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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

追放されたけど、『明日までに魔王の首を持ち帰れば、パーティに復帰させてやる』と勇者が約束してくれました

作者: 桜草 野和

「お前、追放。以上」


 おい、たった8文字で、俺の重要な冒険を終わらせるな。


「どうしてだよ! なんで追放されないといけないんだよ! 理由を説明しろよ!」


「弱いから」


 今度は4文字か。勇者ハンクスはパイパイパブ『ヨルモンデス』のNo.1、エシカさんを膝の上に乗せて抱き抱えながら、面倒臭そうに答えた。


「たくさ〜ん、飲んでね〜。勇者様〜」


 パイパイパブの娘が勇者ハンクスに、ビールを飲ませる。


 40分銀貨5枚もする、けっこう高級店のパイパイパブだ。


 俺も追放を告げられながら、指名したサリータちゃんのたわわな膨らみをモミモミしている。


「ちょっと、激しすぎるわよー」


 サリータちゃんに注意される。黒服の男たちの視線が集まる。


 いかんいかん。つい力が入ってしまった。


「ごめんでちゅー。許してほしいでちゅー」


「もう甘えん坊さんなんだから」


 サリータちゃんが頭をなでなでしてくれる。


 ドンッ! カシャン! 勇者ハンクスがテーブルを蹴飛ばす。グラスが落ちて割れるが、黒服の男たちは、スルーしている。


 エシカさんが手際よく、割れたグラスなどを片付ける。


「お前のそういう、甘ったれたところがムカつくんだよ。これやるから、お前はさっさと帰れよ」


 勇者ハンクスが、金貨が数十枚入った袋を俺に投げつける。

 ハンクスの奴、大切なことを忘れていないか?


「レオン、俺の名前、レオン」


「はあっ⁉︎ 何を今更、幼馴染のお前の名前を知らないわけないだろ」


 よかった。さっきから、お前、お前、って言うから、俺の名前を忘れたのかと思った。


「で、明日は何時出発する? ホテルに戻ったらホストクラブに行ったミカとリラにも教えてあげないと」


「お前はバカか? 2分前に俺はお前をパーティから追放したんだ。明日の時間を気にしてどうする」


 そうだった。俺はたった8文字で、勇者のパーティから追放されたばかりだった。


 ホストクラブに行った召喚士のミカと、魔法使いのリラに、いつものように明日の出発時間教えたかったけど、もう教えてあげることができない。寂しいな。


「まあ、明日、俺たちがこの街を出る前に、魔王の首を持ってきたら、パーティに戻らせてやってもいいがな」


 おお、さすが6年間も一緒に戦ってきた戦友のハンクス。俺にチャンスをくれた。


 一つ気になるのは、この『ウルトラホールシティ』を明日出ると言ってから、もう2週間経っていることだ。よほど、このパイパイパブ『ヨルモンデス』と、もう一軒の行きつけ店の『世界の果てまでモンデπ』が気に入ったらしい。


 ミカとリラも、ホストクラブ『ジャフォーズにハマって、お金が足りなくなったので、朝キャバ嬢としてバイトを始めていた。


 明日は本当に、この街から出るのかな。


 まあ、とにかく俺が、魔王の首を持ってくれば、みんなハッピーだ。一つまだ足りないものがあるけど、向こうからもきっと近づいて来ていることだろう。


 俺はサリータちゃんをモミモミしていた手を必死に止めると、金貨が入った袋を拾って、店を出る。



「お兄さん、寄っていかない?」


 魔王の首をとりに行くために、通りを歩いていると、超高級パイパイパブ店『モンデモンデなう』の黒服が、声をかけてきた。


 俺はハンクスからもらった金貨を確認する。

 黒服もそれをチラ見している。


「今なら、VIPルーム空いていますよ。当店No.1のユーナをおつけしますので」


 ユ、ユーナって、世界一のパイパイを持つ、あの伝説のユーナ⁉︎


「さあさあ、こちらへ」


 俺は黒服に勧めらるがままに、『モンデモンデなう』に乳店した。あっ、間違った。入天した。おっとこれも違う。乳天した。よしよし、これが正解だ。興奮して、ごめんなさい。





