第十七話 禁断の祠
禁断の祠の中に、国王軍の大軍勢から逃げ落ちて来た、クルーガの姿がありました。
「はぁ、はぁ・・・・。クソッ!!ついにここまで来やがったか!!」
「よし!俺はここで最後の大暴れをして、時間を稼ぐ!!
その間にプー!おめえは仲間と一緒に、ここの皆を安全な所に避難させてくれ!」
「お、お頭・・・」
「なんだ!そのしけたツラは!! 盗賊に涙は禁物だ!!
あとの事は頼んだぜ・・・」
大量の爆弾を体に巻き付け、祠の外へ打って出ようとするクルーガでしたが、ここで暮らす人たちがそれを慌てて止めました。
「わしらに気を使わず、クルーガさんこそ逃げてくだされ・・・」
「ここにいる者たちが、いままで生きてこられたのは、クルーガさん達のおかげです。
それに、わしらはここを離れては、もう生きて行く術を知りません・・・」
年老いた人たちはクルーガの足元に縋りつき、そう懇願するのでした。
「いたぞ!! ついに追い詰めたぞ!!」
祠の中に数百人の兵士が迫って来ました。
「くっ・・・。もはや、これまでか・・・・」
さすがのクルーガも、いよいよ最後の時と悟ったようです。
そのクルーガの前に、一人の凛々しい若者が進み出て来ました。
「パジャームの盗賊、クルーガ! ここまでだ!」
「てめえは何者だ!!」
「このお方は、ブランデール王のご子息、クレスト王子だ!
クルーガ、もはや逃げられはせぬ!おとなしく降参しろ!!」
クルーガの問いに、ブランデールの将軍ランドルが答えました。
そしてその時、もう一人の若者も前に出てきました。
クレスト王子の弟。名前をバジルといいます。
青みがかった銀色の髪の男で、とても冷たい目をしています。
「あ~~ん?何だここは・・・。
くせえ、くせえと思ったら、ここはゴミ捨て場じゃねえか・・・。
汚ねえ奴らがうじゃうじゃ居やがる!!臭くて息が詰まりそうだぜ」
そう言うと後ろを振り返り、兵士たちに命令しました。
「おい!ここに火をかけろ!!
こんなゴミ共は、さっさと燃やしてしまうに限る。
放っておくと、そのうち伝染病が発生しちまうぜ!」
「何だと!!この野郎!!
もう一度ぬかしてみやがれ!てめえの頭をぶっ飛ばしてやるぜ!!」
クルーガはその男の言葉を聞き、激怒しました。
「はっ、はっ、はっ・・・・。バカじゃないのか貴様!
ぶっ飛ぶのはお前の首の方だ!!」
「おい!さっさと、こいつらを処分しろ!
ここにあるものは全て焼き払ってしまえ!!」
そう厳しく命令を下すバジルを、クレストは慌てて止めました。
「まて!! こ、これはいったい・・・・」
「ここにいる者たちは、盗賊ではないな?!」
クレストはクルーガに問いただしました。
「あたりめえだ!!
ここにいるのは、真面目に働いてきたこの国の民だ!!」
バジルの言葉で激怒したクルーガは、大声で怒鳴りました。
「なんだって?! 真面目に働いてきた人たちだって?!
そんな人たちが、なぜこんな場所に・・・」
クレストは驚いてクルーガに訊ねました。
「年をとって働けなくなった者、病気で働けなくなった者・・・。
親をなくした子供たちなど、街で生きて行けなくなった弱い者たちが、ここに捨てられたんだ!!」
「この国の者は、みんな貧しいんだ。税金を払うのがやっとで、病気になったって、医者に診てもらう事すらできねえ!
それどこか伝染病を恐れ、こんな場所に追い込んだのは、てめえら貴族じゃねえか!!」
クルーガは怒りを込めて、クレストを怒鳴りつけます。
そんなクルーガを庇う様に、年老いた者たちがクレストに懇願しました。
「クルーガさんは、わたしらのために、食料や薬や衣服を持ってきてくれる。
たとえ人様の物を盗む悪い盗賊でも、わたしらにとっては、命の恩人です・・・」
「お願いです、どうかこの人の命ばかりは・・・・」
その様子を見て、バジルは大笑いしています。
「はっ、はっ、はっ・・・。盗賊はこの国では縛り首だ!!こいつらに加担したお前たちも同罪とみなし、全員仲良く処分してやる!ありがたく思え!!」
「て、てめえ・・・。てめえには、人の心というものがねえのか!!」
バジルに襲い掛かろうとしたクルーガを止めるため、クレストが数歩前に進んだ時でした。
小さな男の子と女の子が、クレストの歩みを阻みました。
「お姉ちゃんに近づくな!!
お姉ちゃんをいじめると、許さないぞ!!」
「わ~ん、エリーゼお姉ちゃんを連れていっちゃダメ~!!」
クレストの足にしがみつく二人の子供を、慌てて止める娘がいました。
「やめなさい、セイバー。コノハも・・・。
だいじょうぶよ、このお方は悪い人ではないわ・・・」
「キミは・・・・」
クレストの質問に、年老いたお婆さんが答えました。
「この娘さんは、私ら病人の看病をしに、街からここへ通ってくれているのです。
お願いです、どうかこの人は見逃してくだされ・・・」
「エリーゼちゃんは、ここにいる私らにとっては、女神さまのようなお方じゃ・・・。
私ら年寄りはどうなってもよいが、この娘と子供たちは、どうか助けてやってください・・・」
周りにいた者たちも、口々に命乞いをしています。
その様子を見ていたバジルは、我慢できなくなったのでしょう。
「兄上!なにをぐずぐずしているのです!早く片付けて帰りましょう!!」
「このような場所にいると、本当に病気になってしまう!」
クレストに催促しました。
「よし!」
クレストは決断しました。
「みんな、引き上げるぞ!」
まさかの命令に、バジルはビックリしています。
「あ、兄上!何を言っているんです!!
この男は100万ゴールドの懸賞金の掛かった、大悪党なんですよ!!」
しかし一度下した命令は、覆されることはありません。
最高司令官はクレストなのですから・・・。
「クルーガ! 今日は一旦引き上げる!また、後日会おう」
「な、なに?!」
そう言うと、クレストはさっさと引き上げて行きました。
「あ、兄上!!」
「ちっ! 一体何を考えているんだ!くそっ!!」
そう捨て台詞を残し、バジルはクレストの後を追って行きます。
「よーし!!全軍、引き上げるぞ!!」
「クルーガ、命拾いしたな!」
ポカ~ンと口をあけているクルーガに、ランドル将軍はそう言い残して去って行きました。
「これは一体・・・・。どうなってやがんだ?」
 




