プロローグ1
「お嬢様、モルデナ郷からダンスパーティーのお誘いが来ております。どうされますか?」
「…適当に断っておいて」
小さな招待状をたくさん抱えやって来たメイドのメアリーに私は出来るだけ素っ気なくそう答える。そんなの絶対に行きたくない。
「ですが、メイド長からは行けとのご命令が出ておりまして…」
「アレンさんがそう言ったの?」
「はい、メイド長が申しておりました…」
「…分かったわ、やっぱり行きます」
「分かりました、そのように手配しておきますね」
あの人の言うことならしょうがないよね、お説教受けたくないし…
「それから、バシン郷やヨハン公爵からも招待状が来ておりまして…」
「アレンさんはなんて?」
「…行けと申しておりました」
はぁー行きたくないな、でも…
「…行きます」
「…私のような身分でお嬢様に口出しなど無礼なのは存じ上げておりますが…本当によろしいのですか?」
「行きます!」
「でっですが…」
「じゃあメアリー考えてみなさい。怒りっぽくて怖~いおばさんに長々お説教されるのと、よく分からないおじさんとダンスを踊る、どっちがいい?」
「どっちもイヤです!」
「…正論ね、メアリー凄いわ」
「恐縮です」
「では、そのおばさんがメイド長だったらどっちがいい?」
「ダンス踊った方がマシですね…」
「でしょ!まだマシでしょ!」
条件が同じなら世界中の人が同じ答えを出すと思う。
「分かりました、すべて了承という形で手紙を出させて頂きます。」
「ありがと、メアリー」
「これも仕事ですので…あっお嬢様」
「時間?」
「はい、そろそろ出ないと間に合いません」
「そっか…」
「すみません、もっとお嬢様とお話したいのですが…」
「全然いいよ…ねぇメアリー学院は楽しい?」
「はい!とても楽しいです!」
「勉強頑張ってね、行ってらっしゃいメアリー」
「はい!行ってきます!」
そう言うとメアリーはほうきとかばんを持って私の部屋を出ていく。なんだか寂しくなって、私は私と同じくらいの小さな背中にそっと言葉を投げかけた。
「メアリー昔みたいに話してよ、敬語なんか使わないで…」
彼女は小さく肩を震わしてそっとこっちを振り返る。そして短く一言つぶやいた。
「ごめんなさい、お嬢様」
そう言うとメアリーは足早に部屋から出ていった。その表情に光る何かを見つけてしまって、そしてそれを見て、もう決して戻ることのできない昔を思って、私の口からため息にも似たつぶやきが漏れた。
「どこにいるの?…帰ってきてよ、ゆめは」
そのつぶやきは誰に聞かれることもなく静かに霧散していった。




