イケメン司令官のヒミツ
「今までお互い避けあってたくせになにがどうなったらそうなるんだよ」
来也さんが私を見てそう言った。いや、私を見てというよりは後ろについてきているナルさんについて言っている。
今までずっと外に出ないで引きこもっていたのにあれからずっと私にくっついてきてくれていて、こうして私が来也さんに対して練習の成果についてを話すために部屋に入ったときにも近くにいるわけでもないがソファに座って見守ってくれている。
超絶イケメンがなついてくれるのはとてもうれしいものだがなにかしただろうか。
「私もよくわからなくて」
「まぁ、とりあえず練習はどんな感じなんだよ」
来也さんはベッドの端に座って長い足を組む。今日も本当にかっこよくてモデルにでもなればすぐに売れるのではないか。とんでもなくスタイルもいいし顔もいいから服より目立ってしまうかもしれないか逆に不利だったりするか。
隣のベッドに座っているのは来也さんのそばで常に護衛しなければならない河合くんは可愛らしくも体育座りをしていた。
「果奈さんはいい感じになってきたの。でも他国に乗り込むにはまだ戦闘力が足りないかもしれない」
「はっきり言うたほうがええやろ、果奈はぜんっぜんあかん」
「果奈・・・?」
視線が一気に私のほうに集まる。
だって、ナルさんは今まで私の名前すら「お前」とか「あんた」とかでろくに呼んでくれなかったのにどうしてこんなに急に呼びはじめるどころか呼び捨てで呼んでくるようになったのだろうか。今まで私にあんなに厳しかったのに。
「ずいぶん仲良くなったんやな」
来也さんが凍り付いたというよりも困惑した雰囲気の中で言った。
「来也に関係ないやろ。そいつは俺が面倒をきちんと見るから安心しろ」
「関係ないことはないだろ、総長だし俺が連れてきたメンバーだしな」
「連れてきたことはええけどそれからどうやって過ごさせるかは俺の仕事や」
にらみ合ってばちばちと火花が散っている。来也さんがいかにもイライラしていますよというアピールなのか足をトントンとしているのが怖すぎる。
二人がそろっているといつもこんな感じでけんかが起こる。
「好きになっちゃったのか?別にいいぞ、幹部内での恋愛は支障をきたさない限りは禁止しないんだからな」
来也さんがにやにやと笑いながらあおる。毎回毎回こういう時に来也さんのそばにいる河合くんが止めてくれているのに楽しそうににこにこと微笑みながらナルさんのほうを見て、なかなか部屋の外に出るのがまれらしく出てきていたことに喜んでいた。そのため止めようともせずにほほえましいものを見ているという目をしているがけんかに巻き込まれている私は居心地が悪すぎる。
そんなことを誤解されてしまったらナルさんに申し訳ないしとりあえずちゃんと否定しておこう。
「あの、別にナルさんは――――――」
「そういえばさっき寝ていたナルさんの部屋に果奈さんが入っていったよ」
河合くん!?あなたが無理やり部屋に押し込んで入れたんでしょ!
楽しそうに笑っているからいいんだけどね。
「ふーん?若いやつらは元気だな」
興味がまるで内容で大人の対応をされるとかなり恥ずかしいんですけど。
ある程度過ごしてみてわかったがこの家に住んでいる人たちはお互いのことを尊重はしているものの自己責任という言葉が強く感じられあまり関心を抱こうとしていない。唯一来也さんだけが守るべき対象であるため気にかけられているがそれ以外の人がしていることに我関せずといった調子だ。好き嫌いはあるみたいだけれどだからといって特別扱いして甘やかしたり逆に意見を無視することもない。
仕事としては完璧なのだろうけれどせっかく一緒に暮らしているのに寂しいと思うこともある。
「確かにナルさんの部屋には入ったけれど何もしていないし、ねこかんと話をしただけだから特になにかあったわけでもないから」
「キスはした」
「私が隠そうとしているってこと伝わりませんかね!?」
どうしてそんなに何でもないことのように言うのだろうか。キスってそんなに簡単にするものでもないし第一私はファーストキスだったんですけど。
しかもこれで恋バナのように話が色めき立つわけでもなく誰も興味がないといった調子でシンとした空気になるのだから空しい。
「まぁナルさんみたいな超絶イケメンにキスされるなんて最高だけどね」
どうせみんな素顔くらいは知っているだろうし、という軽い気持ちでそういうと今までどうでもいいという態度を貫いていた来也さんと河合くんがパッと顔を上げた。その顔は驚きと戸惑いが混ざったような複雑な顔をしていた。
