第十四話 砂漠の街パジャーム
やっとの思いで目的地へ着いたシルバー達ですが、街の入り口に立っている
看板娘から、思わぬ事を言われます。
「砂漠の街パジャームへようこそ・・・って言いたいんだけど~。
いまこの街は大変なのよね・・・。
あなた達、この街に用がないのなら、早く出て行った方がいいわよ」
プクプクの町でよからぬ噂を聞いていたシルバー達は、看板娘からそう言われて
まずます不安になりました。
「とにかく、ソフィアのパパを捜さなきゃ!」
シルバーは街の看板娘に駐屯所の場所を聞き、まずそこへ向かいました。
駐屯所は街のほぼ中央にありましたが、とにかく広い街なので、そこまで行くのも一苦労です。
パジャームの駐屯所は、シルバーの住むウオーターフォールの村と違い、何やらとっても大変そうな様子でした。
とにかく人手が足りないようで、駐屯所の入り口に立っていた兵士に声を掛けると。
「ここは駐屯所です。いま、人手不足なので兵士募集中です!」
そう言ってシルバーにしつこく入隊を勧めてくるのでした。
何とか断って中の兵士に忙しい理由を聞いてみると、エルサラームの一件で人手が足りない上に、近頃サンドフォックスの連中までが、何やら不穏な動きを見せているのだそうです。
どうやらフォークの仲間たちも、兵士たちにとっては悩みの種のようですね。
もう一人の兵士が、その理由を教えてくれました。
「バジル様がサンドフォックスの連中に手を出したから、あいつらきっと報復するに決まっているよ。
嫌だな~。リストラで、どこか地方の駐屯所に飛ばしてくれないかな・・・」
そう不安そうに話してくれました。
シルバー達にはまだよく理解できない話ですが、ソフィアのパパが居るエルサラーム調査隊の場所を教えてもらったので、急いでそちらへ向かいました。
エルサラーム調査隊は、街の最南端にあります。
入り口に大きな石柱が立ててあり、そこにエルサラーム調査隊本部と記されていました。
だけどソフィアは入り口に立ったまま、動こうとしません。どうやら中に入るのをためらっているようなので、シルバーがそっと背中を押してあげました。
ソフィアは恐る恐る中へ入って行きましたが、広い部屋の中はシ~ンと静まり返り、人の居る気配がまるきりありません。
いくつかある部屋も開けてみましたが、中には誰も居ません。そしてクランツ博士の名札が掛けられた部屋には、鍵が掛かっていて、入る事も出来ませんでした。
そして一番奥の部屋まで来たとき、炊事場に誰か居るが見えました。
「あら、こんにちは!」
炊事場ではメイド服を着た女の人が、洗い物をしていました。
「こんにちは。 あの・・・。遺跡の調査隊の人たち、どこにいるのかご存知ありませんか?」
ソフィアがその人に声をかけます。
「それがね、みんなエルサラーム宮殿に調査に行ったまま帰ってこないのよ・・・。
「私は、みんながいつ帰って来てもいいように、時々ここへ来てお掃除とかしているの。
あなた達、調査隊の方のお知り合い?」
そう言うと、ソフィアに訊ねました。
「クランツの娘のソフィアです」
「まぁ!あなたがクランツ博士の娘さん?!あなたの事は博士からよく聞いているわ!
博士、すごくあなたに会いたがっていたわよ・・・」
「あ、そうだ! もし、あなたがここへ訪ねて来る事があれば、“ミトロ遺跡の発掘現場”へ連れて来てほしいって、みんなに言っていたな~!なにか大事な話があるとかで・・・。
でも、もう一か月以上も前の話だけどね」
「そっか~。あなたが博士の娘さんか~。うふふ・・・。
博士はよく皆にあなたの自慢話をしていたのよ!」
「あれ? だけどクランツ博士・・・。
あなたの話をした後、何かいつも寂しそうな顔をしていたような・・・」
「あ、ごめんなさい。 お父さん、無事だといいね!」
「ありがとう」
女の人にお礼を言うと、シルバー達は調査隊本部を出ました。
「パパはエルサラーム宮殿に・・・・」
「いや、まだそこに居るって決まった訳じゃないさ!フォークも宮殿は国が管理しているって言っていたし」
「ひょっとしたらブランデールに居るのかもしれないね!」
シルバーとフレディアが、落ち込んでいるソフィアを元気づけます。
「オレ達でもう少し調べてみようよ!!」
「わたしお腹がすいたから、ごはんを食べてから~!!」
「そうね、わたしもお腹がすいてきちゃった!」
元気を取り戻したソフィアを見て安心したシルバー達は、パジャームの街で情報を集める事になりました。
食事の出来るパブに入ると、愛想のよいウエイトレスが声を掛けて来ました。
「いらっしゃい。 あなた達大変な時にこの街に来たわね。
普段はいい街なんだけどね・・・。あまりややこしい事に関わらない方がいいわよ。
この街はね、詮索されることを嫌う人が多いからね・・・。
けっこう色んな過去を持った人が集まっているのよね。それがこの街の魅力でもあるんだけどさ・・・。じゃ、ゆっくりしていってね!!」
注文を取るときに、親切にそう教えてくれました。
でもフレディアは平気です。相手が誰でもまったく気にしません。
シルバーが訪ねても話を聞いてくれない人には、フレディアがアタックします。
ごはんを食べている最中でも、お酒を飲んで酔っ払っている人でも、手当たり次第に話を聞きました。それに、しゃべらなくても大丈夫です。フレディアにはある程度なら心の声を聴くことが出来るのですから。
「エルサラームの調査隊がどこに居るのかって?
