登山
僕達は、川の上流を目指す。30分も歩いていると、徐々に背の高い木が目立ってきた。
地面を見渡しながら歩いていると、所々に魔法石が落ちている。
「こうしてみると、魔法石って結構落ちてるよね。」
「そうだな、あまり気にはならなかったが、小さいのなら色々あるな。」
そう言って、ロンドは足元に落ちていた小指の爪ぐらいの大きさの土の魔法石を拾い上げる。
「こんなのは、普通に砂になるからな。」
ロンドは魔法石をつぶすと、その魔法石は少しの砂粒になった。
「歩いてるだけで、砂になるから、気付かなかっただけかも。」
「そうかもしれないな。このくらいの水の魔法石だとすぐに蒸発するだろうし、風の魔法石なら歩いてるときの風に紛れて判らないだろうしな。」
ロンドの言葉に僕は頷いた。
「そういえば、火の魔法石って見ないよね。今回の依頼も水と土と風だし。」
「あぁ、あれは火が関係してる場所にしか出来ないらしいんだ。僕達だと到底たどり着けないよ。」
マーニャの質問に、僕が答える。
「火って言ったら、火山とか?」
「うん、取れる場所も限定されてるから、あまり出回らないって話だよ。」
手のひら大の火の魔法石1個で、同じ大きさの水の魔法石15個分ぐらいの価値がある。
「ねえ、魔法石っていったい何なのかな?」
「うーん・・・。」
次のマーニャの質問に、僕とロンドが首をかしげる。でも、僕達には全く分からなかった。
「今こんなこと考えても仕方ない。早く山に登ってお仕事終わらせよう。」
「そうだな、サークの言う通りだ。」
「うん。」
僕の提案に、ロンドとマーニャが頷いた。
そして、緩やかに登る道を眺めながら、僕は呟く。
「そろそろ、道が険しくなるかな?」
目線を少し上に向ける。その先には、徐々に傾斜がついた道があり、それに合わせて木の高さも高くなっていく。
「この坂を上り切ったら、最初の崖があるから、そこでまず探そうか。」
「そうしよう。」
そう言って、僕たちは山を登り始めた。
坂を上り切った僕達の前に草むらが広がる。草むらのすぐ先は崖になっていて、下にはまばらに木が生えている。
「落ちたら痛そうだね。」
四つ這いになって崖下を覗き込むマーニャ。
「気を付けろよ。」
僕とマーニャにロンドが呼びかける。
「判ってるって。」
そのロンドの声に僕は言葉を返す。マーニャは崖下を見ながらうわぁと呟いていた。
足元に生い茂る草をかき分けながら魔法石を探す。
そんな時、マーニャがふと疑問を投げかける。
「ここ、あまり風が吹かないね。」
マーニャの言葉に、頷く僕とロンド。
「丁度風がやんだのかな?」
周囲の木の葉を見るが、揺れている様子は無い。
「いや、マーニャの言う通り、ここはハズレみたいだな。」
ロンドが地面を指さす。そこには、手のひら大の魔法石が埋まっていた。
「土の魔法石?」
「ああ。風の魔法石があるところには、こんな大きな土の魔法石は無いらしいからな。」
「じゃあ、もう少し上に行かないとダメって事?」
「そうだな。」
ロンドは山の頂上へ続く道を見る。
「山小屋辺りに何かあるかもしれない。そこまで行ってみるか。」
それから僕達は再び山道を登り始める。
そんな時、マーニャが不意に声を上げて一点を指さす。
「ねえ、二人とも、あれ何かな?」
指さした点を見る僕とロンド、何か動くモノが見えるが、遠くて何なのか判らない。
「何だろうな・・・。」
ロンドにも何かわからないようだ。
「でも、向こうも気付いていないようだから、そっと離れよう。」
僕は嫌な予感がして、二人に提案する。二人は首を縦に振って、そのまま山道を歩き始めた。
「二人とも・・・ちょっといい?」
山小屋が見えてきた辺りで、マーニャは僕達に声をかける。
「どうした?」
「あのね・・・山小屋に着いたら、ちょっとお花摘みに行っていい?」
顔を真っ赤にしてマーニャが言う。その言葉と様子を見て僕達は察した。
「うん、行っておいで。僕達は山小屋の前で待ってるから。」
「ありがと。」
そう言って、マーニャは少し足早に坂を上っていく。それに着いて行く僕とロンド。
「あれだけ飲めばなぁ。」
僕はマーニャの急ぐ姿を見ながらそう呟いた。
マーニャが急いだおかげで、山小屋には予定より早く着いた。
山小屋には人影がなく、扉は鍵もかかっていない。
「じゃ、じゃあ私行ってくるね。」
もじもじしながら、マーニャが山小屋の裏に回る。
「ここは、ずっと変わらないよな。」
「そうだね。」
山小屋を見上げながら、僕とロンドは呟いた。
