貴腐令嬢の品格
腐ネタ語り(ライト)です。苦手な方はお控えください。
同作者の作品に、似た設定やキャラがいても気のせいです。ゆるくお楽しみください。
ここはある国の、とある学園。放課後のサロンで、4人のご令嬢が本を片手にお茶会をしていた。このサロンは学園でも奥まったところにあり、完全会員制で会員になるには厳格な審査が行われるのだ。一月に一度お茶会が開かれ、各々薄い本を片手に集まる。その会の名を、貴腐の会といった。
この会はいまだに人気が高い、ロクカルのモデルとなった二人が在学中にできたとされている。そして会員の卒業により顔ぶれは変わりながらも、常に10人前後で活動を続けてきたのだ。もちろん、卒業生はたくさんおり、独自のつながりを築いている。
そして昨年、ロクカル以来の人気となったラドジルのジルクが入って来たため、貴腐の会はさらなる盛り上がりをみせていた。
「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます。他のメンバーは来週行われる闇市に間に合わないということで、欠席ですわ」
茶色い髪の目立たない令嬢が会を始めていく。彼女が現在のリーダーであり、皆から一目置かれていた。他の三人の視線はすでに彼女が手に持つ本に注がれている。
「では、本日もすばらしい貴腐に出会えることを」
この会はいつもその一言から始まる。彼女はノートを開き、見開きの部分を皆に見せた。
「まぁ、素敵」
「あぁ、かぐわしいですわ」
「天に召されそう」
そこに描かれていたのは、ワイングラスを片手に話している二人の男性だ。紅い髪と栗色の髪をしている。ただ特筆すべきは、赤髪の男性が栗色の男性の耳に顔を近づけていることだ。
「これはとあるパーティーでの一幕ですわ。私は壁の花になって、目の前で咲くかぐわしい花々を愛でていましたの。もちろん、大本命に期待してですわ。いつもどおり、ロクス様はロマンス令嬢様といらっしゃって、多くの女性を魅了されていました。でも、私の目は捉えたのです。カール様がいらした時、ロクス様がふわりと笑われたのを。そしてワインを片手に楽しそうに談笑され、それだけでも窮屈なドレスを着た甲斐がありましたわ」
熱く語る令嬢に対し、他の三人もうんうんと頷き返す。リーダーである彼女は絵と文の才能があり、挿絵付きの薄い本は常に品薄で人気作家だった。ロクカルの最大手であり、読者からは涙腺が枯れた、心臓がいくつあっても足りないと高評価を得ている。
彼女はさらに熱く語る。
「そして気配を消し、じっと見ていたその時、ロクス様がカール様に顔を近づけられたのです! もうこれは、確実に触れてますわ。頬に軽く、いえ耳かもしれない。その後カール様は取り乱された様子で、逃げるようにロクス様から離れたのです。あれは絶対恥ずかしくなったのですわ」
茶髪の令嬢は胸の前で手を組み、「最高でしたわ」と呟いて目を閉じる。他の三人もそれに倣い、すばらしき貴腐に神へ感謝するのだ。
皆で気持ちの高ぶりの余韻に浸った後、栗色の髪の令嬢が恍惚顔でほぅと溜息をつく。
「すばらしいロクカルでしたわ。これだけでパンを三つはいただけますわね。実は、私もそのパーティーにおりましたの。ここからは、ロクカルにミッチェルを入れてお話しますわ」
栗色の髪の令嬢は目を閉じ、その場面を頭で描きながら語っていく。
「ミッチェル様はご存知、カール様の弟でございますわ。カール様と同じ栗色の髪に、猫のような丸い目はなんとも可愛く、一目見て右の素質を感じましたの。そんなミッチェル様はよくカール様とパーティーにいらっしゃるのですが、兄弟ならではの距離の近さがたまらないのです。カール様がミッチェル様の頭を撫でたり、ミッチェル様がカール様の好物を取って来てあげたりと思いやっている様子が伝わって来て、温かい水が頬を伝いました」
この令嬢も物書きであり、特に兄弟に尊さを感じるタイプだった。さらには悲恋が好みであり、叶わぬ恋と兄弟という関係に思い悩むストーリーが大好物だ。だから、ミッチェルの想いが報われることはない。
「ですが、カール様はロクス様といつも一緒にいられ、寂しい想いが募ります。兄弟を超えた愛を訴えようとしても、弟扱いされてむくれるだけ。あぁ、素晴らしい。そしてとうとうロクス様と結ばれたことを知った時、焦がれる想いを泣きながら兄に訴えるのです」
「あぁ、カール様の困った顔に、涙目のミッチェル様が目に浮かびますわ」
「ロクカルは無限の可能性を秘めてますわね」
