第十五話 クルーガを捜せ!
まず初めに行ったのは、駐屯所でした。
「え?クルーガを知らないかって?
クルーガ・・・・。はて、どこかで聞いたような・・・」
「え?! ク、クルーガ!!?」
シルバーが訪ねた兵士が、大声でその名を叫びました。
するとその瞬間、駐屯所の中はまるで蜂の巣をつついたような大騒ぎです。
「わ、わ、わ!!知らない!!僕はな~んにも知らない!!
ビッグ・クルーガなんて人、ぜ~んぜん知らない!!」
「わわ!!キ、キミたち一体何者だ!!」
「キ、キミたち!この街で騒ぎを起こすのだけは、やめてくれよな!!」
兵士たちは口々にそう言うと、それっきり何を聞いても答えてくれなくなりました。
シルバー達は仕方なく、今度はパブへ向かいます。
駐屯所の事があったので、今度はちょっとやそっとでは驚きそうもない、腕っぷしの強そうな店の客に訊ねました。
「うい~。 なんだぁ? クルーガって奴がどうしたって?」
「ん?待てよ・・・・。 な、なにーー!! ク、クルーガだって?!!」
「知らない!僕はな~んにも知らない!だだの酔っぱらいです!!
もう僕に話しかけないでください!!」
そう言うと、慌てて背を向けてしまいました。
そして、この話を聞いていた店のマスターは、シルバー達に小声で忠告します。
「お客さん、あんたが何者なのかは知らないけど、その名前はこの街では使わない方が身のためだよ・・・」
いったいどうした事でしょう?
他の街の人に訊ねても、誰もちゃんと答えてくれません。それどころか、まるで疫病神を見るような目でシルバー達を見るのです。
「おかしいな~。母ちゃん、名前を間違えているんじゃないだろうな?」
「きっと街の人が、別のクルーガさんと間違えているのよ・・・」
ソフィアはそう言いますが、これではまったく話になりません。
ほとほと困り果てていると、小さな女の子が話しかけて来ました。
「お兄ちゃんたち、フォークのお友達でしょ?さっき捜していたよ。
あのね、急用があるから急いで宿屋さんまで来てくれって言ってた!」
そう言うと、女の子は走り去って行きました。
「やった!フォークならきっと何か知っているよな!」
「ええ、彼ならこの街の事を何でも知っているはずだわ!」
まさに地獄に仏とはこの事です。シルバー達は急いで宿屋へ向かいました。
「わーい! フォーク、遊びに来たの?!」
フォークを見つけたフレディアは、大喜びで話し掛けます。
「やぁ!実は大事な用があってよ!
みんな、もう知っていると思うが・・・。ソフィアの親父さんは、エルサラームの
宮殿の地下一階に閉じ込められているらしいんだ・・・」
「あぁ、街の人から得た情報では、調査隊の人も、フォークの仲間も捕まっているらしいな」
フォークの問いに、シルバーが答えました。
「そうなんだ。 オレもアジトでその話を聞いて、驚いちまったぜ!
けど、オレ達はこのまま指をくわえて見てやしねえ。
やられたらやり返す!!これがサンドフォックスの鉄則さ!!」
「じゃあ、エルサラームの宮殿から仲間を救出するの?でも、いったいどうやって・・・」
ソフィアがフォークに訊ねます。
「オレ達は盗みのプロだぜ!しかも、墓どろぼうは最も得意とする分野さ!」
「そっか!宮殿や遺跡の中へ忍び込むのは得意なんだね~。
じゃあ、エルサラームの宮殿に忍び込むのね!!」
フレディアは、とてもワクワクしています。
「そうさ!もうすでに準備は進んでいるらしいんだ!!
実は、オレが緑の結晶石を持ち帰るのも、その計画の中に入っていたんだって!」
そう言うフォークに、シルバーは驚いて聞き直します。
「え?でもあの時は、まだフォークの仲間は捕まっていなかったんだろ?
まさか、この事を予測していた・・・って訳ないよな?」
「もちろんだ。 オレはエルサラームのお宝を盗むため、緑の結晶石が必要だと思っていたんだが・・・。お頭は、最初からある人を助けるために使うつもりだったらしい。
それが誰なのかは知らないけど・・・」
「とにかく、そんな訳でよ!お頭にソフィアの事を話したんだよ。
そしたら、力になってくれるって言ったんだ!!」
「ほんと?! ありがとうフォーク!!」
「よかったねー、ソフィア!!」
「うん」
ソフィアとフレディアは、手を取り合って喜んでいます。
その様子を見たシルバーは、フォークに向かって言いました。
「フォーク!! その仕事、オレにも手伝わせてくれないか?」
「あぁ、もちろんそのつもりだぜ!!お頭も、ぜひ皆に会いたいって言っているよ!」
「シルバー!この街の北外れに“禁断の祠”と呼ばれる場所がある。
用意が出来たらそこへ来てくれ。じゃあな!!」
そう言うと、シルバーは走り去りました。
*禁断の祠
「お!あんた達だね、フォークの話していた友達は!!
