有意義な休みのために
真っ暗な森の中、草の生い茂る場所で僕は仰向けに倒れていた。
体が少し痛い、それよりも、お腹がすいてたまらない。こんな事なら、来なきゃよかった。
「お母さん・・・。」
僕はそのまま気を失った。でも、気を失う前に何かの気配を感じた。
時間は今朝に遡る。
僕は、ギルド臨時依頼を受けるために、クラスメイトのロンドとマーニャと一緒に冒険者ギルドにやってきた。
冒険者ギルドは、僕達の様なまだ学校に通う子供たちの為に、大型連休前に特別な依頼を出してくれる。
依頼内容は、街のゴミ拾いから簡単なお使い、街の見回り等の誰でもこなせる依頼ばかり。
だけど、ちゃんとギルドは依頼として出しているため、こなせば報酬が貰える。その報酬は僕達にとって貴重な臨時収入となる。
この依頼をいくつこなせるかによって、休み中の過ごし方が変わるんだ。
「みんな、考えることは一緒だな。」
「早くいきましょう、割のいい依頼が無くなっちゃう。」
「そうだね、急ごう!」
急ぐ二人につられて、僕も臨時依頼の特別カウンターへ急いだ。
「ロンド、何か見つかった?」
マーニャがロンドの持っている依頼書を覗き込む。
「街の草むしり、時間がかかる割に報酬がちょっと少ないな。」
ロンドは依頼書を元に戻す。
「これなんてどう?」
マーニャの見せる依頼書に僕とロンドが目を通す。
「荷物運び、報酬はいいけど、マーニャには無理じゃないかな?」
「どうして?」
「ほら、ここ見て。」
不思議がるマーニャに、僕は依頼書の一部分を指さして見せた。そこには、男子11歳以上、女子13歳以上と書かれていた。
「年齢制限付きの依頼は、かなりキツイって話だな。これだけやるならいいが、他のもやるんだろ?」
「うぅ。」
マーニャは残念そうな表情をして、依頼書を元の場所に戻した。
僕は適当に取ってきた依頼書に目を通す。その中で一つ目を引くものがあった。
じっくりとその依頼書に目を通した僕は、小さく頷いて二人を呼んだ。
「ロンド、マーニャ!」
不意に呼ばれて驚く二人。僕の持っている依頼書をその二人に見せる。
「これ!いいんじゃないかな?」
「いいの見つかった?!」
マーニャの声に、僕は少し気分が良くなる。
「うん、魔法石の採取。この依頼だったらこれだけで十分いい報酬が手に入るよ。」
「何々・・・指定された属性の魔法石を全て採取してきてください。なお、指定以上の魔法石を持ち帰った場合はそれを追加報酬とします。」
ロンドが依頼書をじっくり見直す。
「これって、たくさん採れれば採れるだけ報酬が増えるんだよね?!」
僕の問いかけに、ロンドもさっきの僕と同じように小さく頷いた。
「そうなるな、やったな!」
「皆で行こう。ほら、これは複数人で受けれる依頼だし。」
依頼書には、パーティー推奨と書かれていた。
「よし、今回はこれに決定だ。行こう。」
ロンドがそう言うと、僕とマーニャは大きく頷いた。
そして、僕達は依頼書をもって受付カウンターに向かった。
「はい、今日はどうされました?」
受付のお姉さんが僕に声をかける。少し緊張する。
「こ、これを受けたいんですが。」
「はい、臨時依頼ね。判りました。」
お姉さんが目の前にある機械をポンポンと操作する。
「君達、パーティって事でいいのかな?」
僕達三人を見ながら、お姉さんが訪ねてきた。
「はい。」
「うん!」
お姉さんの質問に二人が答える。
「判りました。じゃあ、ここに名前を書いて。」
僕達はお姉さんが出してきた書類に名前を書いてお姉さんに書類を渡す。
「はい。承りました。」
名前を書いた書類をお姉さんが機械に通す。
「じゃあ、向こうの講習室に行って、注意事項をよく聞いて、気を付けて行ってきてね。無事成功する事を祈ってます。」
そう言いながら、お姉さんは僕達にバッジと指輪を渡してくれた。
僕達はまだ冒険者登録が出来ない年齢だから、これは仮の登録指輪だけど、機能は本物の指輪より高性能らしい。
「行こう、二人とも。」
僕がそういうと、二人は頷いた。
講習室と書かれた扉を開けると、そこには自分達と同じ目的の仲間達が席に座っていた。
「よく来た、依頼を受けた冒険者よ。」
白髪のおじさんが、僕達に話しかけてくる。僕たちは笑顔であいさつを交わし、適当に席に着く。
そして、しばらくの後、教壇に白髪のおじさんが立ち、話を始めた。
「今日は、君達にはたくさんの仕事をしてもらう。成功すれば相応の報酬を支払おう。」
報酬という言葉に、僕を含め周りの子供達がざわめきだした。
