第9話 交換条件
「さすがだ、時間通りだな」
指定の場所へ指定の時間に着いた。数人の男に引きつられ嬉しくないご対面だ。
「お互いに積もる話があるわけでもないだろ。早く終わらせよう」
たけTを睨み付ける。
「そうだな、それぞれの目的は明確だ。ただ、邪魔はするな」
相変わらずなやつだ。昔と変っちゃいない。
「こと美さんを連れてこい、それからだ。メモリはここにある」
掌に載せたメモリをギュッと握りしめる。簡単には渡せないが。
たけTの合図でこと美が連れてこられた。一見無事そうだが・・・。
そのあとから二人の縛られた男が二人同時に引っ張られてきた。
ぽっぽ教授!、じゃあもう一人はHOMAってことか。
「教授、無事だったか。あんたのことだ、簡単にはやられんだろとは思ってたが。HOMAさんか、すまないこうなってしまって」
二人ともかなり殴られたのか、血を流しているようだ。
「こんなことしてまでこのデータが欲しいのか?そんなに重要なものか」
「アホなお前にはわかるまいて。そのデータがあれば裏社会では確固たる地位を得ることができる。俺のボスがこれから先は支配するんだ。邪魔はさせないぜ、くわとろ」
「わかったわかった、支配でもなんでも思う存分やってくれ。代わりに俺の邪魔もしないでくれ」
やれやれと両手でジェスチャーをする。
「こと美さんと交換だろ?まずは彼女を離せ。これが最後の警告になる」
「わかった、おい」
たけTの合図でこと美が放された。
「おっと、まだ動くな、メモリを渡してもらおう」
一人の男が俺の目の前に立ちすくむ。手からメモリを奪いラップトップで確認するようだ。
「くわとろ、すまない。私がこんな研究なんぞやらなければ」
苦しそうに口を開く教授の言葉が聞こえる。
「私とHOMAが始めたこの研究は失敗だったがそのデータを部下であるこのチョビヒゲが流出させてしまったのだ」
先ほど俺からメモリを奪った男がチョビヒゲというらしい。
「しかし、なぜたけTがそのデータを狙ってる?関係ないだろ」
「お前にも関係ないだろうが。俺は教授たちの研究を盗むように初期段階からチョビヒゲを潜り込ませていたんだ。メインの研究は無駄だったがその代わりに何倍もの価値があるものができてしまってな」
なるほど、もともとデータを盗むつもりで潜り込ませていたのか。
「たけさん、メモリは問題ないようです」
チョビヒゲの声がした。そのまま端末ごと持ち去っていく。たけも奥に消えていく。男がこと美の背中をポンと突き飛ばし、教授とHOMAを再び連れ去っていく。こと美に駆け寄り縄を解き声をかける。
「怪我はないか?」
こと美は声が出ないようだ。安心したのか大粒の涙が流れ出した。
「たけ、待て!お前だけは許さんぞ!」
自分で憎悪の感情が湧き出てくるのがわかった。複数の拳銃が俺とこと美を狙っている。このままじゃ・・・。物陰に隠れながら首元に貼り付けた通信マイクでAruを呼び出す。
「Aru、頼む来てくれ、倉庫の中だ」
この通信機は直接喉から声を感知するので小さい声でも十分に通話できるものだ。側頭骨を振動させるイヤホンも敵からはまず見つからない。
一つのきっかけで激しい銃撃戦が始まった。念のため実弾を装填しておいてよかった。
しかし、この人数では抑えきれない、ましてやこと美もいるし。強引にでも脱出しなくては。
そこへAruがシャッターを突き破り突入してきた。
二人を庇うように車をつける。
「早く乗って!」
こと美を先に乗せ、応戦する。俺も飛び乗り物凄い勢いで走り出す。
「!!」
「一度こういうのやってみたかったんだよねーってくわさま!」
Aruの声が聞こえない。腹部に違和感があるが・・・?
「くわさま?」
俺の様子がおかしいのを感じてこと美が慌てて抱き抱える。流れ出る血液に気づき慌てて抑えてくれた。
「くわさまが怪我してる!」
「わかった、急いでもどろう!」
Aruの右足がスロットルペダルを踏み込んだ。