「イッテーーー‼︎」


 目を覚ますと、俺はゴブリンにムチで殴られていた。


「いつまで寝ているつもりダフッ。さっさと働きやがれダフッ」


 俺が目を覚ました場所は、地下の洞窟だった。大勢の人間たちが、魔法石を採掘して、運ばされている。


 その中には、ミカとリラの姿もあった。ゴブリンくらい楽勝でやっつけられるのに、2日酔いが酷すぎて、本来の力が使えないのだろう。


「おい、さっさと動けダフッ!」


 ゴブリンがまたムチで叩こうとしたので、俺は慌てて仕事にとりかかる。


「キャッ!」


「ご、ごめんなさい」


 慌てすぎて、魔法石を手押し車で運んでいたユーナとぶつかった。ぶつかった拍子に直撃した、とろけるようなパイパイの柔らかさで、すぐにユーナだとわかった。


 それに、あらためて、そのパイパイの形を見ると、やはり世界一のパイパイの持ち主のユーナに違いない。


 でも、おかしいな。ユーナに会うのは初めてだ。昨晩、『モンデモンデなう』に乳天してからの記憶がない。


「あっ、レオンさん、やっと再会できましたわ。やっぱり運命ですわね!」


 ユーナは俺のことを知っていた。


「昨晩の責任ちゃんととってくださいよ」


 聞くのが怖い。


「私の初体験をさしあげたのですから……」


 マジですか。ユーナの初体験を俺が⁉︎ 俺、世界一の幸せ者じゃん! 何も覚えていないけど。


「もう、レオンったら。最後まで私に言わせる気ですか?」


 ユーナは先程から、俺に何を求めているのだろう?


「結婚、してくださいよね。キャーー! 女の子からプロポーズさせるなんて、レオンさんのバカッ!」


 ユーナは照れ隠しに、魔法石を俺に投げつける。

 なぜだろう。全然、痛くない。むしろ、幸せだ。


「おい、そこのお前ら何をいちゃついているダフッ!」


 またさっきのゴブリンが、地面をムチで叩きながらこっちに向かってくる。


 すると、ユーナは谷間に隠し持っていたナイフを手にすると、素早く投げて、ゴブリンの股間に命中させる。


 ゴブリンは痛みのあまり硬直している。


「さあ、レオンさん、逃げましょう」


 ユーナは俺の手を握って、走り出す。手もなんて柔らかいのだろう。


 他のゴブリンやオークどもも、俺とユーナが逃げ出したことに気づき、騒ぎになりかけるが、急に膝をついて、表情に緊張感が出る。


「早く隠れなければ」


 ユーナは俺の腕を引っ張って、岩陰に隠れる。普通の女の子とは思えないほど力が強い。それに、岩陰から、ちょっとパイパイがはみ出ている。大きいとやはり大変なこともあるらしい。


「魔王様のおな〜り〜」


 魔神官がそう言って階段から降りて来る。どこかで見たことがある顔だ。


 だが、そんなことはどうでもいい。あくびをして、鼻をほじりながら魔王が姿を現した! これはヤバい! かなりヤバい状況だ!


「ハハーッ」


 ゴブリンやオークたちがひれ伏す。


 マ、マズイぞ。魔王には頭がない! お腹の中央が顔になっている! これでは、魔王の首をとって、勇者ハンクスのパーティに戻してもらうことができないじゃないか!

