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第十一話 ソフィアの回想

上機嫌でテントを出たフレディアを見つけると、家の前で遊んでいた幼い姉弟の男の子が、急いで声を掛けて来ました。


「お姉ちゃんね、本当はオシッコ少しだけちびったんだよ!」


それだけ言うと、ピューッと走り去って行きました。

どうやら、その秘密を誰かに話したくてウズウズしていたようです。

すると今度は、少し離れた所からその様子を見ていたお姉ちゃんが、慌ててこちらに走って来ました。


「ねぇ、ねぇ、お兄ちゃん。弟がなんか変な事を言ってなかった?」


聞かれたシルバーは、気を利かして何も聞かなかった風を装いましたが、今度は横にいたフレディアにも同じ事を聞いてきました。もちろんフレディアは・・・・。


「あーっ!あいつレディの秘密をしゃべったのね! もう許さないわ!!」


そう言うと、真っ赤な顔をして弟を追いかけて行きました。

その様子を見たソフィアは、フレディアに何かを説明していますが、彼女の頭の上には?のマークが浮かんでいます。フレディアはもっと勉強をしなくてはいけませんね。



***



*その夜・・・・


く~・・・。  く~・・・。


むにゃ・・・むにゃ・・・。

キャハハ!!


く~・・・。  く~・・・。


キャハハ!!


「う~ん・・・・。どうしたの?フレディア・・・・」


「も~、ソフィアったら・・・・。

くすぐったいよ・・・・」


「え?!わたし何もしていないよ?!」


カチッ!


ソフィアが灯りを点けると、目の前に黒装束の男が立っていました。


「きゃーーー!!どろぼうー!!」


ソフィアが悲鳴を上げると、その男は慌てて二階の窓から逃げ出しました。

悲鳴を聞いたシルバーとフォークが慌てて駆け付け、宿屋の周りを捜しましたが、残念ながら賊の姿を見つける事は出来ませんでした。


「くっそー!! どろぼうのオレの所に盗みに入るなんて!!頭にくるぜ!!」


フォークはカンカンになって怒っています。


「やはり、紫の結晶石を狙って来たみたいだね」


シルバーはソフィアに訊ねました。


「ええ! でも、盗まれたのは偽物の方よ!」


「へ~っ。 ツルピンの作った偽物が役に立ったって訳か・・・」


シルバー、ソフィア、フォークは、盗まれたのが偽物の紫の結晶石だったので、まずは一安心といったところですが、一人だけ我慢できない子がいます。


「わーーん! ぜんぜん良くな~い!

わたしの結晶石が盗まれたのにー!」


フレディアはベッドの上で、手と足をバタバタさせて暴れています。


「わりい、わりい。 別にフレディアのが盗まれて喜んでいる訳じゃないんだよ。

けど、一体この紫の結晶石はどんな意味があるんだろ?」


シルバーはフレディアをなだめながら、今まで思っていた疑問を口にしました。


「そうね・・・。これで三回目だから、盗んだ犯人はこの結晶石がどうしても必要だったんだわ、きっと・・・」


「するとつまり・・・。この紫の結晶石で開く扉の中身を知っていて狙ったって事だな・・・」


ソフィアの話を聞き、フォークがそう結論付けました。


「ねえ、ソフィア。キミのパパは、この結晶石のことを何か話していなかったかい?

考古学者だって言っていたし、ひょっとしたら結晶石の秘密を何か知っているんじゃないのかな・・・」


シルバーはソフィアに訊ねました。


「・・・・・・・」


「あっ! べ、別に言いたくなければ、言わなくてもいいんだよ!」


「そうさ!誰にでも人に話したくない事の一つや二つはあるものさ!」


下を向いて黙っているソフィアに気遣い、シルバーとフォークは慌ててそう言いました。

けどソフィアは何かを決心したようで、ゆっくりと話始めました・・・。


「実は・・・・。この結晶石は、三か月ほど前にパパから送られて来たんだけど・・・。

パパとは、もう一年以上も会っていないの・・・」


「え~っ?!」


「それに・・・・。 パジャームへ行くのは、パパに会いたいからじゃないの。

本当は、パパの顔を思いっきり、ひっぱたいてやりたかったの・・・」


「え、え~っ!!」


「一体どうしてだい?」


シルバーはソフィアにその訳を訊ねました。


「そ、それは・・・・・」




*一年以上前・・・。


ソフィアの家の二階では、ベッドで横になっているソフィアの母と、その横で椅子に座る父の姿がありました。


「明日はソフィアの誕生日だわ・・・。

あの子、口には出さないけど、いつも寂しい思いをしているのよ・・・」


「クランツ、明日はソフィアと一緒にいてあげてね。

あの子、あなたとショッピングに行けるのをとても楽しみにしているわ」


「あぁ、この一年間、家にいる事はほとんどなかったからね・・・。

お前やソフィアには、本当にすまないと思っているよ」


「あなたの仕事の関係で、一か所にとどまる事がなかったためか、あの子には気の許せる友達もいないの・・・」


「病気の私を気遣って、小さい頃からいつも庭に出て一人で遊んでいたわ」


「私の研究も一段落ついたし、これからは家族で過ごす時間を大切にするよ」


夫婦で話していると、そこへソフィアがやってきました。


「ママ、身体の具合はどう?」


「ええ、きょうは朝から調子がいいみたい」


「ソフィア、明日はパパがショッピングに連れて行ってくれるそうよ。

思いっきり、好きな物をねだってやりなさい。長い間、家を空けてばかりいた罰よ」


「は、は、は・・・・。 よし、明日は任せておけ。

と、言いたいところだが、どうかお手柔らかに頼むよ」


「わーい!やったー!!」



*次の日の朝


ソフィアの家に、父親の助手の男が慌ててやって来ました。


「クランツ博士、大変です!!」


「どうしたんだ? そんなに慌てて・・・」


「パジャーム砂漠のミトロ遺跡に、緑の結晶石の扉が発見されました!!」


「何だって!! 古代の書物に書かれていた、緑の結晶石の扉が見つかったのか?!

