6 予習復習人身売買
「おい兄ちゃん!すげーよ!」
「カイル、手伝ってくれてありがとな」
「気にすんな!それに俺冒険者辞めたら大工になるぜ!」
「はは、あくまでやめてから何だなー」
「とにかく中に入って見ようぜ!」
継ぎ接ぎではあるが、紛れもなく『俺の家』が完成した瞬間だった。
寝ずに作業したのと、途中からカイルとその仲間達に手伝って貰った為、制作時間は丸3日と半日だ。
キィーー!
ドアを開くと一人が暮らすには十分すぎる程の広さの部屋。トイレもお風呂もない一部屋のみだがこれでいい。
「フローリングにして正解だったな」
「おーすげー!俺の秘密基地だぜー!」
「カイルのじゃない、俺のだ」
「俺も手伝ったんだからいいだろ兄ちゃん」
「まあたまに遊びに来るぐらいならな」
「やったぜー!」
時刻は夕暮れ時に差し掛かっていた為、俺はカイルと一緒に王都に向かった。
門兵に何時ものように挨拶したが、今回は違った。
「通行税を払いな」
「えっ?だって昨日は………」
「事情が変わったんだよ、いくらエラーノ様の連れだろうがもやしには税が必要だ」
またこれだ。
魔力が無いというだけで俺は普通の人扱いされない。
怒りを通り越して呆れてくるよ。
「いくらですか?」
「2000ダリスだ!」
「2000!?他の人は高くても500ダリス位じゃないか!」
「お前は特別だ!払わないのなら入れん!」
俺は渋々門兵に税を納めた。
「兄ちゃんもやしなのか?」
「………そうだよ、カイルも俺をバカにするか?」
「しねーよ!俺はそんな事どうでもいい!だって俺達もう友達だろ!」
目から鼻水が垂れた。
こんな子供に泣かされるとは思わなかった。
「何泣いてんだよ兄ちゃん!不細工!」
「うるせーよマルコメ坊主!さっさと帰れ!」
「はいよ!じゃあな兄ちゃんまた遊ぼうぜ!」
「おう……ありがとな」
カイルは自分の家に帰っていった。
(将来カイルに立派な家を建ててやるからな)
そんな事を考えながら俺はギルドに向かった。
少しでも早く働かなければと思ったのだ。
ギルドに着き、裏口から中に入った。
「あっユキ。どうしたの?」
「ララか、何でここに?」
「ここは応接室兼職員休憩室なのよ。」
「そうだったのかー、ギルド長はいる?」
「今日は出掛けているわ。明日ならいると思うけど。」
「そうか、分かったありがとう!また明日くるよ」
「もしかしてもう仕事したくなったの?」
「そうだったんだけどギルド長がいないからね」
「なら私もう上がりだから、仕事の流れ程度で良ければ教えようか?」ニコ
「いいの?凄く助かるよ、お願いします」
「りょうかーい!」
俺はララに色々教わった。
仕事内容からこの世界の一般的な常識まで、とにかくたくさんの事を学んだ。
「最初は分からないこといっぱいだろうから遠慮なく聞いてね。」
「ありがとうララ、なんか楽しみになってきたよ」
「ふふ。じゃあ私は帰るけどユキはまだいるー?」
「俺も今日は帰るかなー」
「じゃあ一緒に帰りましょ。そう言えばユキの宿はどこにしたの?」
悪いことはしていないが何故か隠さなきゃいけないと思った。
「………あっそうだ、ララごめん!やっぱり俺もう少しだけマニュアル眺めていくよ」
「そう、偉いわねユキ。じゃあお勉強頑張ってねバイバイ。」ニコ
ララはギルドの休憩室から出ていった。
(流石に宿借りられなくて、さらには借りてるお金で家建てたなんて言えないよなー)
「それにしても魔物やモンスターの数が多過ぎだろー、これ全部覚えられるのか俺」
図鑑を開きながら呟く。
魔物やモンスター、薬草や鉱石などの知識は戦利品買取業務に置いて必要不可欠だからだ。
ララは少しずつ覚えていけば良いと言っていたが……。
「ただでさえ魔力無しで嫌われてんだ、俺を雇ってくれたララやギルド長の為にも死ぬ気で勉強してやるよ!」
俺の目は、甲子園を目指す野球少年の様に燃えていた。
「まずはスライムか、無味無臭の液体で構成されており……って誰か食べた事あるのかよっ!」
意外と前世の知識が役に立つ事が多かった。
有名処のモンスター等の知識にあまり横ブレがない。
それに数学や古典といった、いかにも眠くなる勉強と違って知ることがとても楽しかった。
夢中になって図鑑やマニュアル、詳細資料を読み漁った。
「おいユキくん、おーい!」
「………ん?エラーノさ…ギルド長?」
「おはようユキくん、泊まり込みで勉強とは熱心だね!」
俺は眠い目を擦りながら辺りを見渡した。
テーブルには強盗でも入ったかの如く散らばった本や資料。
俺はそのまま眠ってしまったらしい。
「すみませんギルド長、すぐに片付けます!」
「はは、別にゆっくりで良いよ!まだ開店2時間前だから」
「……すみません」
「ユキくんが勉強熱心なのは良い事だから気にするな、それよりシャワー室で眠気を覚ましてきなー」
「はい、お借りします」
ギルドのシャワー室で軽く身体を流す。
とても気持ちが良い朝だ。
身体と顔がさっぱりした俺はギルド長の部屋に向かった。
コンコンッ!
シーン…………
扉をノックするが反応がなかった。
しかし微かに部屋から声が聞こえた。
俺は扉に聞き耳を立てた。
「…考え……王…………研究…………」
ギルド長の声だ。王様と話してるのか?研究?
「………ユキ………人体………60万ダリス……」
嘘だろ…俺の名前だよな………グス……。
俺、人体実験として売られるんだ…。