に着くと、エリーゼが心配して家の前まで出ていました。
「おかえり。帰りが遅いので心配していたのよ。
さあ、お家に入りましょう」
そして食事の後、一向に自分の家に帰らないフレディアを心配し、エリーゼはフレディアに訊ねてみました。
「あの・・・。フレディアちゃん。
フレディアちゃんのお家は、ここから近いのかな?
もうそろそろ帰らないと、お家の方が心配するんじゃ・・・」
「お家はお空の上なの。
でも・・・。翼が無くなったから帰れないの・・・」
「あ・・・。そ、そうなんだ。
フレディアちゃんは天使・・・だったのよね?」
エリーゼは一瞬戸惑った様子でしたが、すぐに気を取り直したようです。
「じゃあ・・・。
こんばんは、おばちゃんとこで寝ちゃう?」
「うん!!」
「じゃあ、眠くなったらおばちゃんに言ってね!」
フレディアは初めての経験で興奮しているのか、ぜんぜん眠くありません。それにすぐに眠ってしまうのはもったいないので、シルバーの部屋に遊びに行きました。だけどシルバーは・・・。
「今日はいろんな事があったな・・・。オレ少し疲れたよ・・・」
そう言うと、アッという間に眠ってしまいました。
仕方なくフレディアはベッドに入ると、早く寝ようと目をつむりましたが、やっぱり眠れなかったので、隣で眠っていたエリーゼに声をかけました。
「眠れないの?じゃあ、少しお話ししましょうか」
「フレディアちゃんは、天使・・・なんでしょう?
どうして地上に降りてきちゃったの?」
「あのね・・・。
恋を取り持つ神様から、愛のキューピットのお仕事を頼まれたの。
だけど、そこでちょ~っとだけ失敗して・・・」
フレディアは、自分がキューピットになった時の出来事をエリーゼに話して聞かせました。
「まぁ・・・・。うふふ・・・。
面白いわね、フレディアちゃんって」
「お母ちゃん・・・。
お母ちゃんは、お父ちゃんと、どうして知り合ったの?
お母ちゃんの所にも、愛のキューピットが来たのかな?」
「そうね・・・・。
うふふ・・・。きっと来たと思うな・・・」
「しかも!フレディアちゃんみたいな、そそっかしいキューピットが」
「どうして?
お母ちゃん、お父ちゃんのこと好きじゃなかったの?」
「ううん。好きだったわ・・・。
だけど、私たちあまりにも不似合いのカップルだったの・・・」
エリーゼは、その頃の話をフレディアに語って聞かせました。
***
*ブランデール城 王の間
「父上!」
「父上、お話ししたい事があります」
「おぉ、クレスト王子ではないか。
そなたの話とは、いにしえの予言者アルドスの事であろう?
わしも先ほど賢者ガウスからその話を聞き、驚いていたところじゃ」
「天と地がひとつに交わり、七つ目の太陽が沈むとき、いにしえの闇は開かれん・・・。
世界が闇につつまれし時、虹駆ける銀嶺の覇者現れ、その闇をはらわん・・・」
「この言葉の意味は、今から3000年前、世界を恐怖に陥れた魔王の復活を暗示したものと言うではないか・・・」
「い、いえ・・・。
その事ではなく、実は父上に紹介したい女性がいるのです」
「何と!そ、それは結婚したい女性がおるという事なのか?」
「お前が女性と付き合っておるなどとは、ちっとも知らなかった。
一体その女性とは、いつから付き合っておるのじゃ?
あ、いや・・・。これは無粋な質問じゃった」
「はっ、はっ、はっ・・・。
まあ良い!お前が見初めた女性であれば間違いなかろう!!
わしもこれで安心して王位をお前に譲れる!」
「で、その女性は何処の国の姫君じゃ?
はて、この近くの国に年頃の姫君はおったかのう?」
「のう大臣!」
「は、はい?! ク、クレスト王子に見合った年頃の姫様と申されますか?」
「う~む・・・。
この近隣諸国に、そのような姫君はおられぬはずですが・・・・」
そう答える大臣に、クレストはハッキリと答えました。
「わたしの紹介したい女性は他国の王女ではありません」
「うーむ・・・。王女ではないと申すのか・・・
では、由緒正しき貴族の娘なのだな?」
「いえ・・・。その女性は、この国に住む・・・」
「まてクレスト!
よもや街の娘などと言うのではあるまいな!」
「はい、わたくしの愛する女性は、パジャームの街に住む娘です」
「バカもの!!よりによって街の娘など。
身分をわきまえんか!!身分を!!」
「父上、父上が何とおっしゃろうと、わたくしはもう、心に決めております」
バシッ!!
激昂した王様は、クレストの顔を叩き、大声で怒鳴りました。
「だまれクレスト! これは王家の威厳にかかわることじゃ!
わしの言う事が聞けぬというのなら・・・・・。
ゴホ、ゴホ・・・」
「お、王様、そんなに興奮なされては、お体にさわります。
王子様も、ここはひとつ・・・」
大臣は二人の間に入って、何とかこの場を収めようと必死です。
けどクレストは、そんな事で自分の意志を曲げたりはしません。
「いや!父上が何とおっしゃろうと、わたくしの気持ちは変わりません!!
今日はこれで失礼します」
「これ!ま、待たぬかクレスト!!この愚か者め!!」
***
ブランデールの街は、お城と一体になった美しい城下町です。
いまその街の噴水の横に、クレストとエリーゼの姿がありました。
「エリーゼ・・・。
ごめんよエリーゼ、父上を説得できなかったよ・・・」
「ううん、いいの。
だって・・・。あなたはこの国の王子様なんですもの」
「そう、わたしはこの国の王子だ・・・。だけど、それが何だと言うんだ!」
「どうして王子だからって、君と結婚してはいけないんだ!?」
「そ、それは・・・・。み、身分が・・・」
「身分がなんだ! 君も私も同じ人間じゃないか!!」
「エリーゼ・・・。私はもう決心しているんだ。
君との結婚を許してもらえないのなら、この国を出ようと」
「えっ! そ、そんな事をしては・・・」
「エリーゼ・・・。この国を出れば、私はもう王子でも何でもない。
君に裕福な暮らしをさせてあげる事など出来ないだろう・・・」
「それに、もうこの街には帰ってこれなくなる・・・」
「だけど・・・。だけどエリーゼ!君だけは絶対に幸せにしてみせる!」
「クレスト・・・」
「一緒に来てくれるね?」
「はい!」
***
「あら?フレディアちゃん」
「まぁ、いつの間にか眠っているわ」
「うふふ・・・・・。
かわいい寝顔。 本当に天使のようだわ・・・・。
おやすみ、フディアちゃん」