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休み前の大冒険  作者: めび
2/7

初めてのクエスト

目的にに到着した僕達は、一つの間違いをしたことに気付く。

「結構、人いるね。」

「そうだった。募集人数無制限で、この割のいい仕事なら、誰しもほっとく訳がないな。」

おじさんに草原の川沿いの橋で降ろしてもらった僕達。しかし、川にも草原にもすでに先客がいた。

そのほとんどが僕達と同じ服を着ている。間違いなく同じ依頼だろう。

「だ、大丈夫。きっとまだ落ちてるよ。」

僕は目の前の状況を見て、少し慌てていた。しかし、ロンドとマーニャはそうでもないみたいだ。

「そうだな、この橋近くは無いかもしれないが、上流か下流に行けばまだあるはずだ。」

「風の魔法石も必要になるから、このまま上流に向かって行って山を目指しましょ。」

マーニャが川が流れてくる方向にある山を指さした。確かに、風の魔法石は山頂付近の良く落ちている。

「そうしよう。」

ロンドがその提案に乗る。僕も異存はなかった。

僕達は、先客がいる橋付近から、川の上流である山に向かって歩き始めた。

山までの道は川沿いの散策ルートとなっていて、しっかりと舗装されている。

その道を僕達は周囲を見渡しながら山を目指す。

「土の魔法石、なかなか落ちてないな。」

小さい魔法石は沢山落ちているが、手のひらサイズとなると中々見つからない。

「土は、ちょっと掘ると出てくるって話だよ。」

僕は前に読んだ本に書かれていたことを思い出した。

「じゃあ、掘ってみるか。」

ロンドは自分のリュックからスコップを取り出して道外れの地面を探り始めた。

「ねえ、あそこ見て!」

不意にマーニャが声を上げる。マーニャは川を指さしていた。

その先には川の中に落ちている青い石があった。

「どうしたの?」

「あそこ、魔法石じゃない?」

確かに、青い大きな石が見える。

「ほんとだ・・・ちょっと見てくるよ。」

そう言って、僕は靴と靴下を脱ぎ、ズボンの裾をまくり上げて川に入った。

「冷たい!」

川の水はひんやりと僕の足を包み込む。しかし、あの青い大きな石の前ではそんな事はどうでもよかった。

僕は川の中央付近に到着する。足元には岸から見たよりも大きい石が落ちている。

「これだね。」

僕は大きな青い石を持ち上げようとした。しかし、意外と重い。

「っと・・・。ゴメン、マーニャ、手伝ってくれるかな?」

一人では無理と感じた僕は、マーニャに手伝いを求める。マーニャは首を縦に振って僕と同じように靴と靴下を脱ぎ、ズボンをまくり上げる。

「うわ、冷たい。」

川に足を付けたマーニャも、川の水の冷たさに驚く。

「魔法石が近くにあるからかな?」

「かもしれないね。」

そう言いながら、じゃぶじゃぶと音を立ててマーニャが近づいて来た。

「大きな魔法石・・・。」

僕とマーニャはその魔法石を持ち上げる。二人がかりでようやく持ち上がる魔法石。

「ねえ、これ一つで休み中は十分遊べるんじゃないかな?」

「でも、これはさすがに持ち運べないよ。」

魔法石は自然に大きくなる。しかし、これを砕くことは出来ない。

何しろ、魔法石の効果が発動するのは、これを砕いた時だからだ。

「これ、使ったら一大事ね。」

「うん、川の水位が一気に上がるよ、これは。」

ゆっくりと慎重に魔法石を運ぶ僕とマーニャ。

「これ、どうしようか?」

「うーん。商人さんでも通りかかってくれれば、直ぐに売っちゃうんだけど。」

今いる場所は散策コースであるが、ほかの街に繋がる街道ではない。商人が通るのは望みが薄い。

「ギルドに相談してみる?」

「そうだね。」

ギルドは、依頼遂行中の冒険者の相談にも乗ってくれる。今回のような判断に困る時は適切な指示を出してくれる。

でも、ギルドに相談する前に、まずはこの大きな魔法石を無事に岸まで運ばなければならない。

「ここ、ちょっと滑るよ。気を付けて。」

「うん・・・大丈夫。もう少しね。」

まずは僕から岸に上がる。そして、少し下がった後でゆっくりと魔法石を岸に置いてマーニャは川から上がる。

「はぁ、重かった~。」

「こんなに重いとは思わなかったよ。」

僕とマーニャは一仕事終えた感じで大きく息をついた。

「じゃあ、これをどうしたらいいか聞いてみるよ。」

「お願いね。」

僕はギルドの指輪を触って起動させる。

「すみません、聞こえますか?」

『はい、どうされました?』

僕が問いかけると、すぐに指輪から声が返ってきた。そして、すぐに僕たちの今抱えている問題を告げる。

