第1話 突然の訪問者
「うん、これこれ」
小さなバーナーに乗せた鉄板で焼く食材の音。
ジューーっとうまそうな匂いが漂っている。
安物の肉だがキャンプしながら食べると格別にうまい!
慌ただしい日常を忘れて時間の流れに身を任せる。
これ、サイコー。
「くわ社長、いい加減にしてください、
いくらキャンプ行けないからってベランダですることないでしょ!」
せっかくのいい気分をぶち壊してくれるこの声は僕の助手をしてくれてるエビ太だ。
名前こそ男っぽいが、しっかり者の助手である。
彼女の働きにはいつも助かってばかりだ。
「どうするんですか、昼間っからそんなことばかりして!たまには仕事してくださいよ!今月もうちの事務所厳しいんですよ」
せっかく食べようとした肉を皿ごと取り上げられた。
「ちょ、わかってるよ、だって最近浮気調査ばっかりでうんざりなんだも・・・」
いい終わらないうちに持っていた箸まで取られた。
やれやれと立ち上がり室内に入る。
「片付けはやっておきますから、チラシでも配ってきてください!」
ドン、と大量のチラシを机に置くエビ太。
「はーい、わっかりました〜、今日は半分だけ持ってい・・・」
「社長、全部お願いします」
こういうところは昔から変わってない。
うまくコントロールされているような気がするんだが。
ここでガチャっと入り口が開いた。
「あ、あの、ここはくわとろさんの事務所で間違いないですか?」
どこかオドオドしている女性が一人立っている。
「こんにちは、はい、そうですよ。こちらへどうぞ」エビ太がソファへ迎え入れる
「社長、ご依頼をお聞きしてください、お茶用意してきます」と奥へ入っていく
「こんにちは、くわとろです、はじめまして。
ご依頼はどういったことでしょう?」
テーブルを挟んで向かい合って話に入る。
「は、はじめまして、私こと美っていいます、
父からあなたを頼ってくれって言われてきました」
とても顔立ちが整っていて、いわゆる美人って言葉だけでは表せないような女性だ
はっ、いかんいかん、見惚れている場合じゃない。
「はて、お父様からってどちら様でしょう?」
こんな美人の親御さんって記憶にないし。
「父はぽっぽです、昨晩電話がありあなたを頼れとだけ。それとこれをあなたに渡すように言われてきました」
「え?ぽっぽさんって、ぽっぽ教授ですか?」久しぶりに聞いた名前だ。
「はい、私ぽっぽの娘のこと美です」
ぽっぽ教授には若い頃散々世話になった間柄だ。教授がいなかったら今頃どうなっていたか。
しかし、教授に娘さんがいたとは初耳だが。
「教授には昔いろいろお世話になったんです、最近はお互いに連絡してませんでしたが。子供さんがいらっしゃるとは知りませんでした」
エビ太がお茶を持ってきてくれた。こと美さんも少しは落ち着いてきたようだが。
「はい、私、養子なんです。小さい頃、施設に入ってました」
なるほど、それじゃ知らないはずだ。
「わかりました、教授の頼みとあっては受けないわけにはいきませんし、預かり物ってなんでしょう?」
こと美さんは小さなメモリを僕に渡した。そのメモリをPCに差し込もうとしたとき、エビ太が口を開いた。
「社長、ヤバそうです。監視カメラに数人の男が写りました。ただ事じゃないようです。金属反応もあります。ひとまず非常シャッターを閉じます」
こういうところが非常に頼もしい助手だ。
「わかった、とりあえず場所を変えよう。エビ太、こと美さんをママのところへ。おれも後から合流する。Aruさんのところでファイルを見てくる」
外が騒がしくなってきた。人の事務所だと思ってめちゃくちゃやりやがって。
非常時用に用意している道具を二人に渡し、地下へ降りていく。
エビ太たちは車、俺はバイクで建物を後にする。
「教授、あんた何やったの?とにかく無事に会おうや」ヘルメットの中でつぶやく。
この物語はフィクションです。
登場する個人名、団体名などは実在する名称と全く関係ありません。
登場するハンドルネームの方々には了承を得ております。
久しぶりの連載、楽しんでください。