第三話 地上に降りた天使
フレディアは真っ逆さまに地上へ落ちて行きました。
地上では男の子と女の子が、その様子を見て大騒ぎしています。
そして小さな池の中へ・・・・。
ザッパーーーーン!!!
***
「・・・・・う、う~~~~ん・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「ここは・・・・・・」
「どこ?」
気が付くと、フレディアは二階の部屋のベッドに寝かされていました。
ピョンと飛び起きると、部屋にある大きな鏡の前で自分の姿を確認しています。
それまであった純白の翼は無くなり、天使のリングの代りに赤いカチューシャと、真っ白な羽が一本、金色の髪に飾られています。
服装は、純白の衣ではなく、緑のジャケットに代わっていました。
「う~ん・・・・。やっぱり、翼とリングがないと寂しいな・・・」
フレディアが自分の姿を確認していると、下の部屋から楽しそうな話し声が聞こえてきます。その声に誘われて、フレディアは恐る恐る階段を下りて行きました。
一階では若い男の子のシルバー。
青い髪に、キラキラと輝く茶色の瞳。その瞳には、優しさと強い意志を秘めているようです。
そしてシルバーの母エリーゼ。
彼女はフレディアと同じ金色の長い髪に、青い瞳のきれいな顔立ちの女性です。
そして何より、女神様のような優しい雰囲気をまとった人で、フレディアは一目で彼女が好きになってしまいました。
そしてもう一人はシルバーと同じぐらいの年齢の女性で、名前はソフィア。
栗色の髪に、同じ色をした瞳。とてもおしとやかで、綺麗な顔立ちの女の子です。でも、とても芯のしっかりした女性のようです。
この三人が、大きなテーブルを囲んで食事を楽しんでいました。
「あっ!あの子、気がついたみたいだよ」
階段の手すりの間から、チラッと顔を出してこちらを見ているフレディアに、最初に気づいたのはシルバーでした。
「あ!ほんとだ・・・。 ねえ、もうだいじょうぶなの?」
シルバーの声で気づいたソフィアが、フレディアに声をかけてきました。
「え?! あ、あの・・・。ここは・・・」
「さあ、こちらへ来てみんなでお食事しましょう。お腹すいたでしょう?」
エリーゼが、戸惑っているフレディアに向かって、こちらへ来るように促します。
「・・・・・・」
フレディアがテーブルに着くのを見届けると、エリーゼは優しく微笑んで言いました。
「それでは、改めて自己紹介しましょうね。え~っと・・・。それじゃ・・・」
「じゃあ、オレからいくよ!オレの名はシルバー。
で、こっちにいるのが、オレの母ちゃん」
「母のエリーゼです。よろしくね!」
「母ちゃん?」
フレディアはエリーゼの顔をまじまじと見つめ、小さくつぶやきました。
「はじめまして。私の名前はソフィア。旅の途中にこの村へ立ち寄ったんだけど・・・。
いやー驚いちゃった!」
「まさか、空から人が落ちてくるなんて、思いもよらなかったわ。
うふふ・・・」
「まぁ!それじゃシルバーの言っていたことは本当だったの?!」
「だから、さっきから何度も言ってるだろ!
まったく母ちゃんは、オレの言う事をぜんぜん信用しないんだから・・・」
シルバーは母に文句を言うと、今度はフレディアに向かって質問しました。
「ところでさ・・・。
キミはどうして空から落ちてきたの?」
「あ、あの・・・。わたしフレディア」
「天使なの!」
「えーーっ!て、天使ーー?!」
全員驚いてフレディアの顔を見ましたが、どう返事をしてよいのか分からず、固まってしまいました。
それでもフレディアは、自分の姿がみんなにも見えて、ちゃんと会話が出来る事が嬉しくてしかたがありません。
食事がすむと、さっそく一人一人に話かけました。
「いや~、ほんとびっくりしたよ。空からビューって落ちて来るんだもん。
本当にどこも怪我をしていないかい?」
シルバーは、フレディアの事を心配してくれています。
「私、しばらくこの村の宿屋にいるから、よかったら遊びに来てよね」
ソフィアは一緒に遊ぶ約束をしてくれました。
そして最後に、フレディアは一番気になるエリーゼの所へ行き、声をかけました。
「母ちゃん・・・」
「え? あ・・・はい!」
フレディアとエリーゼの会話を聞いて、ソフィアは思わず笑ってしまいました。
「くす、くす・・・」
「何がおかしいの?」
フレディアがキョトンとした顔でソフィアに訊ねると、ソフィアは笑顔でフレディアに説明してくれました。
「普通、女の子はあまり“母ちゃん”って呼ばないわ。
”お母ちゃん”とか、!”お母さん”って言うのよ」
「でもフレディアちゃんは、エリーゼさんの子供じゃないから”おばさん”って呼ぶ方がいいかもね?」
「ふ~ん・・・・」
分かったような、分からないような顔をしているフレディアに、エリーゼは優しく声を掛けます。
「うふふ、でもフレディアちゃんがそう呼びたいのなら、別に”お母ちゃん”って呼んでもいいのよ?」
「あ!何ならおばちゃんとこの子供になっちゃう?シルバーも妹が欲しいって言っていたし・・・」
「わ!な、なに言ってんだ母ちゃん!」
シルバーは急に話を振られ、ちょっと慌てたようですが、実はシルバーは少し気になる事があるようで、その話には触れず、ソフィアに向かって声を掛けました。
「ところで、あのさ・・・・。キミ・・・えっと・・・」
「ソフィアよ」
「ああ、ソフィア・・・さん。
キミ、旅をしているって言ったよね」
「えぇ・・・」
「どこまで行くのかな? あ、いや・・・。別にどってことないんだけどさ。
オレとあまり年が違わないみたいだから、ちょっと気になってさ・・・」
「実はオレ、この年になるまで村を離れたことないから」
「ふ~ん、そうなんだ・・・」
「パジャーム・・・。砂漠の街パジャームよ!」
「まあ!そんなに遠くまで?」
エリーゼはパジャームの街を知っているようで、少し驚いた様子でした。
「ねえ、パジャームって・・・。
ブランデールの近くじゃなかったっけ?」
「ええ、そうよ!城下町ブランデールのすぐ近くだわ」
シルバーがブランデールの地名を口にすると、エリーゼは急に慌てた様子で、二人の話に割り込んできました。
「あ!ね、ねえシルバー!
フレディアちゃんに村を案内してあげたらどうかしら?」
「母ちゃん!!オレは今・・・」
「ね、フレディアちゃん。この村にはすっごく大きな滝があるの!
その滝を見に、はるばる遠くから来る人もたくさんいるのよ!!」
「・・・・・・・」
フレディアがポカ~ンと口を開けてエリーゼを見上げていると、何となく空気を読んだソフィアが、スッと席を立ちました。
「あの・・・・。それじゃ、私そろそろ宿屋へ戻ります。
おばさま、今日は本当にごちそうさまでした」
「いいえ、何のおかまいもなしに・・・・。また遊びに来てくださいね」
「それじゃ、さようなら・・・」
丁寧にあいさつをすると、ソフィアは家を出て行きました。
「フレディアちゃん、お兄ちゃんに、村の中を案内してもらいなさい。
その間におばちゃん、腕によりをかけてご馳走を作っておくからね。
お腹をペコペコにして帰ってきてね!」
「シルバー、頼んだわよ」
そう言うと、シルバーとフレディアを送り出しました。




