第十三話 パジャームへ向けて出発!
翌朝、シルバー達は旅の支度を整えると、宿屋を出ました。
橋が直ってパジャームへ行ける様になったのです。
でもその前に、シルバー達にはやり残している事があるようです。
「シルバー!ツルピンの野郎を、ギャフンと言わせてやろうぜ!!」
フォークは指をパキパキと鳴らして、ひと暴れする準備をしています。
「もう!絶対に許さないんだから!!」
ソフィアも、タルコスの遺跡でひどい目に遭ったことを怒っています。
「結晶石も、まだもらっていないしね!」
なぜか結晶石にこだわるフレディア。
「よし、ちょっと挨拶しに行くか!」
もちろん、シルバーもはなからそのつもりです。
文句を言って、青い結晶石を返してもらうつもりでいました。
ところが店に着くと、テント小屋の中はもぬけの殻で、誰も居ません。
「ちっ!ツルピンの野郎、トンズラしやがったか!?」
フォークは悔しそうに、テーブルを叩いています。
だけどおかしなことに、テーブルの上には売り物のガラクタが置かれたままで、逃げ出した形跡がありません。
不審に思ったシルバーは、テント小屋のすぐ近くに住む、あの二人の幼い姉弟に話を聞きました。
「ねえ、あの小屋の人たち、どこに行ったか知らないかい?」
「あの小屋のおじちゃんたち、どこにも行っていないよ。
ず~っとあの小屋の中にいるよ」
弟の男の子が言いました。
お姉ちゃんの方も、うんうんと頷いています。
「あの小屋の人たち、朝からあの中に入ったまま・・・。
何をしているのかちら?」
それを聞いたシルバーとフォークは顔を見合わせるとニヤッと笑い、もう一度小屋の中に入って行きました。そして、そこら中に点火した爆弾をバラ巻きます。
ドカーン!!
ドカーン!!
ドカーン!!
爆風で大きなテーブルも、地面の土も吹き飛びました。
そしてテーブルの下に穴を掘って隠れていたツルピンたちも吹き飛ばされて、シルバー達の前に姿を現します。
「う~~ん・・・・。こ、小屋の中で爆弾使うか?ふつう・・・」
「あたたた・・・。ま、参りました・・・」
「いでででで・・・・。 ご、ごめんなさい。結晶石をお返しします・・・」
チョボ、ガド、ツルピンの三人は、ひっくり返って目を回しています。
観念したツルピンは、もう二度と悪い事はしないと約束し、青い結晶石を差し出したので、フォークは彼らを許してやる事にしました。
テント小屋から出ると、幼い姉弟が慌ててこちらへ走り寄って来ました。
そしてお姉ちゃんがシルバーに訊ねています。
「いま、あの小屋からしゅごい大きな音がしたけど・・・」
そう訊ねられたシルバーは、ついうっかり口を滑らせ、いらぬ事を聞いてしまいました。
「えっ?今度は大丈夫かって?ま!レディに対して失礼ね!!」
女の子は顔を真っ赤にしてプリプリ怒っています。
それを聞いた弟が、またこっそりフレディアに何か言おうとしましたが、それをお姉ちゃんに見つかったため、慌てて逃げ出しました。そしてそれを追いかけるお姉ちゃん。
この姉弟の追いかけっこは、しばらく続きそうです。
***
タルコスの遺跡を過ぎて南に進むと、地震で壊れた橋へたどり着きます。
まだ石畳のあちこちにヒビが残っていますが、強度的には問題はないようです。
その橋を越えて三日ほど歩くと、やがて道は深い森へと入って行きました。
この森は“迷いの森”と言われる旅の難所で、うっかり道を反れて迷ってしまうと、元来た道へは戻れなくなってしまうという、恐ろしい森でした。
噂では静まり返った夜に木々が動き出し、道が変わってしまうからだと言われていますが、まだ木々が動いている姿を見た人はいません。
そもそも森は魔物たちの格好の隠れ家でもあるため、そういった噂が流れるのかもしれません。ともかく、森は恐ろしい危険な場所の一つでした。
いまシルバーたちは、二日前からその広大な森を進んでいます。そしてもう少しで森を抜けるという所まで進んだ時でした。
一羽の美しい小鳥が空から舞い降り、フレディアの頭にチョンと止まります。そして彼女の耳元でしばらく美しい声でさえずると、またパタパタとどこかへ飛び去って行きました。
傍から見ると、のどかで微笑ましい光景ですが、そう思うのは第三者達だけで、当のフレディアはそれどころではないようです。その小鳥を見送ると・・・。
「わたし、ちょっと用事が出来たから行ってきま~す!」
そう言って急いで駈け出そうとしたため、慌ててシルバーが声をかけました。
「ちょっと、ちょっと、フレディア!慌ててどこへ行くんだよ?!」
「そうだよフレディアちゃん、一人で行くと迷子になっちゃうぜ!!」
「よ、用事ってなに?」
あまりに突然なので、三人が口をそろえてフレディアを止めました。
「あのね、さっきの小鳥がこの先にピカピカ光るきれいな石があるって、教えてくれたの!
