第十八話 クレストとエリーゼ
*それから数週間後
「お頭!大変です!! この前のヤツが来ました!!」
外を見張っていた仲間が、慌ててアジトへ報告しに来ました。
「何だと! やはり攻めてきやがったか!?それで、敵は何人で攻めてきたんだ!!」
「え?! そ、それが・・・。あの・・・一人で・・・」
「なに?! たった一人で?」
「あ!き、きやしたよ、お頭!!」
クレストはたった一人で、ズカズカとアジトに入って来ます。
「久しぶりだな、クルーガ!」
(こ、こいつ、いったい何を考えているんだ・・・。自分の身分を分かっているのか?)
「今日はお前に相談があって来た」
「なに?俺に相談?!あんた・・・。俺が何者か知っているんだろうな?」
「勿論だ! これはお前にしか出来ない相談だ」
「・・・・・・・・・・・・」
驚くクルーガを無視して、クレストは話を進めます。
「クルーガ、この国を支えている財源は何だか知っているか?」
「知らねえな。 俺は政治には興味がないんでね・・・」
「それは、遺跡から出土する財宝やレアメタルだ。お前も知っているように、この国は遺跡の宝庫だ。穴を掘れば、遺跡に当たるとさえ言われている」
「そして、この国から出土した金、銀、財宝はすべて国が管理し、それら財宝の売買には国の許可と税金がかかるようになっている」
「いったい、何が言いてえんだ?」
「ところが、実際に国を通して売買される財宝は、出土した財宝の一割にも満たない・・・。
それは何故だ?」
「そんなのは当たり前だ!危険な目をして手に入れたお宝だぜ!
誰だって高く売りてえに決まっているぜ」
「なるほど、それで国を通さず闇で取り引きしているんだな?」
「そうだ!よく知っているじゃねえか。それで、一体俺に何を相談してえんだ?」
「うん、お前にこの国の盗賊どもをまとめて欲しいんだ!」
「な、なに?! この俺に盗賊どもをまとめろだと?」
「そうだ! そして、遺跡から盗み出した財宝を、正規のルートを通して売買するようにして欲しいんだ」
「俺に盗賊どもを統一させ、闇の組織を潰して財宝の流出を防ごうってんだな・・・」
「そうだ!」
「断る! 俺は国の犬になんかならねえ!!」
「なんだ・・・。 クルーガっていう奴は、度胸のすわった豪傑だと聞いていたのに・・・。
案外弱虫なんだな」
「な、なに!!どうして俺が弱虫なんだ!!」
「盗賊どもを一つにまとめ上げる自信がないんだろ?」
「人をまとめるのは、力だけじゃ無理だ!この祠で暮らす人々を助けているお前なら、何とかしてくれると思ったのだが・・・」
「ふん!俺には関係ないね!!」
「お前はこの祠で暮らす人々を助けたいんじゃなかったのか?
もし、お前が縛り首にでもなってみろ。ここの人たちはどうなるんだ?」
「ぐっ!そ、そりゃそうだが・・・。だが、俺が盗賊をまとめるのと何の関係があるんだ?」
「お前が盗賊をまとめあげ、闇のルートを潰せば国がうるおう。
今の状況で国を動かすのは難しいけど、税金が増えれば、そこから一部を削る事は可能だ!」
「そうすれば、この街に病院や、親のいない子供たちのための施設を建設する事も出来るんだ」
「本当にそんな事が出来るんだろうな!?