う~ん、恐らくまだエルサラームの宮殿の中にいるんじゃないかな?
闇の扉が開いてからは、どうなったか分からないよ。
何しろ宮殿の周りには、恐ろしい魔物がうようよいるから、恐ろしくて誰も宮殿に近づけないんだよ・・・」
食事をしていたおじさんが教えてくれました。
今度は気分よくお酒を飲んでいる若い男に、フレディアが話を聞きました。
「ぷは~っ! 今日もビールがうまい!!
しかし、バジル軍と国王軍がエルサラームで対峙した時は驚いたよな~。
戦争が始まりゃ。ビールどころじゃないもんな・・・」
「え?どうして戦争になるのかって?
そりゃバジルのヤツが、自分の兄貴を人質に取ったからだよ。
自分がブランデールの王になれると思っていたのに、突然兄貴が帰って来たんで、焦ったんじゃないの?
けど、あんなヤツが次の王様になったりしたら、この世は終わりになっちまうぜ」
「・・・ところで、あんた誰?
ま、まさかバジルの手下じゃないよね? ヒック・・・」
今度は若い女性に話を聞きます。
「ブランデールの王様と、王子が戦争を始めた話は本当かって?ええ、本当よ!」
「どうして王子と王様が戦争を始めたのかって?
そりゃー、弟のバジルが兄の王子をエルサラーム宮殿に監禁したからよ!
ブランデールの王様は、兄の王子に家督を継がせたかったみたいなの。
だからバジルが宮殿に監禁したことに腹を立てて、攻め込んだんだけど・・・。
その時いきなり空が真っ暗になって、すごい地震が起こって・・・。
後はもう、どうなったのか、訳がわからない状態なのよ」
その話を聞いた隣のおじさんも、説明してくれました。
「兵士に聞いた話だけどよ・・・。バジルに監禁された兄の王子はよ、別に王様なんかになる気はなかったらしいぜ。
何でも村を襲ったバジルを諫めるために、一人でエルサラームへ行ったそうだ」
どうやらバジルと言うブランデールの王子が、この騒ぎを起こした張本人のようです。
そしてこの男は兄の王子だけでなく、エルサラームの調査をしていた学者たちや、サンドフォックスの連中も人質にして、宮殿に閉じ込めているようです。
そのためフォークたちサンドフォックスの者たちも動き出していると、お酒に酔った人達から情報を得ました。
「ウイ~! おい、お前どう思う?何がって?サンドフォックスの連中だよ!
このままバジルの野郎を黙って放っておくつもり・・・」
「おわっ!! あ、あんた達何者だ?!
ま、まさかサンドフォックスの・・・。
い、いまの話は聞かなかったことにしといてくれ」
「宮殿にはね、サンドフォックスの連中もたくさん捕まっているのさ。
え?なんで捕まったのかって?
それがさ、ありもしない罪を着せられ、無理やり連れて行かれたのよ・・・。
きっと宮殿に隠されているお宝を見つけるためだよ。何しろ彼ら盗賊は、お宝探しのプロだからね!だけど途中で闇の扉が開いてしまい、出られなくなってしまったそうよ」
またバジルという王子と、兄の王子の事も話題になっていました。
「まったくバジルの野郎・・・。ひでえ事をしやがるぜ!
でも、一体なんで村を襲って塔なんか破壊したんだろ?
えっ?バジルってどんなヤツかだって?
そりゃ、おめえ・・・。 ブランデールのバカタレ王子に決まって・・・。
あわわ・・・。あ、あんた達誰だ?!