オッケー! さぁ、通ってくれ」
頭にターバンを巻いた男メタが、シルバー達を通してくれました。
禁断の祠の中へ通されたシルバー達は、そのだだっ広い廃墟の様な大広間に驚いています。
その時、中にいた太ったおじさんがシルバーに教えてくれました。
「ここは禁断の祠と言ってね・・・。むかし、病気や怪我で働けなくなったり、親を亡くして街で暮らせなくなった子供たちが捨てられた場所なんだよ・・・」
「いまは街に立派な施設が出来たおかげで、ここで暮らす人はいなくなったけどね。
さっ、アジトはこの下だ。階段を下りてくれ」
そう言うとシルバー達をアジトまで案内してくれました。
「よぉ!シルバー!! 待っていたぜ!!」
フォークがシルバーに声を掛けます。
そしてシルバー達が用意された席に着くと、赤い戦闘服を着た若い女性が、大きなテーブルの一番奥に座っている巨体の男に声を掛けました。
「お頭、陽炎を除いて四天王は全員揃いました」
「そうか。 よし、それでは今から会議を行う。が、その前に・・・」
「シルバーと言ったな・・・。
今回はうちのフォークが世話になったそうだな。礼を言うぜ!」
お頭と呼ばれる男は、山のような大きな体に立派な髭を蓄えた、異常に眼光の鋭い見るからに怖そうな人物でした。
「いや、世話になったのはこっちの方さ!
それに、そこにいる人には危ない所を助けてもらったし・・・」
シルバーは、青い戦闘服を身にまとった、がっしりとした体格の男に向かってそう言いました。
「セイバーの兄貴に、魔物に襲われていたところを助けてもらったんだ。
しかし、俺たちが全く相手にならないなんて、あんな強い魔物、今まで見たことないぜ!」
フォークがその時の状況をみんなに説明しました。
「闇の扉が開いてから、今まで見た事のない強い魔物が徘徊しているんだ。
ここへ来る途中の町や村で、たくさんの人が犠牲になっているのを見た」
四天王の一人、戦闘隊長のセイバーがフォークの話を補足します。
「なるほど、各地に散らばっているサンドフォックス四天王を招集したって事は、エルサラームの宮殿が絡んでいるって事ですな?」
先ほど祠で会った太った男がそう言いました。彼の名前はミスター・プーと言い、四天王の一人“幻術使いのプー”です。
「そうだ!その宮殿の中に忍び込む!!」
「それは楽しみだわ! でも、そこにいるフォークの仲間たちはどうかしら?
危険な仕事に一般の人を巻き込むわけにはいかないんじゃ・・・」
赤い戦闘服を着た、キリッと顔の引き締まった美しい女性、四天王の一人“双剣の舞姫”コノハが、お頭に向かって訊ねました。
「う~む・・・・。それもそうだな・・・。
フォークの話を聞いて、かなり腕の立つ連中だと思ったのだが、この顔ぶれではな~。
まだ子供もいるしな・・・」
「あ~!! わたしの事、子供って言ったー!!」
フレディアはちょっと不満のようで、ほっぺたをプ~ッとふくらませています。
「お頭! フレディアちゃんは、子供じゃねえよ。彼女の腕はオレが保証するぜ!」
フォークが慌てて説明しますが、お頭はうんとは言いませんでした。
「いや!今回の仕事は俺たちだけでやる!
悪いがフォーク、おめえの仲間には引き取ってもらうぜ」
「そ、そんな~。 何とかお願いしますよ、お頭~」
フォークは必死に食い下がりますが、それを見たソフィアがシルバーに小声で言いました。
「シルバー・・・。ここにいるとフォークに迷惑がかかるわ」
「そうだな。 やはりこの問題は、オレ達だけで解決するしかないな・・・」
「フォーク! 気持ちは嬉しいが、その人の言う通り、オレ達がいると迷惑がかかる。
オレ達はもう引き上げるよ」
「お、おい、シルバー」
「けど、一つだけ聞きたい事があるんだ」
「いいだろう。俺たちの知っている事は何でも答えてやるぜ」
お頭はシルバーに向かい、そう言いました。
「実はオレ達、この街に住んでいるクルーガって人を捜しているんだが・・・。
誰も教えてくれないんだ! あんた達、知らないかな?」
それを聞いた、フォークは驚いて飛び上がっています。
「何だ?何が知りたいんだ?!言ってみろ!!」
しかしお頭は眉一つ動かさずに、もう一度同じ言葉を投げかけました。
「だ、だから、そのクルーガって人を・・・」
「クルーガはこの俺だ!! 俺に何が聞きたいんだ?!言ってみろ!!」
「えーーーーーっ!!?」
「うそ?! この人がクルーガ・・・さん?」
「キャハハ!」
ソフィアは驚きのあまり、大きな目を見開いてお頭を直視していますが、フレディアは何故か楽しそうに笑っています。
シルバーは・・・。
彼はどうやら、完全に固まってしまったようです・・・。