ならば、その中にエルサラームの封印の方法を記した部屋があるはずだ!!

それを探し当てれば、3000年前に世界を恐怖に陥れ、ある日突然姿を消した幻の宮殿の謎が解明される!」


「こうしてはいられない! 墓どろぼうに荒らされる前に、貴重な物件は押さえておかないと!!」


急いで旅の支度をするクランツに、ソフィアが声を掛けました。


「待って! どこへ行くのパパ!!」


「す、すまないソフィア・・・。

パパはこれからパジャームへ行かなくてはならなくなったんだ」


「今日は一緒に居てくれるって、言ったじゃない! あれは嘘だったの?」


「そ、そうじゃないんだ・・・。

長年パパの探し求めていた物が、やっと見つかったんだ!」


「これで、幻の宮殿エルサラームの謎が解けるかも知れない。分かってくれソフィア! この償いは必ずするから・・・」


「いや! パパの嘘つき!!

この前もそう言って出たまま、半年も帰ってこなかったわ!」


「ママはどうするの?! ママは病気なのよ!

どうしてそんなママを置いて行けるの? パパはママの事が嫌いなの?」


「・・・・・・」


「すまないソフィア。

許してくれ、私はどうしても行かなければならないんだ」


そういうと、クランツはソフィアに背を向けて走り去りました。


「行かないで!! 帰ってきてパパ!!」


「行かないで・・・・・」



*それから一年近くの月日が流れました・・・。


「ごほ、ごほ・・・」


「だいじょうぶ? 今日は顔色が良くないわ。

私、お医者様を呼んでくる!!」


「はぁ、はぁ・・・。 いいえ、ソフィア・・・・。

私のそばから離れないで・・・・」


「昨日パパから届いた荷物・・・・。 何が入っていたの?」


「知らないわ。 パパからの贈り物なんて、別に見たくないもの」


「はぁ、はぁ・・・。 こまった子ね・・・。

もうパパを許してあげたら?」


「いやよ!絶対に許さない!

ママが病気なのを知っているのに・・・。

ママがこんなに苦しんでいるのに・・・」


「あれから一度も帰ってこないのよ!!」


「考古学の研究が、パパの生きがいなのよ。

けして家族の事を忘れているんじゃないわ・・・」


「でも・・・。ソフィア、あなたにはいつも寂しい思いばかりさせてしまって・・・。

ごほ、ごほ・・・・」


「ママ、今日はもうしゃべらない方がいいわ」


「はぁ、はぁ・・・。

ソフィア・・・・。 あなたもいずれこの家を離れる時が・・・。

ごほ、ごほ・・・・うっ!」


「きゃっ!! ママ、ち、血が・・・」


「ソフィア・・・。

私が死ねば、もうあなたを繋ぎとめるものはなくなるわ・・・」


「な、なにを言っているのママ!

やめてよ、死ぬなんて!! そんな話聞きたくないわ!」


「はぁ、はぁ・・・・

ソフィア、自分の幸せは、自分の手でつかむの・・・ごほ、ごほ・・・・」


「お願いママ、もうしゃべらないで!」


「ごめんねソフィア・・・。 何もしてあげられなくて・・・」


「・・・・ソフィア・・・・。幸せになってね・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


「ママ? どうしたの?」


「ママ?」



***



「びえ~~~ん! ソフィアかわいそう!」


さっきまでベッドの上で大暴れしていたフレディアは、今度は大泣きしています。


「ごめんよソフィア。嫌なこと思い出させてしまったね・・・」


シルバーはソフィアに謝りました。


「ううん・・・・。みんなに話して気が楽になったわ」


「そっか、ソフィアのパパってクランツ博士だったのか・・・」


フォークは感慨深そうに、そうつぶやいています。


「フォーク、ソフィアのパパを知っているのかい?」


シルバーは不思議そうな顔でフォークに訊ねました。


「すげー有名な考古学者だからな・・・。

オレたち墓どろぼうには最強の商売がたきなんだけどよ・・・」


「クランツ博士なら、エルサラーム調査隊の隊長だから、パジャームに行けばすぐに居場所は分かるはずさ」


「なぁフォーク。 パジャームはここから遠いのか?」


「橋さえ直れば、十日ほどで行けるんだがな・・・」


「そっか、じゃあいつでもパジャームに出発できるよう、早く西の遺跡にある結晶石を手に入れておこうぜ!」


「ええ、そうね!」


シルバーの意見にソフィアも同調します。でも、何か物足りないような・・・・。


「あれ?誰か足りないような・・・・」


見ると、いつも真っ先に返事をするフレディアが、ベッドの中で気持ちよさそうに眠っていました。


「おい、おい・・・。さっきまで大泣きしていたんじゃ・・・・」


「その前はベッドの上で大暴れしていたぜ?」


「わたし、何だかフレディアちゃんが羨ましいわ・・・」


すやすやと眠っているフレディアの寝顔を見て、ソフィアがつぶやきました。




「く~~~く~~~。むにゃ、むにゃ・・・。おかわり・・・・」



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