だからちょっと行ってくるね!」
そう言うと、一目散に駈けて行きました。
「え~~~っ!!」
フレディアの姿はあっと言う間に深い森の中へ消えて行きます。
一瞬どうするか迷いましたが、ヘタに追いかけると全員が迷子になってしまいそうなので、しばらく様子を見ることにしました。
するとフレディアはすぐに戻ってきて、嬉しそうに見つけた石を見せてくれました。
それは結晶石より少し小さな黄色い石で、ピカピカと光り輝いています。
「見て、見て、フォーク!これってなんの石かなぁ・・・」
フレディアの手から石を受け取ったフォークは、いろいろと向きを変えながら、マジマジと眺めています。
そしてちょっと驚いた様子でフレディアに答えました。
「これ・・・。たぶん結晶石のカケラだと思う!
黄色い結晶石なんて見た事も聞いた事もないから、きっとすごくレアな結晶石だぜ!
フレディアちゃん、これ大切に取っておきなよ!!」
「わーーい!やったーー!!」
フレディアは大喜びで、大切に袋の中へしまいました。
森を抜け、大きな湖を回り込むように南東へ進むと、目的地のパジャームの街はもうすぐです。
目印となる分岐点の道しるべには、ここから東・・・パジャームの街。
ここから南・・・カプレの村と書かれています。
シルバー達は意気揚々と東の道を進みました。
*砂漠の街パジャーム
「やぁ!やっとパジャームに到着したぜ!
短い間だったけど、いろいろ世話になったな!」
「お前たちのおかげで、緑の結晶石も、青い結晶石も手に入れる事ができた。
礼を言うよ、ありがとう!!」
パジャームの街の入り口に立ち、フォークが嬉しそうに言いました。
「いや、礼を言うのはオレ達の方さ。
ここまで来られたのは、フォーク、キミのおかげだよ!」
シルバーがフォークと握手し、満面の笑みで答えます。
「ありがとう、フォーク。
でも、これでお別れだなんて、何だか寂しいわ・・・」
ソフィアが残念そうな顔で答えます。
「あぁ、オレもお前たちと別れるのはちょっと寂しいけどよ・・・。
オレは盗賊、お前たちとは住む世界が違うしな・・・」
フォークがそう返事をすると、フレディアが寂しそうな顔で言いました。
「フォーク、ここでお別れなの?つまんないな・・・。
せっかくお友達になれたのに・・・」
「でも、また一緒に遊ぼうね!!」
最後は笑顔でフレディアらしくお別れを言いました。
「友達? 仲間じゃなくて友達か・・・。は、は、は・・・。なんかいい響きだな~。
オレには縁のない言葉だと思っていたよ。なんか嬉しいぜ!」
「シルバー! 早く父ちゃんが見つかるといいな!」
「あぁ、きっと見つけてみせるさ!!」
「ソフィア! 親子の事は、親のいねえオレには分からねえけどよ。
ケンカなんてせずに、仲良くした方がいいと思うぜ」
「フォーク・・・。 ありがとうフォーク!」
「フレディアちゃん。
は、は、は・・・。また一緒に旅が出来たらいいな!」
「行こう、行こう! また一緒に旅をしょうよ!!」
「じゃあ!みんな達者でな! あばよ!!」
そう言うと、フォークは走り去って行きました。
「フォーク行っちゃったね・・・」
フレディアがポッンとつぶやきます・・・。
「にぎやかなアイツがいなくなると、チョット寂しいな・・・。
さてと、じゃあ・・・。 ソフィアのパパを捜さなくちゃな!」
「うん・・・」
シルバー達は旅の目的の一つを果たすため、パジャームの街へ入りました。




