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休み前の大冒険  作者: めび
6/7

大人は見捨てない

風が頬を撫でる感触がする。僕は、そっと目を開いてみる。辺り一面暗く、既に日が落ちて数時間が経っているようだった。

「生きてる・・・?」

何が起こったかを思い出してみる。確か、持ってた魔法石を全部使って・・・。

「助かった?あの高さから落ちて?どうして?」

どう考えても、あの状態で僕が助かるとは思えない。それに、体も動く。少し痛むが、ほぼ無傷だ。

「そうだ、ギルドに連絡を。」

僕は寝そべったまま、左手の指輪に手をかざ・・・。

「ない?!」

左手にあるはずの指輪が無くなっている。

「どうしよう・・・。助けが呼べない・・・。」

光は星の明りしかない、ろくに周囲が見れないせいか、僕は不安に駆られていた。

「こんな時に、モンスターにあったら・・・。」

後ろ向きな事ばかりが思い浮かぶ。

「こんな事なら、来なきゃよかった。」

もう起き上がる気力もない。もう帰れないんだと思うと、涙があふれてくる。

「おなか、すいたなぁ。」

そう呟いて、僕は目を閉じた。

意識が闇に落ちていくほんの少し前、何かの気配がしたが、僕はそのまま意識を闇に落とした。


なんだか、身体が温かい。それに、なんだか頭に当たる感覚がやわらかい。

とても心地よい感覚の中で、僕はゆっくりと目を開けると、目の前に知らない女の人の顔があった。

「わ!」

「がぅ!」

僕は驚いて飛び起きた。女の人も驚いていた。どうやら、膝枕をして体に布を被せてくれていたようだ。

「目が覚めたか。」

男の人の声がして、その方向を見る。ターバンを巻いた男の人が焚火のそばに座っていた。

僕はその光景を見て、助かったという実感がわいた。

「あの・・・助けてくれて、ありがとうございます。」

僕の言葉に、二人は少し笑う。何かおかしかったのだろうか?

「いや、俺達は倒れている君を介抱しただけだよ。それより、君の名前は?」

「僕は、サークです。」

少し落ち着いたところで、僕は二人の事を思い出した。

「そうだ!あの、僕と同じくらいの二人が、山小屋にいるんです!連れて行ってくれませんか?」

二人の事が心配でたまらない。僕は二人にお願いする。

「あぁ、あそこか。大丈夫、今の山小屋はこのエリア内のどんな場所よりも安全だ。」

「え?」

男の人は、不思議なことを言い出した。安全?山小屋に行けたから安全なのかな?