 それに、昨今の魔王はもっとイケメン風かと思っていたが、こてこてにブサイクだった。魔王がかわいそうで、本気で戦えないかも。


「ここは、『モンデモンデなう』の地下にある洞窟です。そして、この『ウルトラホールシティ』にあるすべての店舗のオーナーが、魔王なのです。代金を支払えなかったり、愛に目覚めてしまった者は、この洞窟に送られてしまうのです。私は『モンデモンデなう』に潜入して、魔王を倒す隙を伺っていたのですが、パーティの戦士たちが欲望に負けて魔王討伐から離脱してしまい、さすがに一人ではどうすることもできずに困っていたところなのです』


 なるほど。だから、ミカとリラの姿もあったのか。

 ユーナの説明のおかげで状況はわかった。短編なので助かる。


「よし、それなら俺がユーナのパーティになってやるよ! 今、俺、フリーだしさ」


「そんな、レオンさんとは、パーティよりも深い絆で……。あっ、そういえばまだ私のプロポーズのお返事をいただいていないですわ」


 ユーナがパイパイで、俺の腕をつんつんする? 狙ってやったよな? ユーナは世界一のパイパイの使い方を熟知しているようだ。


「ユーナは格闘タイプだから、あとは剣士と魔法使いを仲間にしたいな」


「ちょっと、レオンさん、私の話を聞いていますか!」


「あっ、あれは!」


「そんなベタな手で話を変えようとしてもムダですよー!」


 伝説の大賢者リリックスが魔法石を採掘していた。

 この世界に存在するすべての魔法を使えるという伝説と、男なのに大きなスカートを引きずって歩いていて、そのスカートの中には常に3人の若い娘が隠れていて、あんなことやマジでそんなことまで、と驚くことをやり続けている伝説を持っていた。

 今も魔法石を採掘しながら、妙な腰の動きをしている。


「レ、レオンさん、こんなところで……」


「うわっ、つい、ごめんなさい」


 いつの間にか俺は、ユーナのパイパイを右手でモミモミしていた。


 なかなか右手が離れたがらないので、左手で強引に、ユーナの世界一のパイパイから引き剥がした。


「皆の者! これからも最終兵器を完成させるために働き続けよ‼︎」


「ハハーッ」


 魔王は、部下たちの働きぶりに確認すると、階段を上って、魔神官と去って行った。あの階段の上に、『モンデモンデなう』があって、地上に出られるのだな。


 あっ、思い出したぞ! あの魔神官は、俺を『モンデモンデなう』に連れ込んだ黒服だ! あいつめ、早く魔王の首をとって、勇者のパーティに戻らないといけない俺をこんな洞窟に送りやがって絶対に許さないぞ!


 もう間も無く、ミカとリラの2日酔いも治って、自力で脱出することだろう。


 そして、勇者ハンクスに知らせて、俺抜きで魔王と戦われることになってしまう!


 ここまで来てそんなの絶対に嫌だ!


「あ、あの、レオンさん、だから、ここでは……」


 しまった。怒りと焦りのあまり、またユーナの世界一のパイパイをモミモミしていた。

 でも、気のせいか、ユーナのほうからパイパイを近づけている気もしなくはない。


 それにしても、一度ユーナのパイパイをモミモミしだした右手を引き剥がすのは一苦労だ。おそるべし、世界一のパイパイの気持ち良さ。



「ああー、疲れたー」


「しょちゅう来ないでほしいよな」


「だいたい、威張っているだけで、魔王は何の仕事をしているんだよ」


「やってらんねえ」


 ゴブリンやオークたちは、端っこにある喫煙スペースに集まり、タバコを吸い始める。



 チャンスだ! 俺はなんとか、ユーナのパイパイから右手を引き剥がすと、伝説の大賢者リリックスの元に向かう。


 ちょうど腰の妙な動きもおさまっている。


「レオンさん、お待ちくださ〜い。早く、プロポーズのお返事を」


 パーティを組んだユーナも追いかけて来る。


「あなたは大賢者リリックス様ですね」


「いかにも。ワシこそが大賢者リリックスであーる」


「仲間になってください」


「よかろう」


 一緒に魔王を倒しましょう、と言う前にリリックスは快諾してくれた。


「ただし! あの女子のパイパイをモミモミさせること! それが条件であーる!」


 ユーナがやって来る。


「どうぞ」


「では遠慮なく」


 リリックスがユーナのパイパイをモミモミしようとすると、シャキーン! と日本刀がその間に振り下ろされる。


 リリックスは慌てて、手を引っ込める。


「人前でそのような淫らな行い。例え、魔王と勇者が許しても、このマサムネが許さぬでござる」


 マサムネだって⁉︎ 日本刀の正宗が、多くの人を切っているうちに、魂を持つようになり、やがて人間になったという、あの刀人間のマサムネか!


