小さな冒険者たちの帰還
山小屋に向かう途中で、冒険者の人達から労いの言葉をたくさん貰った。僕は、その都度ありがとうとお礼を言う。
そして、山小屋の扉の前に来た。
扉を小さく、2回ノックをする。そして、扉をゆっくり開ける。
「サーク!!」
2人の声が一緒に聞こえてきた。その言葉に安心した僕は、
「た、ただいま。」
そう声をかけた。扉の中に入った瞬間、マーニャが抱きついてきた。
「ごめん、心配かけちゃった。」
マーニャの肩が震えていて、時折僕に強く抱きつく。
「心配したんだぞ・・・。」
ロンドも、目に涙を浮かべている。
「ごめん。」
僕はそう言うしかなかった。
それから、僕らは床に座る。しばらく無言の時が流れた。
マーニャが落ち着きを取り戻したころ、僕は話を切り出す。
「二人とも、ごめん。魔法石全部使っちゃった。」
二人は、判ってるといった感じで頷く。
「とにかく、今日はもう家に帰ろう。皆、心配してるだろうし。」
僕達は、顔は違うけど、同じ人たちの事を思い浮かべていた。
「帰ろっか。」
そう言って、僕達はゆっくりと立ち上がった。
山小屋を出た僕達の前に、冒険者の人達が集まってくる。
「僕達、街に帰ります。」
僕は冒険者の人達にそう言うと、その中の一人の冒険者が僕達に声をかける。
「なら、街まで送るよ。」
大きな杖を持った冒険者が、おもむろに地面に魔法陣を書き始める。
そして、近くにいた他の冒険者がカバンから大きな絨毯を取り出した。
「皆で帰ろう。」
どうやら、ここにいる冒険者の人達はパーティだったようだ。
魔法陣を書き終え、魔法陣の上に絨毯を乗せると、絨毯が地面から少し浮き上がる。
そこに、魔法陣を描いた冒険者が乗り込む。そして僕達を呼び、絨毯に乗せた。
僕達が乗ったのを確認して、他の冒険者達も絨毯に乗り込む。僕達を含めて、7人が大きな絨毯に乗り込んだ。
「じゃあ、行くよ。」
大きな杖を地面にあてると、魔法陣から強い風が吹き始めた。そして、その風に押されるように絨毯が空を舞った。
僕達の前に、今まで見た事のない景色が広がる。遠くに小さく見える大きな国の城、そして高い場所からでも先が見えない森。
「世界って、こんなに広いんだなぁ。」
僕は思わず呟いた。その言葉に、二人は頷きで答えた。
暫くすると、視界の中に見慣れた広場が見えた。見慣れてはいるけど、この光景は初めてだ。
「さあ、もうすぐ着くよ。三人とも、頑張ったね。」
大きな杖を持った冒険者が、僕達に言葉をかける。
「僕達・・・怒られるよね。」
僕は今一番の不安を口にする。すると、女性冒険者の一人が話しかけてくる。
「怒ってくれるのは、君達を本当に心配してくれているからよ。」
その人は、僕達の頭を撫でる。
「だから、あなた達も、ちゃんと今まであったことを正直に話して、皆を安心させてあげてね。」
「はい。」
僕はそう答えた。けど、やっぱり怒られるのは嫌だと思った。
「ほら、皆が出迎えてくれてるよ。」
その言葉を聞いて、僕達は街を見る。街の広場には、沢山の人が集まっていた。
「あ・・・。」
僕達は、その中でそれぞれ見知った顔を見つけた。
「さあ、着陸だ。」
そうして、僕達の乗った絨毯は広場に降りた。
僕達の今回の大冒険は、これでひとまず終わりを告げた。
結局、僕達の長いお休みは、その殆どを家の手伝いに費やされる事になった。
その時でも、三人が集まれる時もあった。ロンドがそのきっかけをくれる。
「こんにちは、配達に来ました。」
ロンドが家の裏口から顔を覗かせる。正面はお店になっているため、配達品は裏口で受け取っている。
「よう、今日も手伝いだな。」
「そっちこそ、毎日配達ご苦労さん。」
僕とロンドの受け答えは、最近ずっとこんな感じだ。
ロンドの持ってきた荷物を確認して僕は店に運ぶ。
「そうそう、今日は広場に夜店が出るそうだ。行くか?」
ロンドが魅力的な提案をしてきた。答えは決まっている。
「行こう!マーニャは?」
「さっき伝えてきた。行くそうだ。」
予想通りの答えを返してくれるロンド。
「三人で遊ぶのは久しぶりだね。」
「そうだな、何だかあの日が遠い昔のように思えてくる。」
「そんなに日にち経ってないよ。」
そう言って、僕達は笑った。
「サーク!こっち来て手伝ってくれ!」
店の方から、父さんの声が聞こえる。
「じゃあ、夜に迎えに行く。」
「よろしく。」
そう言って、ロンドは次の配達先へ向かった。
あの日、まず僕達は両親にこっぴどく怒られた。父さんには殴られたけど、その後は二人を守ったことを褒めてくれた。
二人の両親からも、お礼を言われた。けど、僕はシェルさんの言葉を思い出して、皆に謝っていた。
そして、ギルドから呼び出された僕達は、そこでも怒られた。皆、僕達を心配してくれていたんだ。
それから、僕達は依頼をキャンセルして、正式に依頼が終わった。
依頼は失敗に終わって、僕達にはお金がない・・・はずだった。
でも、川で見つけたあの魔法石を売ったお金、これをロンドが持っていた。
僕達は、そのお金で休みを満喫する事にしたんだ。
その日の夜、閉店作業も終わり、僕は二人を待っていた。
辺りが真っ暗になった頃、家の裏口の扉をたたく音がする。
「サーク、行こう!」
二人が僕を呼びに来た。僕の手伝いは全て終わっている。これからは自由時間だ。
「行こう!」
僕は二人と残り少ない休みを満喫するために、一緒に広場に向かった。