「しかし、報酬を貰うという事は、ちゃんと仕事を終わらせる責任があるという事。その責任はしっかりと果たすように。」
ざわめきの中で、白髪のおじさんが続けて注意事項を話す。でも、僕達を含め周りは殆ど聞いていなかった。
「では、諸君らの健闘を期待する。」
白髪のおじさんはそう言って講習室から出て行った。
「毎回、同じ事言ってるよね。」
「うん、流石に覚えちゃったよ。」
「じゃあ、皆いったん家に戻って、大きな道具袋を持って広場に集合ね。」
マーニャの提案に僕とロンドは頷いた。
「じゃあ、また後で。」
僕達の中で一番家が遠いロンドはいち早く講習室を出た。
「じゃあ、私達も急ぎましょ。」
「そうだね。」
僕とマーニャもそれに続いて講習室を後にした。
家が広場に近い僕が、一番最初に広場に着いた。
この時期は僕達と同じ年の人達が大勢いる。僕はリュックサックを背負って、学校指定の装備を身に着けていた。
そこで少し待っていると、僕と同じ姿のロンドが手を振りながらやって来た。
「準備万端だな。」
「お互い様だね。」
そう言って、僕とロンドはハイタッチをする。
「さて、後はマーニャだね。」
周囲をロンドが見渡している。僕も反対方向を見渡す。
「二人とも、お待たせ!」
僕とロンドの死角となっていた所から声が聞こえた。そこには、僕らと少し違う装備のマーニャが立っていた。
「あれ?少し違うね。」
「お母さんが、これにしなさいって。」
僕とロンドは制服を着ていたが、マーニャが着ていたのは学校指定の体操服だ。
「まぁ、汚れるからね。」
「集まったな。じゃあ、行こう!」
「おー!」
僕とマーニャがロンドの掛け声に答えた。
「で、確認だが、魔法石はいくつ必要なんだ?」
ロンドが内容を聞いて来たので、僕は依頼書を確認する。
「えっと、一人当たり水、風、土がそれぞれ10個づつ、大きさは手のひら大以上なら可だって。」
「結構重くなりそう。でも、頑張らないとね。」
「どこで採れるかな?」
「ここから一番近い場所だったら、街からすぐの草原に池と川があるから、そこに落ちてないかな。」
魔法石はそれぞれ由来の所に落ちていることが多いから、まずは水と土が取れそうな草原に向かうことにした。
「それじゃあ、まずはやさしい商人さんを探さないとね。」
マーニャはそう言って、広場に止まっている馬車に駆け寄っていった。
この時期、商人も僕達に協力してくれる。移動のついでに、馬車に乗せてくれたり、安く物を売ってくれたり、少し色を付けて物を買ってくれたりする。
今回は、馬車に乗せてもらう計画だ。
「二人ともー!良いって!」
すぐにマーニャからいい返事が返ってきた。
「やった!」
僕はそう言って、ロンドと一緒に急いでその馬車に駆け寄った。
商人のおじさんの馬車に乗り込む僕達。おじさんは僕たちの姿を見て目を細める。
「ボウズ達、今日から休みか。」
「はい!」
僕はおじさんに元気よく答える。
「おっちゃんがボウズくらいの頃は、こんな制度無かったからな。」
おじさんは遠い目をする。
「そうなんですか。」
「自分の小遣いを稼ぐにも一苦労だったぞ。まあ、そのおかげで今は商人やってるんだがな。」
そう言って、おじさんはガハハと笑った。
「そういう訳だ、お前たちもしっかり稼いでおっちゃんから色々買ってくれよ。」
「わかった!」
僕達は元気よく答える。その声を聴いて、おじさんは笑顔を見せる。
「さて、目的地はどこだ?」
「ここを出てちょっと先の草原にお願いします。」
僕は地図を見せながら目的地をおじさんに伝えた。
「この草原に行くんだな。」
「はい、出来れば川沿いまでお願いします。」
「おう。それじゃ、短い間だが馬車を楽しんでくれ。」
おじさんはそう言って手綱を持ち、馬車を走らせ始めた。
馬車は広場を出て、そのまま街の門へと向かう。
街の門では、衛兵が通行人を止めてチェックをしている。
「商人の方ですね。ご苦労様です。」
「おう、このボウズ達を草原まで連れてくからな。」
おじさんは馬車に乗ってる僕達の方を見やる。
「はい、判りました。君達、名前は?」
「ロンド。」
「マーニャです。」
「えっと、サークです。」
僕達三人は、衛兵に自分の名前を答えた。
「気を付けて行くんだぞ。暗くなる前に帰ってくるように。」
「はーい。」
マーニャが手を挙げて答える。その姿を見て、衛兵は微笑みながら礼を返した。
「忘れ物はねえな?行ったっきりで帰りは歩きだぞ?」
「はい、大丈夫です。」
「じゃあ、出発だ。」
おじさんは手綱をもって馬を走らせる。僕達は荷台でこれからの事を楽しく話していた。