「仲間になってくれ!」


「仕方ないな」


 おおー、これで理想的なパーティがつくれたぞ!


「条件を一つ受けてくれるのならば、仲間になってやろうぞ」


「モミモミは嫌ですよ。私の身体はもう、レオンさんのものなのですから」


「ってことは、俺がいいって言ったら、問題ないよね」


「そ、それは……」


「条件は、魔王の首は拙者に斬らせること! これだけは絶対に譲れぬ」


「ご自由にどうぞ」


「かたじけない」


 いや、こちらとしては願ったり叶ったりです。


「ということで、リリックス様、“奇跡の整形の魔法”で、魔王に頭をつけてください」


 リリックスはまた腰を揺らし始めている。元気なじいさんだ。さすがは、伝説になる大賢者だ。


「お安い御用じゃ。…………。よし、魔王に頭をつけたぞよ。ことが落ち着いたら、その女子のパイパイをモミモミさせるのじゃぞ! パイパイの恨みは怖いから約束を破るでないぞ」


 おおー、魔法を使った部分はまさかの無言。ちゃんと魔王に頭をつけてくれたのだろうな? 勇者のパーティに戻るためだ。減るものではないし、ユーナには協力してもらおう。




 こうして、俺は地下につくられた洞窟で、武道家ユーナ、大賢者リリックス、剣士マサムネとパーティを組んだ。



 ゴブリンやオークたちが、12本目のタバコを吸っている隙に、階段を上って地上に出る。


 そこは、金やダイヤモンドをふんだんに使った豪華内装の『モンデモンデなう』のVIPルームだった。


「グフフフフッ、よくぞここまでたどり着いたな」


 ソファーの陰に隠れていたつもりの魔神官が出て来る。


「昨晩、ここにお前を連れて来て、金貨を奪った私は、お前の記憶を消して、裏切り者だとなんとなくわかったユーナと一緒に、地下の洞窟に落としたのだ」


 ご丁寧に説明してくれてありがとう。記憶はなんのために消したのだ?


「おっと、悪く思わないでくれよ。記憶を消したのは、誰かに恨まれながら生きるのは落ち着かないからだ。仕方なかったんだ」


 謝るポイントが違うが、大した悪さをする奴には見えないから、スルーで行こう。


と考えたのは俺だけだったようで、


 魔神官の顔面にユーナが飛び回し蹴りを喰らわせ、マサムネが腹部に斬りかかり、リリックスがトドメに魔法で燃やしてしまった。


 どうやら、サディスティックなパーティを組んだようだ。

 類は友を呼ぶとはこのことか。


「あっ、でも、結局、俺とユーナには何もなかったの?」


「もう、レオンさん、何を言っているんですか。一緒に、ここから洞窟に落とされて、階段を転がっているときに、偶然、いや必然に運命のキスをしたではありませんか。あの運命のキスの責任はちゃんととってもらいますからね。早く、プロポーズのお返事をお聞かせください」


