第四話 虹の滝
フレディアはもう、嬉しくて仕方ありません。村の中を勝手にどんどん歩いて行きます。
隣の家にも勝手に上がり込み、おばちゃんに声を掛けています。
「こんにちは。あら?見かけない子だね・・・。シルバーの知り合いの子かい?」
「え?天使だって?は、は、は・・・・。おもしろい子だね~」
次に訪れたのは、村の南にある牧場を経営する老夫婦の家でした。
シルバーがフレディアの事を天使だと紹介すると、二人は大変喜びで、フレディアに面白い話を聞かせてくれました。
「はるか北の大地には、神の住む神殿があるそうじゃ。
その神殿に神様がおられるときは、神殿が光輝くそうじゃぞ!
わしも、もう一度若い頃に戻って、いろんな所を旅してみたいのう・・・」
そしてお婆さんは、遥か北の山にかすんで見える、大きな塔の話をしてくれました。
「この村のはるか北・・・。山の向こうに見える大きな塔は一体なにかのう・・・。
何でもこの世界には、大きな塔が三つもあるそうじゃぞぇ。一体誰が、なんのために作ったのかねぇ・・・。この年になっても、まだまだ知らない事ばかりじゃ」
そう言うと、目を細めて遠くの景色を、飽きることなく眺めていました。
この後、駐屯所や宿屋など一通り見て回ったフレディアは、最後にこのウオーターフォールの村の名物でもある、“虹の滝”へ行くことになりました。
そしてこの滝で、フレディアはシルバーからある想い出を聞かされることになります。
そしてそれは、これからのフレディア達の運命を変える、とても重要なきっかけとなるのでした・・・。
フレディアは、シルバーに案内されて村の北にある大きな滝へやって来ました。
フレディアが滝の前に設えられた展望台へ進むと、そこには今まで見た事もない見事な虹が、滝一杯に架かっていました。
「うわー!きれいー!!」
「ここが母ちゃんの言っていた滝だよ」
「すごくきれい・・・」
「前はさ、父ちゃんとここへよく魚を取りに来ていたんだ」
「父ちゃん?」
「うん・・・。今はいないけどね・・・」
シルバーは寂しそうにそう言うと、フレディアに幼い頃の想い出話をしてくれました・・・。
***
「父ちゃん、お魚いっぱい獲れたね」
「ああ、そうだな!
今晩のおかずが出来たって、母さんきっと喜ぶぞ!」
「ねえ、父ちゃん、早く帰って、お母ちゃん喜ばそうよ!」
「あはは・・・。
そうだな、そろそろ帰るか」
二人が帰り支度を始めたその時でした。父のクレストが、シルバーの肩を叩き、滝を指さして言いました。
「シルバー、見てごらん・・・。滝のしぶきで虹が出ているよ!」
「あ!本当だ!! 虹ってきれいだね」
「なぁシルバー。
お前もいつか大人になって、この虹を渡る時が来るんだな・・・」
「えー?!父ちゃん、虹って渡れるの?」
「ああ、渡れるとも!
父さんと母さんはね、お前がまだ生まれる前に、この虹を渡って村へ来たんだから」
「ふ~ん・・・。いいな~。
父ちゃん、僕にも虹を渡らせておくれよ!」
「は、は、は・・・。シルバー!