「あの、とても大きい魔法石を拾ったんですけど、ギルドで何とかできますか?」

『大きい魔法石ですか・・・。ちょっと待ってくださいね。』

しばらくの沈黙の跡、指輪から声が聞こえてきた。

『お待たせしました。近くにその魔法石が欲しいという方が居ましたので、場所を教えておきました。』

「場所?」

僕は場所を教えてないのに、何故場所を教える事が出来るのか。その疑問が声に出ていた。

『今、話をしている指輪と、身に着けているバッジは、いろいろな機能が付いていますからね。』

確かに、この指輪は特別製と聞いていたけど、バッジも特別製とは思ってもみなかった。

『すぐ着くそうなので、後はその方にお任せしますね。では、引き続き気を付けて頑張ってください。』

そう言って、指輪からの反応は無くなった。

「これが欲しい人、すぐ来るって。」

僕はマーニャにギルドとの話を伝えた。

「よかったぁ、こんな重いもの、また戻しとくってなったら大変だもんね。」

青い魔法石を撫でながらマーニャが一息つく。そんな中、ロンドがリュックサックを一杯にして僕とマーニャの前に現れた。

「おい、大漁だったぞ・・・って、なんだ、このバカでかい魔法石は。」

ロンドは物珍しそうな目で青い魔法石を眺める。

「マーニャが見つけたんだ。僕もこのサイズは初めて見るよ。」

「これ、どうするんだ?」

「ギルドに相談したら、欲しい人がすぐに来るって。」

「へぇ・・・こんなのをなぁ。」

青い魔法石を軽くノックしたり、手触りを確認するロンド。

「一体こんなの、どこでどうやって使うんだ?」

大きい魔法石はそれだけ効果も威力も高いが、何分使い勝手が悪い。そんなものを欲しがる人がいるのは僕も驚いている。

「研究者の人が、研究目的で・・・とかかな?」

「かもな。」

ひとしきり観察して満足したのか、ロンドは自分の背負っているリュックサックを地面に降ろし、一息ついた。

「そうだ、ロンド。さっき大漁とか言ってなかった?」

「ああ、これだよ。」

ロンドはリュックサックを開けて僕達に見せる。そこには、手のひら大の土の魔法石が詰まっていた。

「40個は拾ったからな。十分だろう。」

得意げに話すロンド、僕とマーニャは素直にロンドの功績を喜んだ。

「これで、後は水と風だね。」

「ああ。でもこの魔法石のあまりは俺が貰うぞ。」

僕とマーニャはロンドの言葉に頷く。この魔法石を採取したのはロンドだから当然だ。

ロンドから魔法石を分けてもらう僕とマーニャ。それぞれのリュックサックに魔法石を詰め込む。

「こんにちは。」

「ひっ!」

魔法石を詰め込んでいる最中に、不意に話しかけられた僕達は変な声を上げる。

「ごめんごめん、驚かせちゃったみたいだね。」

そこには、短い黒髪で眼鏡をかけた男の人が立っていた。

「サーク君は居るかな?」

「僕ですけど。」

僕は男の人に答える。

「僕はヴァーニス。ギルドから聞いて来たんだ。」

ヴァーニスと名乗る男の人が、そう言って僕に握手を求める。僕はそれに応じて握手を交わした。

「で、それが大きい魔法石だね。」

ヴァーニスさんがマーニャの隣にある魔法石を指さす。

「なるほど、立派な魔法石だ。これは中々見ないよ。」

青い魔法石に近づいて、手で触れて確かめるヴァーニスさん。

「で、君たちはこれをいくらで譲ってくれるのかな?」

「はい。いくらで買ってくれますか?」

僕の言葉に、ヴァーニスさんの表情が砕ける。

「ハハハッ、君たちにはまだ交渉事は難しかったかな。」

「え?」

僕はなんで笑われたのか全く分からなかった。その事を把握したのか、ヴァーニスさんが言葉を続ける。

「買いたい相手に値段を決めさせちゃだめだよ。タダで引き取るって言われても仕方ないんだから。」

「あ!」

そう言われて、僕はハッとする。そうか、だからお店には値札があるのか。

「じゃあ、もう一度聞くよ。君たちはこれをいくらで売ってくれるのかな?」

「それじゃあ・・・。」

僕は考え込む。いくらだろうか、普通の魔法石をお店で買うと一つ30ぐらいだから・・・。

「1万だ。」

ロンドが急に言い放った金額に、僕は驚いていた。でも、ヴァーニスさんはにこやかな表情で頷いた。

「君は、ちゃんと交渉が判ってるみたいだね。」

どことなく楽しそうなヴァーニスさん。

「1万か・・・でも、これは確かに立派だが、使い道がないぐらいの大きさだ。使い道がないものに1万も払えない。」

ヴァーニスさんは正論を言う。確かにこの魔法石は、僕達には使い道が思いつかない。