「え、な、なに?」
「あ、いや・・・その」
何かを言いたそうに口をパクパクとさせたのち、やめて河合くんは気まずそうに眼をそらして押し黙ってしまった。
その様子に首を傾げていると来也さんは真っすぐと私の目を見ていた。
「ナルの顔を見たのか」
「う、うん。少しだけだけれどまずかった?」
「来也。果奈は見てへんよ」
私の言葉に相反するようにかぶせてナルさんは来也さんに言った。来也さんはその言葉を聞いてじっと彼のほうを見つめると納得したようにうなずいた。私は全く意味が分からないのだけれどきっと今顔を見られたということをごまかしたのだろう。
ナルさんは司令官だし顔を見られることに不都合があるのかもしれない。
河合くんはなぜか顔を上げないでいる。
「とりあえずここらへんで解散な。ナルはそのまま黄色の国の状態を把握したうえでねこかんの動きについて管理して、果奈は練習を引き続きしてもらう形でって、拓斗もそのフォローをしていこう」
「いや、拓斗はこれから来也にずっとついといたほうがええわ。ねこかんがいるってわかったら黄色の国の対戦国、緑の国がこっちにもちょっかい出してくるかもしれんからな」
ナルさんがすかさず口出しをする。
「わかった。じゃあ拓斗は俺と一緒で活動な。あとはナルだけこの後話し合うから待機であとは解散しよう」
なんだかんだこの二人って仲がいいよね。ビジネスだといえばそうなのかもしれないけれどお互いにあまり好きじゃないという感じを出しつつも仕事に関しては信頼しているというか、私も二人のような存在になれるように頑張らなくちゃ。
そうして私たちはその部屋を出た。
河合くんと私がいなくなった部屋では司令官と総長の二人が離れたソファとベッドで話をする。司令官はパソコンでねこかんの動向について見守りながら、総長は足を何度か組み替えながらラフな風に見えるが雰囲気はピリッとしている。
「ナルにしては不用心すぎるだろ。あの子は魔力のにおいを嗅げるんだからあんまり近づきすぎるなって前にも言っただろ」
「ちゃうやろ、あんたが言いたいのは」
はっきりといえと目線でナルさんが伝える。
「イケメンだったって言われてたけど本当に見られていないんだな?」
「多分フードがあったおかげできちんと見られていないんやわ。それに魔力の件もどうせこれから過ごしとったらばれとったわ、初日であったときに魔力あるのか聞かれたくらいやしな」
カタカタとパソコンをうっている手はこうして会話をしていても止まることはない。
「それならいいけど、本当に気を付けてくれよ。さすがにあの子にばれて外部に情報が洩れでもしたら俺も、ナルも全部が終わるんだからな」
低い声で忠告する言葉にナルさんはフードの下で静かに口をキュッと結んだ。そして、少しの間の間をおいてから、
「わかっとるわ、俺の存在が来也の荷物になるってことくらい。そんなん雇われ始めたときから知っとったわ」
「そういう意味で言ってないってことくらいわかってるだろ」
「ほんまにあんただけはわからへん。俺みたいな不良品を雇って、拓斗みたいな子どもみたいな子を入れて果奈みたいな女の子をこうして無理やり加入させて」
今度は来也さんが黙ってしまった。
返答に困っているという感じではなく返す必要がないという意味のようでまるで気にしていない。ナルはもはや返事があるとみじんも思っていないようでねこかんに音声で指示を出している。すると画面の向こうからはオッケーという人差し指と親指で丸を作るなんとも幼稚なハンドサインが送られてくるがその手が放つ威力は半端ではない。
こちらも少しずつ攻撃を始めているため来也さんに危険が及ぶかもしれない。
「今はどんな感じなんだよ」
「・・・」
ナルさんがフードを外す。
来也さんがじっくりとその姿を見つめる。こうしてナルさんがフードをきちんと外している姿は本当にまれなもので見ることなどふろ場と就寝時くらいしかできない。
「なるほどな、今のところは安心だな」
ナルさんのほうへ歩いていき、髪をさらりと撫でた。
その行動にナルさんは怯えるように肩を震わしていたが、表情にはそんな様子を見せることはなくポーカーフェイスを貫いている。
「割とこちら側やから果奈がわからんかったんやと思うわ」
「とりあえず、これからもばれないようにしていけ」
「わかっとる」
そういってからまた彼はフードをかぶった。
全てが隠れてしまうように、深く深く、かぶった。
最近ナルさんの話が多くなっていますが他の子たちの活躍も楽しみです