第4話 天国と地獄
「ふぅ〜、やっと着いたか」
Aruさんのところから再び戻ってきた。道中教授の言葉が繰り返し頭の中をめぐっている。
ひとまずはこれからのことを考えなくては。
裏口からママの店へと入る。すっかり夜中になってしまっている。
店内カウンターにうっすらと光が見える。
「二人ともまだ起きてたのか。明日からまた忙しくなるのに」
エビ太とトモママが向かい合ってグラスを持っている。飲んでるのか。
「おかえり、くわちゃん。お疲れ様」
ママからグラスをもらいグイッと飲み干す。疲れた体に染み渡るアルコールの強いこと強いこと。
「待ってる間ママと話してたわ。話が尽きないのよね」
エビ太ともグラスを合わせる。
「俺の悪口言ってないだろうな?」
エビ太の横に腰掛ける。今もバイクの振動が続いているようだ。若干のダルさがある。
「言ってないわよ、昼間から肉焼いたり、仕事放棄気味とか言ってないわよ」
何かの罰ゲームか、ヘトヘトなのに。
奥から物音がして見ると、こと美が立っていた。
話し声で起こしちゃったかな?
「あ、ごめん、うるさかったよね?」
エビ太がこと美に言葉を掛ける。
自分が着ているカーディガンをこと美の肩に優しく羽織わせる。
「いえ、寝れなくてずっと起きてました。くわとろさんの声が聞こえたので帰ってきたんだと思って」
こと美はママに促され静かに座る。
「社長、こと美さんの家で飼っている犬がいるらしくて、今も一人でいるんですって。
助けてあげましょう。コジローって言うんだけど、こと美さんも心配してるんです」
そうだな、彼女も自分が飼っているペットにはそばにいて欲しいだろうし。
「わかった、もちろんコジローも助ける。でも今は休んでおくのが優先事項だ。明日夜明け前に出発する。こと美さん、家の場所と、コジローがいるところを教えて」
「はい、でも私も一緒に行きたいです」
またとんでもないことを言い出す。
「いや、だめだ。今戻っても相手に見つかりにいくようなもんだ。俺一人で行くよ
君はとにかくここにいて」
残念そうに下を向くこと美。ママの腕が優しく包み込む。
「こと美ちゃん、心配いらないわよ。この二人ならあなたもコジローも一緒に助けてくれるわ。
くわちゃん達に任せましょうよ」
「はい、わかりました。よろしくお願いします」
深々と頭を下げること美のしぐさにグッときた。
「なにじっと見てんのよ、社長!」
とエビ太の肘鉄が炸裂する。
「いってーなー、なにすんだよ。やれやれ、シャワー浴びて少し寝るわ」
席を立ちバスルームへ向かう。
「エビ太、明日事務所へ戻って状況を見てきてくれ。あと地下の武器も。みんなも寝とけよ」
「はーい、社長」
「はーい、くわちゃん」
「はーい、くわとろさん」
ここは天国か地獄か。
数時間後こと美に教えられた場所へ向かう。まだ夜が明けていないため人はいないが・・・。
離れに駐車して家に近づく。教授がこと美に用意した家は一見普通っぽい。ここへは始めてくるな、と考えながら裏庭へ向かう。人の気配はしないが、待ち伏せされている可能性は高い。
ちいさな犬小屋を見つけゆっくり正面へ回り込む。中型犬くらいだろうか。
「コジロー、起きろ。ご主人が待ってるぞ」
小声でコジローを起こす。が、見たこともない人間が目の前にいるためかなり警戒している。
唸り声も聞こえるが引き下がるわけにはいかない。
なんとかコジローを抱き抱えて車へ戻ってきた。意外に暴れなかったな。
「お前番犬の意味知ってんのか?」
「ワン!」と吠えた後はペロリと。
「なんで動物にはモテるのかね」
しかし、誰も出てこなかった。ここは完全にマークされてると思ったんだが。
まあいい、長居は無用だ。
車をスタートさせる。ここで俺は重大なミスを犯していたことに気づいていなかった。