「君たちを保護するというクエストが発行されたんだ。」

「クエスト?」

「ああ、君たちが今受けている魔法石回収と同じだよ。」

そう言って、男の人が笑う。

「割のいいクエストは取り合いになるからね、これも取り合いだったよ。」

「僕達の保護が、割のいいクエスト?」

僕は、男の人が言っている事の意味がよくわからなかった。

首を傾げた僕を見て、男の人が頷いて説明を続けてくれた。

「ああ、敵も少ないうえに弱くて、保護対象の場所が判っている。現地に到着して、無事に街まで送り届ければ報酬が貰える。」

男の人が焚火に薪をくべ、火を少し大きくする。

「それに、特殊な事情というのも加味されて、いい報酬になっているという事も大きいね。」

「特殊?」

「ギルド的には、君たちは正式な冒険者じゃない。言ってみれば、体験学習という所だ。そこで事故が発生したら、ギルドの信用問題になる。」

男の人がニヤリと笑う。

「だから、何としてでも無傷で助ける必要がある。という事だ。」

「じゃあ、今頃二人は・・・。」

「山小屋で冒険者達に守られてるよ。」

その言葉に、僕はほっとした。二人はもう大丈夫だ。

「じゃあ、僕も他の冒険者さん達に?」

僕は周囲を見渡す。その姿を見て男の人が少し笑う。

「いや、君はちょっと事情が違う。」

「え?」

「もう気付いてると思うが、指輪とバッジがないだろう。」

僕は、バッジを見る。が、バッジのあったところには小さな穴が開いている。

「あれ・・・いつの間にバッジまで・・・?」

「それらは、無くなったというより、役目を果たしたというのが正しいかな。」

「役目?」

キョトンとしている僕に向けて、男の人が話を続ける。

「どちらも、装備者の身を守る魔法がかけられていたんだ。効果が発動したら、発動した場所をギルドに伝える仕組みになってる。」

「じゃあ・・・。」

「君は、2回命の危険があったという事だ。何があったかは判らないが、緊急事態であったことには違いない。」

2回、その回数には覚えがある。最初に魔法石を発動させた時と、高い場所から落ちた時だ。

男の人の説明に納得した僕は、聞くタイミングを逃した質問をする。

「あの、あなた方は?」

「ああ、自己紹介がまだだったな。俺はシェル、こっちがライフルだ。よろしく。」

ライフルと呼ばれた女の人が、一礼する。僕はその姿に違和感を感じた。

「だから、君の捜索依頼は専門家の俺の所に来たんだ。」

「専門家?」

「ああ、俺達は捜索が得意なんだ。色々やってたからな。」

シェルさんが、不敵に笑う。そして、ライフルさんも微笑んでいる。

僕は、ライフルさんの方をじっくりと見る。

「あれ・・・ライフルさんって?」

焚火に照らされているライフルさんの姿、頭に二本の角と長い青い髪、背中には青い翼、そして長く伸びた尻尾。

「人間じゃない?!」

「ライフルは、竜人だよ。人間の街にはあまり行かないから見ないかもしれないが、冒険者は人間以外も多いぞ。」

「がう、がうがぅ。」

ライフルさんが僕に手を差し出す。僕がその手を握ると、ライフルさんはやさしく握り返してくれた。

「だから、今のうちに慣れておくことだな。何をするにしても、相手は人間以外の事も多い。」

「はい。」

僕は頷いて答える。そうだよね、人間以外の方が、数は多いよね。

「それじゃあ、今日はもう遅い。俺達がいるから、ここでゆっくり休むんだ。」

「がうがう。」

ライフルさんが、自分の膝をポンポンと叩いている。

「あ、あの、いいんですか?」

にこやかにライフルさんが頷く。僕は、その好意に甘えることにした。

僕が、ライフルさんの膝に頭を乗せると、ライフルさんがそっと頭を撫でてくれた。それだけで何だか安心できた。

それから、僕の意識はすぐに闇に落ちていった。でも、今度の闇は心地よかった。


瞼を閉じていても、陽の光を感じる。僕はゆっくりと目を開ける。

「がう、がうがう。」

僕の頭の下には、丸められた布がある。そして、目の前にはライフルさんの顔があった。

「あ・・・お、おはようございます。」

昨日寝る前の感触を思い出して、僕は少し照れてしまった。

「おう、おはよう。良く寝れたみたいだな。」

「は、はい。」

外で寝るのは家族で来たキャンプ以来で、こんな状況で寝たのはもちろん初めてだった。

それでも、ちゃんと寝れたのは、シェルさんとライフルさんが居てくれたからだと思う。

「さて、これでも食べて、サークの仲間と合流するか。」

シェルさんが、僕に果実を渡してくれた。見たことのない黄色の丸い果実だったけど、サークさんが渡してくれるなら間違いないと思って、その果実を皮のままかぶりついた。

シャリっとした少し硬い歯ごたえの跡に、強烈な甘みを帯びた果汁が口に広がる。その甘みで一気に目が覚める。これは一体?