「それだと・・・。」

ロンドは値段を言い換えようとする前にヴァーニスさんが先に値段をつける。

「1000かな。」

「それだと売れない。確かに使い道がないとはいえ、これに秘められた魔力は相当なものだ。」

ロンドがヴァーニスさんの目を見据えて値段を指で提示した。

「5000・・・」

「5000か・・・この重いものを運ばなきゃならないからね。2000でどうかな。」

ロンドが僕の方を振り向く。言いたい事は判っていた。

「判りました。2500で手を打ちましょう。」

僕は、ヴァーニスさんの値段より少し高く値段を提示した。ヴァーニスさんはその値段に少し考えた後。

「判った。2500だね。それで買うよ。」

ヴァーニスさんは僕に手を差し出す。その手を僕は握り返した。

「それにしても、君はしっかりしてるね。」

ヴァーニスさんはロンドを見て言った。

「それほどでも・・・ない。」

少し照れているロンド、この光景はかなり珍しい。それを見て僕とマーニャは笑っていたが、その笑い声が恥ずかしいのか、ロンドは後ろを向いてしまった。

「さて、じゃあ僕はこれを持って帰るよ。」

ヴァーニスさんは青い魔法石をぺちぺちと叩く。

「でも、こんな重いものを、どうやって持ち帰るんですか?」

僕とマーニャの二人でようやく運び出せた物だ。いくらヴァーニスさんが大人だからと言っても、普通には運べないと思う。

「これを使うよ。」

ヴァーニスさんの手には小さな袋が握られている。どう考えてもあの魔法石が入るとは思えない。

「入らないよって顔してるね。でもね、これは次元球っていう魔道具だよ。」

「次元球?」

「ある程度の大きさの物なら、これに収める事が出来る便利なものだよ。重さもこれと同じぐらいになるからかさばらないしね。」

「初めて見ました。」

僕はまじまじとその袋を見つめる。他の二人も同じように見つめていた。

「これも、なかなか目にかかれない道具だからね。君達も、一人前になってギルドからの依頼をしっかりこなし続ければ手に入るかもしれないね。」

「ギルドの物なんですか?」

「厳密にいうと、とある依頼の報酬だけどね。頑張ればいつか受けれるよ。」

「はい!」

ヴァーニスさんはそう言って、次元球の入った袋の口を魔法石に押し付けた。すると、魔法石が一瞬のうちに袋の中に吸い込まれていった。

「すごい・・・けど、何だか怖い。」

マーニャがその光景を見て、少しおびえている。僕も同じ事を思っていた。

「これって、何でも入っちゃうんですか?」

「そうだね、生物は入らないようになってるけど、まあ何でも入るね。」

次元球の入った袋の口を紐で綴じながら、ヴァーニスさんが答える。

「どうやって取り出すの?」

「これは一つしか入らないから、袋を開けて、口を下に向けたら出てくるよ。」

「そうなんですか。」

「まあ、中がどうなってるのかは誰にもわからないけど、便利だから皆使ってるって事だね。」

ヴァーニスさんは笑って答える。

「この世界、案外そんなもんだよ。そんな謎を解いていくっていうのも楽しいかもね。」

この世界の謎・・・考えてもなかった。僕はそう思いながら、ヴァーニスさんの話を聞いていた。

「さて、それじゃあこれが代金だけど、これでいいかな?」

ヴァーニスさんがお金の入った袋をロンドに手渡す。ロンドは、その中身をすぐに確認した。

「確かに、ちょうど2500だ。」

「じゃあ、僕はこれで失礼するよ。ありがとう。」

魔法石の入った袋を持って、ヴァーニスさんは僕達に手を振って街道を街に向けて歩いて行った。

ヴァーニスさんを見送っていると、ヴァーニスさんに駆け寄る赤い髪の女性が見えた。何やら話した後、二人の姿が突然消えた。

「え?!」

僕達は目を疑うが、もうそこに二人の姿はなかった。

「ヴァーニスさん、消えちゃった?」

マーニャが目をこすりながら僕達に確認する。

「多分・・・転送魔法じゃないかな?」

僕は、前に図書館で読んだ知識を2人に伝える。ロンドとマーニャは素直に納得してくれた。

「あれが、転送魔法か。本当に一瞬で消えるんだな。」

「ヴァーニスさん、あまり強そうに見えなかったけど、やっぱり凄い人なのかな。」

「ギルドの仕事もたくさんこなしてる人だろうし、きっと、凄い人だと思う。」

「私達も、あんな風になれるのかな?」

「判らないけど、なってみたいね。」

僕の言葉に、ロンドとマーニャが頷いた。

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