2 適正検査
俺は死んだ。
死ぬとアルバムを眺める様にハッキリと今までの記憶が頭に浮かぶんだな。
俺、湊ユキ、18才、死因は………
『インフルエンザ』
にかかった時に食べたお粥が喉に詰まった事。
しかも大学受験の試験前日だ。
夢のキャンパスライフは本当に夢で終わったよ。
そして今………
「湊ユキさん、今の説明で不明な点はごさいますか?」
「…………不明も何も全く分からないですよ」
「えっ、やっぱり私説明下手ですよね……」
「いやいやそう言う事ではないんです」
俺の前で今にも泣きそうな自称『神様』。
天国や地獄はなく、死を迎えた者の行き着く先は『転生』だとか。
まぁ元々信じていなかったから別に何でも良いけど。
1つだけ不安があるとすれば、この神様の大きな胸元に【研修中】の札が付いてる事かな。
「でも記憶の消去、人格等が変わるんだったら説明なんていらないんじゃないですか?」
「そうなんです……じゃなくてこれは神界の掟なんですよ。破るとクビですよ、私」
「神様にもクビがあるんですね」
「下手するとクビどころか堕天使扱いですー。」
「…はは、程々に頑張って下さいね」
「ありがとう湊さん。それでは転生始めますね」
次の瞬間、眩い光に全身を包まれた。
ゆっくりと時間が流れている感覚だ。
(次の世界も平和だと嬉しいんだがなー)
目を閉じようとした時、少し神様の声が聞こえた気がした。
「………やば………間違…………てんいの…………くび……」
良く聞こえなかったが慌てていたのは分かった。
「………んぅー…………えっ…………」
どのくらいの時間が経ったのだろう。
体感では一瞬だった為、全然ピンと来ない。
少し手を伸ばし辺りを見渡すが、ただただ森の中だ。
「ん?俺記憶あるぞ、なにこれ?」
神様の説明では生まれ変わり、新しい人格で新しい世界の人生を歩むはずだろ……。
なんで俺、俺なんだ?
「そう言えばあの研修神様、最後『間違』って言ってたな……」
こうして俺の2度目の人生が幕を開けた。
「やばいな、そもそも森だと世界感が分からないぞ」
ユキは手探りで森の中を恐る恐る調べる。
「でも良く考えたら記憶そのままって結構プラス要素なんじゃねー」
そんな事を考えながら歩いていると前方の草木が激しく揺れた。
"ヴオォォォォォォ"
「………まじかよ、もう終わったよ2度目……」
飛び出してきたのは、全身緑色の体長2メートルは越えているであろうゴブリン種だった。
手にこん棒の様なものを持ちゆっくりと近付いてくる。
「あの研修神、次会ったらひっぱたいてやる」
ゴブリンがこん棒を振りかざしたその時、俺は静かに目を閉じた。
ザシュッ!ズズゥズ………
「おい少年、大丈夫かー?」
目を開けた俺は、映った光景に驚きで言葉が出なかった。
襲ってきたゴブリンの胴体が真っ二つになっており、立派な鎧を着た大男が立っていた。
「助けられてお礼も言えないのかい?」
「……あ、すいません!ありがとうございます」
「気にするな!しかし危なかったなー、何でこんな所にいるんだ?」
「え、俺にも分かりません」
「恐怖で記憶飛ばしたのかー?仕方ない、王都まで送ってあげるよ」
「…………………………はい」
右も左も分からない今の俺には、この人だけが道しるべだった。
「あの、お名前をお聞きしても良いでしょうか?」
「俺かー?って事は異国から来たんだなー」
「…………………………………」
「ああすまない、俺はエラーノと呼んでくれ」
「エラーノさん!自分はユキです!」
「ユキくんかー、変わった名だな」
(やっぱり本当に異世界なんだ、まあゴブリンがいる時点でそうなんだけどさ)
結構な距離を歩き、森が段々と拓けてきた。