「おお、人妻のパイパイをモミモミするのもおつじゃのう。よかろう、モミモミするのはお主らが夫婦になるまでまってやろう」


 変態じじい。俺もこんなじいさんになれるかな。


「おい、お前ら、いつまで放置するつもりなのだ!」


 VIPルームの中央で、ずっと仁王立ちしていた魔王が、しびれを切らして喋り出す。


 リリックスの魔法でちゃんと首の上にちゃんと頭ができている。


 でも、魔王の顔はお腹の中央のままだ。


 のっぺらぼうの頭がついている。


「俺様は、魔法石を集めに集め、世界中の女どもが俺様に惚れずにはいられない最終兵器を完成させるのだ! 邪魔はさせぬぞ!」


 それは困るから、早く勇者ハンクスのパーティに復帰して、魔王を倒しに戻って来よう。


「あのさ、その頭っている?」


「これか? なんか突然できてな。邪魔なんだよ」


「マサムネ、出番だよ」


「ふんっ、言われるまでもない」


 シャキーン! マサムネが魔王の首をはねる。


 俺はその首を大切に受け取る。


「リリックス様、腐らないように凍らせて」


「…………」


 魔王の首が凍る。これなら、血もしたたらないから、服も汚れなくていい。


「さすがはマサムネ。スパッと切ってくれて、ほとんど痛くなかったぞ」


 魔王はマサムネを褒めると、回復魔法で傷口を治癒する。


「拙者の目的は果たした。さらばだ」


 マサムネは猛ダッシュで去って行く。去り際のあの手の動き。またパイパイパブに行ったな。そして、酔いつぶれて、金が足りずに地下の洞窟に落とされるだろう。


 で、酔いが覚めたらまた脱出して来て……。エンドレスだな。よく入店、いや乳天拒否されないものだ。俺もけっこうしつこい。


「それじゃ、俺も勇者と約束があるから。マサムネも去ったことだし、パーティ解散ね。バイバーイ」


「あっ、レオンさん、プロポーズのお返事を!」


「うぬぬっ、お主らが結婚するまでついていきたいが、ここは大賢者たるもの魔王を目の前にして立ち去るわけにはいかぬ! ワシのかわいい弟子たちよ、ともに魔王と戦うときがきたぞよ」


 リリックスがそう言うと、引きずって歩いていたスカートから、女神ヴァルキリー、水の精霊ウンディーネ、女怪メデューサの3人が姿を現す!


 ズルくない? そのパーティ、ズルくない? 魔王倒せちゃうんじゃないの?


「…………」


 リリックスが無言で、聖なる魔法を魔王に浴びせる。


「グワワワワッー」


 魔王がもろにダメージをくらっている。


 女神ヴァルキリー、水の精霊ウンディーネ、女怪メデューサも、見事な連携を見せて、魔王に襲いかかる。


「や、やめ、やめるのじゃ……」


「わかっているわよ。ここが弱点なんでしょ」


「もっとせめてあげるわ」


「ほら、私の目を見て……」


 魔王はメデューサの目を見ないように目を閉じる。


「…………」


「グワワワワッー」


 リリックスの聖なる魔法をまともにくらって、また魔王がダメージを負う。


 これはマズイぞ。本当にリリックスのパーティに、魔王を倒されてしまう。


 俺は『モンデモンデなう』を出ると、勇者ハンクスが泊まっている『大人の使いホテル』に、猛ダッシュで向かう。


「レオンさん、お待ちくださ〜い!」


 世界一のパイパイを大きく揺らしながら、ユーナが追いかけてくる。世界一魅惑的なその揺れに見とれて、つい壁に激突してしまったが、すぐに起き上がり、魔王の首を拾って、勇者ハンクスの元へ向かう。





 『大人の使いホテル』に着くと、ちょうど勇者ハンクスが、召喚士ミカ、魔法使いリラと一緒に出てきた。さらには、マサムネも一緒にいる。


 さては、マサムネの存在を知ったミカとリラが女の武器を使ってパーティに入れたのだな。


 俺は魔王の首を、勇者ハンクスに渡す。


「はい、これで俺はハンクスのパーティに約束通り戻れました。ただいま、みんな」


「こんなもの……」


 ハンクスは、魔王の首を投げ捨てる。


「レオン、お前をパーティに戻すわけにはいかない」


「どうしてさ、約束しただろ!」


「お前は運が良くて、計算高くて、スケベな奴。ただ、それだけなんだ。特にスキルだって持っていない。はっきり言って、ガチで戦闘したらスライムにも勝てるかどうかだ。そして、俺はお前の運の良さによって魔王に勝つことは絶対に嫌なのだ! 勇者である俺は実力で魔王に勝たなければならない。 それが勇者の宿命だ。確かに、ここまでズルズルと、お前をパーティに入れていたことは申し訳ないと思うが……」