い、今の話は聞かなかった事にしといてくれ」
「昔この国を出て行った王子様は、とても良く出来たお方だったらしいよ。
病気や怪我で働くことの出来ない飢えた者たちや、親のいない孤児たちを救うために、施設を作ったんだよ。街の南にある大きな建物がそうさ。
入り口にその王子の名前が刻まれているけど、なんて名前だったかな?」
以上が店で聞いた情報でした。
店を出たシルバー達は、今度は兄の王子が建てたという施設に行ってみる事にしました。
その施設は二階建ての大きな建物で、一階が病院で二階が孤児たちの住む施設になっていました。
病院の入り口には、金属で作られた大きなプレートが掲げられています。
一階・・・クレスト記念病院
二階・・・虹のお里
と、書かれています。
「あれ?病院の名前、父ちゃんの名前と同じだ・・・」
「お父ちゃんが建てた病院なの?」
「は、は、は・・・・。まさか!同じ名前の人が建てたんだよ!」
フレディアの質問にシルバーはそう答えると、一階の病院へ入って行きました。
病院では多くの兵士が怪我で入院していました。
シルバー達は、ソフィアのパパの手掛かりを掴むため、その一人一人に話しかけてみました。
最初に話を聞いた兵士は、国王軍の兵士です。
「う~ん・・・・。いてて・・・・。
エルサラームに攻め込んで行く途中、急に空が暗くなったと思ったら、恐ろしい魔物がたくさん襲ってきて・・・。気が付いたらここに運ばれていたんだ」
次に聞いた兵士は、バジル軍の兵士のようです。
「いたた・・・・。
エルサラームの調査隊は、宮殿の地下一階に閉じ込められているらしい。
何でもエルサラーム宮殿には、すごいお宝が隠されているそうだ。
調査隊や盗賊を閉じ込めたのも、そのせいさ・・・」
そして次の三人の兵士は、バジルの命令で村を襲った兵士たちでした。
「う~~ん・・・。う~~ん・・・。
ゆ、許してくれ・・・・。はぁ、はぁ・・・・」
「はっ!またあの夢を見たのか・・・。あっ!あ、あなた達は?」
「オレ達は旅の者だけど、なんだかすごくうなされていたようなので・・・」
「聞いてください!カプレの村を襲ったのはバジル様の命令です。
私をはじめ、兵士たちはみんな命令に逆らうのが怖くて、仕方なくやったのです」
「でも、私がこんな姿になったのは、きっと神様が罰をお与えになったのでしょう。
あの時、命令に逆らえる勇気があれば、あんなむごい事をせずに済んだのに・・・」
その兵士はそう言うと、布団を被って泣き出しました。
「バジル様の破壊した塔は全部で三つ。
いずれの塔にも、何か大切な物が祭られていたそうです」
「バジル様が村を襲ったのは、塔を破壊するのが目的だったんだよ。
それがどういう意味なのか、理由は分からないが・・・」
三人の兵士は、バジルの命令で仕方なく村を襲ったようです。
ですが、その理由は知りませんでした。
そして最後に行ったのは、建物の二階にある施設でした。
そこには親のいない、たくさんの子供たちが生活していました。
強くなって魔物をやっつける事を目指している男の子。
小さな女の子は、看護婦さんになるために勉強しています。
考古学者になって、世界中の遺跡の探検を夢見る男の子。
中には、サンドフォックスに入ってお宝を探すという子供もいます。
「ここは親のいない、孤児たちのための施設です。
エルサラームの扉が開いた今、孤児たちが増えるのではないかと、心配でなりません」
施設を管理している人は、心配そうにそう話していました。
「街の人の話だと、やはりソフィアのパパはエルサラームの宮殿に閉じ込められているようだな・・・」
「ええ・・・。でも、とても危険な所なんでしょ?困ったわね・・・」
もちろん砂漠を旅する事も危険ですが、またタルコスの遺跡で出会ったような魔物に遭遇すると、今度は助からないかもしれません。困り果てていると、フレディアが突然声を上げました。
「あれ? ねえ、ねえ!
困った時は誰かに手紙を渡せって、お母ちゃん言ってなかった?」
「あ!そうだわ! シルバー、手紙、手紙!!」
「そうだった! え、えっと・・・。手紙、手紙・・・。
あ、あった!あった!これだ!」
「パジャームのクルーガ・・・」
「クルーガって人に、この手紙を渡すんだったね!
よし、この人を捜してみよう。きっと力になってくれるよ!!」
シルバー達は、エリーゼから預かった手紙に望みを託し、クルーガと言う人を捜すことにしました。