「あの、この果実は?」

「それは、ドラゴアップルっていう、ライフルの故郷の名産品だ。甘みが強いから、食べれば元気が出るだろう。」

「はい。」

一口、二口と口に運ぶ。その都度、甘い果汁があふれ出して僕の力になっていく。

「がうがう。」

果汁で汚れた手を見て、ライフルさんがハンカチを渡してくれた。そういえば、リュックの中に入っていた道具は全部なくなったんだった。

「ありがとうございます。」

そう言って、僕はライフルさんのハンカチを借りて手を拭く。

「これ、洗ってお返しします。」

「がーう。がうがう。」

ライフルさんが首を横に振って、にこやかな顔で手のひらを向ける。

「そのハンカチ、サークにあげるって言ってるぞ。」

「あ、はい。ありがとうございます・・・って、シェルさんにはライフルさんの言葉が判るんですか?」

「ああ、判るぞ。もう何年も一緒に居るからな。」

「がう。」

ライフルさんがシェルさんを見て頷く。

「じゃあ、そろそろ行くか。」

「はい!」

シェルとライフルさんが先導してくれる。僕は二人の後を追いかけていった。

山道を戻る僕とシェルさんとライフルさん。周囲の道は泥に塗れていて、あの時の傷跡を残している。

「さて、山小屋に行くまでに、ちょっとお話をしておこうか。」

シェルさんが僕の方を振り向いて話す。

「サーク、君は今回の冒険でたくさん勉強したと思う。でも、その中で重大なミスをいくつか犯してしまった。」

シェルさんの言葉が胸に重く響く。

「ミスは誰でもするから、誰も責めないし、責めれない。だけど、次からはそのミスを犯さないようにしなきゃならない。」

泥で滑りやすくなっている山道を慎重に上りながら、シェルさんは続ける。

「今回の最大のミスは、一人で敵に立ち向かったことだ。」

「で、でも・・・僕じゃないと戦えない。」

僕は、あの状態での最前の行動をしたと思っていた。けど、それをシェルさんに否定されて、思わず言い返してしまった。

シェルさんは、表情を変えずに頷いて、僕の目をまっすぐ見て言葉を続けた。

「うん、その考えが間違っていたんだよ。僕じゃないと、って時は確かにある。でも、戦いにおいて一人で残るっていうのは最終手段だよ。」

最終手段という言葉を聞いて、僕は下を向いてしまう。

「最終手段を取ると、そのまま最悪の手を選んでしまいがちだ。今回の最悪の手っていうのが、君がやったこの魔法石の爆発だ。」

シェルさんは、周囲の泥を掬って見せる。

「一人30個の魔法石だったか、そのうちの数個を周りに投げながら3人で山小屋を目指していれば、ここまで酷くなってないだろう。」

「ご、ごめんなさい。」

「責めてるわけじゃない。そういう考えに至るには、自分が一度経験しないと無理だからな。」

掬った泥を山道の脇に落とし、シェルさんが続ける。

「特に、若いうちは猶更さ。だから、沢山経験をすることだ。失敗をな。」

立ち止まって泣きそうになっている僕を、ライフルさんが後ろから抱きしめてくれた。

「がう、がう。」

僕を慰めてくれてる、言葉は判らなくても意図は伝わってきた。

「それに、この状況はギルドにとっても、冒険者にとっても悪くない。」

「え?」

僕の驚いた声の後、シェルさんが言葉を続ける。

「街道ではないが、観光資源だからな。ここを修繕するために国が依頼を出す。こういう時は、大体冒険者ギルドに出すんだ。建築ギルドとかに頼むよりも安上がりだからな。」

「違うんですか?」

「詳しくは知らないが、大体一桁ぐらい違うらしい。で、それなりにスキルのある冒険者が修繕する。一応、国の依頼だから慣れてる冒険者を優先するがな。」

シェルさんが笑いながら答える。そして、最後にこう言ってくれた。

「そいつらに任せておけば、この山の清掃は2日もあれば終わるだろう。だから、君が気にする必要はない。」

「は、はい。」

なんとなく世の中の動きを教えられて、僕は生返事しかできなかった。でも、その話が本当なら、僕の気持ちも少し楽になる。

「まぁ、俺達も昔はもっとひどい事をやったからな。」

「え?!」

突然の告白に僕は目を大きく開いてシェルさんの顔を見る。

「生きてれば色々な人に迷惑かけるもんだ。これくらいの迷惑なんて、可愛いもんだよ。」

「がうがう。」

ワハハと笑うシェルさん。

そして、ライフルさんも頷きながら笑っている。

その光景を見て、僕はその言葉が真実なんだと思った。

「見えてきたな。」

シェルさんが前を指さす。そこには、昨日見た山小屋がある。

それと同時に、周囲を冒険者と思われる人達が見回っていた。

「言った通り、安全そうだろ。」

シェルさんの言葉に、僕は頷く。

「さて、仲間に会って来い。」

僕の背中をトンと押すシェルさん。

「一緒に来てくれないんですか?」

「俺達の仕事は君の保護だからな、連れて帰る事じゃない。だから、昨日の時点で仕事は終わってたんだよ。」

シェルさんがニヤリと笑う。その言葉に、僕は頭を下げてお礼を言った。

「はい。ありがとうございました。」

無言で手を上げるシェルさん、ライフルさんもにこやかに手を振っている。

僕は二人を背に、山小屋に向かった。

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