おめえら貴族は、いつも自分たちの事しか考えていねえ!信用ならねえ!!」
「クルーガ、私を信じろ!同じ人間でありながら、貧しいがゆえに苦しめられている人たちを、このままにしていてよいのか?」
「同じ人間・・・。あんた、本気でそう思っているのか?」
「・・・・・・・」
考え込んでいるクルーガに、プーさんが話しかけました。
「お頭。この人を信じてみてもいいんじゃ・・・。
でなけりゃ、あの時オレ達はとっくに縛り首になっていたはずだ」
「・・・・・・・・・・・・・」
長い時間沈黙を守っていたクルーガが、ついに決心しました。
「ちっ!どうせ一度は捨てた命だ・・・。あんたに預けるぜ、俺の命」
「そうか!やってくれるんだな!ありがとう、クルーガ!これであの人たちを助けることが出来る!!」
「それじゃ、また来るよ」
そう言い残し、クレストはアジトを出て行きました。
「ふっ、ふっ、ふっ・・・。変わった人だぜ・・・。この俺に盗賊をまとめ上げろ・・・か・・・」
「聞いたか!おめえら!!これから俺は世界一の大どろぼうになる!!文句はねえな!!」
「おおーーーーーーーっ!!!」
アジトにいた仲間たちは、大声で歓声を上げました。
一方アジトを出て禁断の祠を歩くクレストは、キョロキョロと辺りを見回し、何故か落ち着きがありません。どうやら何かを捜しているようです。
そして中ごろまで来た時に、一人の美しい娘に目が止まりました。
「あっ!キ、キミはあの時の・・・」
「あっ、あなた様はあの時の・・・」
クレストが捜していたのは、エリーゼでした。
「えっと・・・。たしかエリーゼさん・・・だったね?」
「はい・・・」
「あーっ!また来たなー!! 今度は何しに来たんだ!!」
そう言いながら、急いでこちらへ駆けて来る男の子がいました。
「やあ!キミはエリーゼさんのナイト君。
は、は、は・・・。相変わらずキミは怖いな・・・」
「セイバー、このお方は、この国の王子様なのよ。
失礼な事をしてはいけません」
「私の名はクレスト。エリーゼさんと少し話をしたいんだが・・・ダメかな?」
クレストは満面の笑みでセイバーにお願いしています。
「・・・・・・。少しだけなら・・・いいや!」
「コノハ!遊びに行くぞ!!」
「あ!お兄ちゃん、待ってよ~!」
そう言うと、セイバーは妹のコノハと走り去って行きました。
「あの・・・。この前はありがとうございました」
「あ! い、いや・・・。私の方こそ、驚かせてしまったね」
「あの・・・。今日は・・・」
「あぁ、今日はクルーガにちょっと話があってね」
「あの・・・。クルーガさんや、ここの人たちはどうなるのでしょうか?」
エリーゼは不安そうな目でクレストに訊ねました。
そんなエリーゼに、クレストは笑顔で答えます。
「心配しなくてもいいよ。
みんなが安心して暮らせるように、何とか努力してみるよ」
「まぁ!それは本当ですか?」
「本当だとも! キミは優しいんだね」
「え? あ! も、申し訳ありません。
王子様に対してわたし・・・。余計な事をお聞きしたりして・・・」
「いや、そんなこと気にしなくてもいいよ。
それより、私はこれから時々ここへ来ることになる」
「あの・・・。その時、できたらキミに色々と相談に乗って欲しいんだけど・・・。
ダメかな?」
「まぁ、わたしに?」
***
「つまり・・・。俺たちが今こうしていられるのも、おめえの親父さんと、お袋さんのおかげって訳だ」
「よし! ではこれで会議を終わる!各自それぞれの役目に付け!!」
解散となりアジトを出て行く際、セイバーとコノハがシルバーに声を掛けました。
「キミを助ける事が出来て良かったよ!
もしあの時キミを死なせていたら、エリーゼお姉ちゃんに会わせる顔がないからな・・・」
「ねえ、エリーゼお姉ちゃん元気にしてる?もう一度会いたいな~」
コノハは懐かしそうにそう言うと、アジトを出て行きました。
「セント・ワイヤーの作業が終われば連絡する。北のゲートは頼んだぜ」
最後にアジトを出たクルーガは、そう言ってシルバーの肩を叩きました。
 