完全に太陽の光が射し込まない程の場所だった為、日差しが気持ち良い。
空の感じだとお昼頃だと推測できる。
「エラーノさんは軍人ですか?」
「…軍人?衛兵の事か?それならば違うぞ、俺は冒険者だ」
「おおー!さすが異世界!やばいテンションあがるな!」
「はは、不思議な奴だなユキくんは」
「自分も冒険者になれますか?」キラ
ユキの目はおやつを目の前にした子犬となんら変わりない程輝いている。
「ユキくんの国はなかったのかい?」
「ありませんでした!」
「なんと珍しい事だ……相当遠くからきたのか」
エラーノさんは少し不思議そうにしていた。
「いやーすまない、応適正検査があるがここ100年程で適正無しは出てないよ」
「おおーー!俺……自分冒険者になります!」
「本当に面白い奴だな、なら王都に着いたら案内してあげるよー」
「はい、ありがとうございます!!」
俺の笑顔は溢れては拾って溢れるの繰り返しだった。
前の世界で、ファンタジー物のアニメや漫画、小説などの物語が死ぬほど好きだった。
それこそ自作の魔方陣を枕の下に隠して寝るぐらいに。
(いやー研修神本当ナイスだよ愛してるぜ)
程なく森を完全に抜け大きな門が見えてきた。
とても立派で人がずらりと並んでいる。
「ユキくんこっちだよ」
エラーノさんについて行くが行列を避けてそのまま門に向かっている。
「エラーノさん並ばなくて良いんですか?」
「大丈夫、大丈夫」
門番が近付いてきて少し心臓が高鳴った。
赤信号を無視して横断歩道を渡る時に似ている高鳴りだ。
「お疲れ様です、ギルド長!」
「おつかれー、この子連れね」
「承知致しました!」
(……ギルド長!?エラーノさんが?)
「そーいう事なんだ、結構有名なのよ」
「凄いですね!エラーノさん!」
(けど俺の知ってるギルド長ってそこそこ偉いけどそこまででもないよな)
門をくぐり中世ヨーロッパ風の街並みに感激した。
あまりにキョロキョロしてたせいか通りすがる人皆が俺を見る。
「もうすぐギルドに着くよユキくん」
「はい、立派な冒険者になりますよ俺!」
「はは、良い意気込みだねー」
大きい屋敷のようなギルドに到着した。
あえて正面からではなく裏口の様な場所から案内された。
きっとエラーノさんが有名だからだろう。
「それじゃここで待っててね」
「はい、お願いします!」
「今係りの子連れてくるから」
そう良い去り待機所の様な場所を出た。
俺はワクワクしてソワソワしてた。
ちょっとした地震かの如く揺れてただろう。
コンコンッ!
「入りまーす。」
掛け声と同時に入ってきたのは、スラッとした金髪で蒼い瞳の美少女だった。
「ララ・グレフノーゼルです。ギルド長から話は聞いたよー。」
「ユ…ユキです、お願いします。」
「ユキね。私はララで良いわよ。」ニコ
「それでは早速適正検査始めるわね。」
(いきなり呼び捨てはドキドキするな)
ララは抱えてきた大きめの水晶を俺の前に置いた。
「じゃあユキ水晶に両手を乗せて。」
「こうかなー?」
俺は丁寧に優しくそっと手を差し出した。
「………………え。………………嘘でしょ。」
水晶の色が透明から黒色に変わった。
その瞬間ララは水晶を抱え走って行った。
「ギルド長。ギルド長ーーー。」
(この展開は間違いなく転生特典だろ!やるじゃねーか研修神!もしかして勇者の素質か?)
"ザワザワ"
物凄くギルド内が騒がしいのが分かる。
ものの数分でエラーノさんとララがやってきた。
「ユキくん、良く聞いてくれよ」
「はい、どうでしたか?」
(賢者かなー?それとも全属性魔法体質?)
「……すまないが適正無しだったんだ」
「………………………………………………えっ。」