虹の架け橋はね、自分の手で見つけて渡るものなんだよ。
お前も大人になれば必ず見つけられるさ!」
「父さんと、母さんがそうしたようにね・・・」
「ふ~ん・・・・」
『だけど・・・・。
虹の橋は、オレには渡れないと思っていた。
オレはこの村が好きだった。
ずっとこの村で、父ちゃんや母ちゃんたちと一緒に暮らして行けるんだと信じていたんだ。
あの出来事があるまでは・・・』
*それは、ほんの数か月前の出来事でした。
家に帰ると、玄関の前にはたくさんの兵士が立っていました。
驚いたシルバーは慌てて家の窓の方へ回り、兵士たちに気づかれない位置で、窓からそっと中を覗きました。
部屋の中では、立派な身なりをした男の人が、父のクレストと話をしていました。
「それでは・・・。
どうあってもご無理とおっしゃるのですな?」
「そうだ!」
「そ、そうですか・・・・。
いたしかたございませんな・・・」
そう言うと、玄関まで進んだ男の人は、もう一度クレストに向かって訊ねました。
「もう一度、考え直してはもらえませぬか?」
「くどいぞ!何と言われても、私の気持ちは変わりはしない」
「そ、そうですか・・・。それでは・・・・」
そう言うと、その男の人と兵士たちは去って行きました。
兵士たちが帰った後、クレストとエリーゼは、なにやら真剣な顔で話をしています。
「あなた・・・。いいんですか?あんなこと言ってしまって」
「あぁ、もちろんじゃないか!
私たちは、もうあそこへは帰らないって決めたんだろ?」
「でも・・・・。いま帰らないと、一生お父様と会えなくなるのよ」
「わかっているさ・・・・。
でも、今までキミと二人で頑張って来たんだ。
私だけ帰るわけにはいかない!」
「でも、あなた・・・。あなたと私とでは立場が違うわ」
「エリーゼ・・・。それはもう言わない約束だろう?」
「ごめんなさい・・・。
でも、わたし・・・。あなたにお父様と会っていただきたいの」
「そして、私たちの事を許していただきたいの。
ねえ、クレスト・・・。お願い!」
「・・・・・」
「キミはその事を、いままでずっと引きずっていたんだね・・・。
すまなかったエリーゼ」
「そうだな、帰ってみるか・・・。ブランデールへ・・・」
***
「それっきり父ちゃんは帰ってこないんだ・・・」
「きっと父ちゃんの身に何かあったに違いないんだ!だからオレ・・・。
母ちゃんにブランデールへ行かせてくれって言ったんだけど・・・」
「は、は、は・・・。な、なんか暗い話になっちゃったな。
わりい、わりい!」
「お兄ちゃん・・・・」
「さ、そろそろ帰ろうか・・・。あまり遅くなると、母ちゃんが心配するから」
「あ! な、なぁフレディア。いまの話、母ちゃんには内緒にしといてくれよな」
シルバーはそう言うと、展望台の椅子から立ち上がり、帰り支度を始めました。
そしてフレディアたちが展望台から出ようとした時、逆に展望台へ入ろうとした青年と出合い頭にぶつかりそうになりました。
「きゃっ!!」
「うわっ!びっくりした!」
見ると、背が高いガッシリとした体格の青年が立っていました。
金色の髪を後ろで束ね、頭に赤いバンダナを巻いた、ちょっと凄みのある青い目の青年です。特徴的なのは、日焼けした小麦色の肌をしている事と、右の頬から顎にかけて、刃物で切られたような傷があることでした。凄味があるように見えるのは、その傷のせいかも知れません。
「こんにちわ!」
人怖じしないフレディアは、青年に向かってニッコリと微笑みました。
「え?!あ、あぁ・・・。こ、こんちは。
は、は、は・・・。き、今日は、お、お日柄も、よろひいようで・・・」
青年は面食らったような表情で、慌ててフレディアに挨拶を返しました。
(ドキ、ドキ・・・・。あー驚いた。な、なんてかわいい子なんだ!!
思わず敬語を使っちまったぜ!)
(はっ!い、いかん!世界一の大どろぼうを目指すこのオレ様が、女の子にハートを奪われてどうすんだ!!)
青年は慌てて後ろを向きました。
そしてフレディアがもう一度声を掛けようとすると、その青年は慌てて走り去りました。
「??? へんなの・・・」
彼の不可解な行動に、フレディアもちょっと驚いた様子です。
「この村の人間じゃないな。旅人って感じでもないし・・・」
シルバーも、ちょっと首を傾げています。