「あの時には、全く気にしていなかったが、意外と魔法石は落ちてるもんなんだな。」
ロンドが足元に落ちている石を拾い上げる。小さいが、土の魔法石の様だ。
「土の魔法石、ここにも風はないかもしれないな。」
「となると、もう頂上しかないけど。」
「いや、まだこの裏手側の草むらを見てない。マーニャが戻ったら行ってみよう。」
山小屋の裏手側は、少し背の高い草が生い茂る草むらになっている。そして、その先は崖だ。
「ここ、ピクニックコースにはなってるけど、結構危ないよな。」
「一歩間違えたら、崖だもんな。」
ロンドとそんな話をしていると、山小屋の方から足音が聞こえてきた。
「お待たせ~。」
マーニャが手を振りながら戻ってきた。が、僕とロンドはその姿を見て動きが止まっていた。
「あれ?二人とも、どうしたの?」
僕達の様子を見て、首をかしげているマーニャ。
「ま、マーニャ、ゆっくりこっちに来て。」
僕はマーニャに手招きをする。
「変なの。」
そう言いながら、マーニャは僕達に近づく。手を伸ばせば届く所に来たマーニャをロンドは引き寄せた。
「え?」
突然の事に驚くマーニャ、そして僕はマーニャの前に立つ。
「僕に任せて。」
僕の目の前には、この周囲でよく見るスライムが体を揺らしている。
僕は腰のナイフを抜いて構える。この中では、僕が一番戦える。
「二人とも、ゆっくり下がりながら小屋の中へ。」
僕は後ろを振り向けなかったけど、ロンドが僕の肩を叩いて合図をしてくれた。
僕は構えたままスライムを見据える。スライムはその事に気付いたのか、僕の方ににじり寄ってくる。
暫くすると、山小屋のドアが開く音が聞こた。
「サーク、こっちは大丈夫だ。」
「サーク、気を付けてね!」
ロンド達がが無事に山小屋に入ったことを教えてくれた。その声を合図に、僕はスライムに切り掛かった。
スライムは液状で切っても効果はない、その事は僕も判っている。
だから僕は、ナイフを突き刺した後、スライムの体液をかき出す様にナイフをえぐりながら抜いた。
こうしていけば、えぐられた体液が蒸発していくため、いずれスライムは倒せる。
「後、どれぐらいで倒せるかな。」
僕は、少しづつ小さくなっていくスライムをさらに切り続ける。ある程度小さくなったところで、僕はスライムに向けて地面を蹴り上げて砂をかけた。
砂まみれになったスライムは動きを止める。こうなると、スライムはもう動かない。
「はぁ。片付いたかな。」
少し息を整えてから、僕はナイフを鞘に戻した。砂まみれのスライムは、いつの間にかなくなっていた。
その様子を山小屋の扉の隙間から覗いていた二人が、扉を開けて僕の所に駆け寄ってきた。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。」
「さっすが!サークは頼りになるね。」
マーニャが僕の手を握って大きくブンブンと振る。
「あれぐらいなら、何とかね。」
僕は少し照れながら答えた。
「さっき、マーニャが見つけた何かって、これだったのか?」
ロンドが、砂の固まりになったスライムを見て僕に尋ねる。
「いや、違うと思う。あれはスライムより大きかったし。」
「そうか。」
「でも、もうモンスターが出始める時間・・・ロンド、今日はもう帰ろう。」
僕は傾きかけている太陽を見て、ロンドに提案する。
「まだ大丈夫だと思うが。」
僕とロンドが少し考え込む。その光景を余所に、マーニャが山の奥に入っていく。
「二人とも!頂上行ってみよう!」
「お、おい!ちょっと待て」
僕達の声を気にも留めず、走って山の頂上へ向かうマーニャ。それを僕とロンドが追いかける。
この山の頂上には風車小屋が建っている。マーニャは風にまつわる場所に風の魔法石があると思ったんだろう。
山小屋から頂上まではそこまで時間はかからない。が、走っていくとなるとさすがに息が切れる。
「とーちゃーく!」
マーニャが風車小屋に手をつく。その後に続いて僕とロンドがたどり着いた。
「ま、マーニャ。頼むから思い付きで走らないでくれ。」
「もう、二人ともだらしない。特にロンドはもっとがんばろ。」
息の上がった僕とロンド、そのロンドの肩をマーニャがポンと叩く。
「マーニャ、時間も遅くなりそうだから、もう帰ろうかと相談してたところなんだよ。」
「そうだったの?」
僕の説明に、キョトンとした表情を見せるマーニャ。
「それでもまあ、ここまで来てしまったんだから、探してみようか。」
なし崩し的に頂上まで登ってきた僕達だったが、気持ちを切り替えて魔法石を探すことにした。