わいわいと話が弾むご令嬢たち。ロクカルとカルミルの話を掘り進め、隠し戸棚にしまわれた過去作を取り出しながら解釈やその後のストーリーを話し合った。ある程度話尽したところで、黒髪の女の子がすっと手を挙げる。
「ここで、カルロクについて語りたいと思います」
カルロク。それはロクカルと対をなす考えであり、場合によっては戦争となる危険なものだ。だが、この貴腐の会では「一切の否定をしない」を鉄の掟としていた。彼女は新進気鋭の作家で、ロクカルが多数を占める中でカルロクを推している。またストーリーがよく、長年のロクスファンをも唸らせる解釈の深さと描写力を持っていた。
「カルロクの良さは、なんといっても普段は強気で完璧なロクスが、カールの前だけで甘えを見せるところにあります。二人っきりになると可愛くなるロクス。最高です。次の新刊では、二人の出会いを考えました。学生時代にこの学園で出会った二人。ロクスはカールのことを最初は友人、商売仲間と考えていましたが、徐々にその優しさに惹かれていきます。そして、カールは一目惚れでした。ですが、身分差や友情、仕事の間で揺れるんです。触れたくても、甘い言葉を囁きたくても我慢しているのも知らず、ロクスはカールを試すようなことをしたり、誘惑しようとしたりします。そしてとうとう我慢ができず……という話ですわ」
彼女の語りは上手で、三人の脳内には情景がありありと描かれていく。気になるところで終わり、「あ~」と口を揃えて残念そうな声をもらす。
「それで、どうなるんですの?」
「どうやってくっついたのか、気になりますわ」
「新刊楽しみにしております!」
「えぇ、もちろん。早めに入稿ができたから、カルロクで魔王パロも書こうと思ってますの」
黒髪のご令嬢は速筆であり、三か月に一度行われる闇市という即売会では新刊を数冊出していた。
「魔王パロもいいですわね。尊大なロクスがたまりませんわ」
「カールが魔王という変わった本もありましたね。斬新で面白かったです」
話が魔王パロになれば、一人が戸棚から魔王パロの本を出して感想の言い合いが始まる。誰もがロクスとカールを愛しており、大切にしていた。
そして最後に、灰色の髪の令嬢がしずしずと手を挙げる。彼女は少し分厚い薄い本をテーブルに置き、真ん中の辺りを開いた。そこには煌びやかな男の人が二人。背の高い緑の髪をした男が銀髪の男を壁に押し付け、迫っている絵だ。彼女は挿絵をふんだんに入れた小説を書いており、新しいラドジルというジャンルを切り開いていた。
「私はやはり主従が一押しです。そして王子であるジルクがラドルフに攻められるところがいいのです。カルロクに通じるところもありますが、ジルクの俺様なところがラドルフの前ではころりと乙女のようになるのが最高です。なにより近くで一部始終を見られるのがいいのです。今日もやんちゃなところがあるジルク様に、ラドルフ様は呆れながらも甲斐甲斐しく世話を焼かれていました。今回の新刊は、学園で人目を避けて行われるあれこれを詰め合わせましたわ!」
鼻息が荒くなる令嬢は、王子と同じクラスだった。ゆえに彼女のネタ帳はどんどん埋まっていく。
「生でお二人を見られるなんてうらやましいですわ」
「お二人は学園でのお姿もおいしいですが、パーティーで寄り添われている姿も最高ですよね」
「きっと将来は王と宰相という関係になって、ずっと隣にいらっしゃるんですわ」
そうして各々が熱い思いを口にして、語っていく。気が付けば日が傾いており、皆渇いた喉をお茶で潤し満足したところで、恒例の締めのセリフを皆で唱和する。
「では、今日もよき貴腐に出会えたことを感謝して。貴腐の会、鉄の掟を唱和します」
茶髪の令嬢の声に続いて、皆の声が一つになった。
「1、この会で話したことは貴腐の会員以外に漏らさない。2、モデルとなった方々の心の安寧を守るため、本の存在を明るみにしてはならない。3、解釈は自由であり、会員の好みに口を出さない。4、新刊を落とさない」
きれいに声がそろい、全員が顔を見合って頷いた。貴腐の会員はこの掟により、固い絆で結ばれており、この先も続いていくのである。
以前お気に入りユーザー様の割烹で盛り上がった、貴腐ネタ。某作品の感想欄でも一部貴腐の会員の存在が見受けられましたので奉納します。
実は、腐女子ネタも好きでいくつか読んだことがあり、書こうかなと思ったりしたのですが、あまりその生態に詳しくないのでボツにしたんですよねー。