 安心した。これだけ喋れるのなら、酔いはすっかり覚めているようだ。

 魔王としっかり戦える。


「レオンさん、魔王討伐は勇者様に任せて、私と結婚を。キャーー! また私からプロポーズさせるなんて、レオンさんは罪な方ですわ」


「ユーナ、わかった。俺が無事に帰って来たら、その時は結婚しよう」


「ですから、魔王討伐は勇者様に……」


「そう、魔王討伐は勇者がやらないとね! 俺、勇者なんだよ。でも、勇者を前面に出すと危ないからさ。ほら、『ヨルモンデス』でも、ハンクスのお酒に毒入れられていたでしょ。テーブル蹴って、グラス割っていなかったら、ハンクス死んでいたよ。あと、俺の運の良さは、それもやっぱり勇者だからなんだと思う」


「レオン、お前が勇者に憧れる気持ちはよくわかるが、聖剣を持つことができる俺が勇者なんだよ。ここで、大人しく待っていてくれ」


「足手まといだからついてこないでよね」


「レオンが勇者のわけがないでしょ」


 ミカとリラがやっと喋ったと思ったら、声が酒焼けでガラガラだ。


「いえ、レオンさんは、勇者様です」


 ユーナがきっぱりと言う。


「だから、聖剣を手にした俺が勇者なの!」


「それはニセモノです」


「そうそう。ハンクスが、自分が勇者だと信じるように俺が、腕のいいホビットに台座とセットでつくってもらったんだ。騙してごめんよ」


「だ、だったら、本物の聖剣はどこにあるんだよ。証拠を見せろよ! 証拠をよ! 俺が勇者じゃなくて、レオンが勇者だという証拠……」


 ユーナの身体が神々しく輝く。


 そして、勇者しか手にすることができない、聖剣の姿になる。

 俺は、その聖剣を手に取る。


「私、レオンさんと一緒に『モンデモンデなう』のVIPルームから、落とされて階段を転がっているときに、自分が聖剣であったことを忘れていました。でも、レオンさんを想う、愛の力で思い出しました」


 大事なところの記憶をなくさないでくれよ。まあ、大事なところで思い出してくれたからいいけど。

 それに、聖剣の姿になっても喋れるのだな。


「いやん、レオンさん、あまり強く握らないでください……」


 柄の部分は、ユーナの身体のどこになっているのだろうか? もう一回、強く握ってみる。


「あはん……もう、レオンさんの意地悪」


「というわけで、ハンクスが自分が勇者と信じたままミカとリラと魔王討伐に行かせるわけにはいかなくて。俺は絶対にパーティに戻る必要があったんだよ。魔王が首を斬られたくらいで、死んだりしないだろうしさ。すぐにニュロロッて、新しい頭が出てきそうでしょ。まあ、実際の魔王には、頭がなかったのだけど。魔王、想像以上にブサイクだったから、笑っちゃダメだよ。魔王だって傷つくだろうから。よし、それでは、はりきって魔王討伐に行こう!」


「お、おう」


 剣士ハンクスが、やや落ち込んで返事をする。悪いことをしたと思うが、魔王を倒すためだし、勇者気分を存分に味わえたのだから、許してほしい。


 マサムネの姿はもうない。長い話に付き合いきれず、今頃パイパイパブに行っているのだろう。


「俺は6年間も一緒に戦ってきたこのパーティで魔王を倒したいんだ! ホテルに泊まるお金もなくてキャンプしたり、ドラゴンと急に遭遇して死にかけたり、適当にモンスターを煮込んで激マズの鍋を食べたり、苦労を共にした、楽しい冒険を続けてきたみんなとさ! 早くしないと変態大賢者リリックスにおいしいところ持っていかれちゃうよ」


 勇者レオン、今から剣士ハンクス、召喚士ミカ、魔法使いリラ、そして聖剣ユーナと魔王を倒して来ます‼︎

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[一言] もお・・・・変態しかいなよ・・・
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