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鶴の恩返し  作者: 雪桃
プロローグ
7/62

(手間をかけさせずに安いもの……)


 遥は弁当箱が陳列(ちんれつ)してある棚と(にら)みあう。値段はどれも同じように見えるが、形だったり大きさだったりで、羽南に手間をかけさせるようなことは避けたい。


「遥、不審者みたいになってるぞ」

「しょうがないでしょ。あんたは決まったの?」

「まだ」

「人のこと言えないじゃない」


 手に取っては戻すを繰り返す。ふと、目の前にある箱を手に取る。


『遥は少食だから二段にすると残しちゃうのよね。あ、ねえこんなのどう? ご飯とおかずが一段でできるって。色んな柄があるよ』

『お母さんそれ小学生用の。私もう高一だよ?』

『あんたの食べる量が小学生並なんでしょ』


 成長期の弟二人に合わせて作られる昼食は一般女子の──それも少食気味の遥にとって嫌でも残してしまうほどだった。そんな時に母に(てい)()されたのが今目の前にあるのだ。

 入る量も多くなく、値段も安い。ただ見た目がメルヘンチックで正直あの頃の遥は(がん)として(うなず)かなかった。それを手に取ってしばらく物思いにふける。


「それがいいの?」


 不意に肩に手を置かれて振り返ると羽南がいた。


「あ、いえ。これは可愛すぎますし」

「え、似合うと思ったのに」

「え……」


 メルヘンチックが似合うと言われて喜ぶ女子高生がそう多くいるだろうか。遥は喜んでいいのか悲しんでいいのかわからない。


「メルヘンですか私……」

「メルヘン? 遥ちゃんは(たん)(しょく)系が合うって思ったんだけど」

「淡色? パステルカラーのことですか」

「そうそう。遥ちゃんは何でも似合いそうだけどやっぱピンクとか黄色とか。妖精さんみたいだなーって。このお弁当の柄も妖精がモチーフだし。なんか自分だけでなく周りも幸せにしたいって念が込められてるような。なんつって。ただの弁当箱だけどね」


 軽口を叩いて笑う羽南。しかし遥は目を見開いて何の仕掛けもないただの弁当箱を見る。


「周りも幸せ……」


 数年前まで恥ずかしかったものが今は欲しいと思うようになっている。これで買ったら羽南は相当商売上手だ。


「……羽南さんが何考えてるのかわからない」

「ん? なんか言った?」


 遥は呆れたように笑う。


「これにします」

「あ、うん。じゃあ(そろ)ったしちびちゃん達連れてきて」

「はい。円、颯馬、行くよ……」


 後ろについて来ていたはずのちびっ子二人がいない。退屈(たいくつ)になって早めに用を済ませた颯介の元に行ったのかもしれないと思い確認するがいない。店内を(くま)なく探すがいない。

 いい加減察しがついた。呆れたような、やってしまったというような苦笑を浮かべる羽南の隣で遥は倒れてしまうのではないかと思うほど青ざめている。

 円と颯馬が迷子になってしまった。




「俺が選んでた時にはまだいたので三十分は経ってないと思います」


 颯介が時計を見ながら言う。


「三十分か。円ちゃんが大きいから親がゲーセンとか行かせたんだろうって呼び止められなかったのかも。一回迷子センター行ってみよっか」


 焦りすぎてほとんど挙動(きょどう)()(しん)になっている遥と(なだ)めている颯斗を呼んで迷子センターに向かう。

 そこに二人はいなかった。


「あちゃー」

「ど、どうしよう。私が目を離したせいで。あ、あの子たちに何かあったら……」

「落ち着いて遥ちゃん。色んな所に人がいるし外に出ちゃっても交番近くにあるから」


 羽南は自分の電話番号と二人の名前、(よう)姿()を書いた紙をアナウンスの人に渡してその場を後にした。


「すれ違いになるかもしれないから二手に分かれよう」


 羽南と颯介で三、四階を。遥と颯斗で一、二階を担当することにした。




 一方、ちびっ子二人に近寄る女がいた。


「何してんだ。それは遊具じゃないからやめな」


 菓子に手を突っ込もうとしている円を引っ張って止める。


「親は?」

「お姉ちゃんたちがお買い物してるの」

「じゃあその姉はどこにいんだ?」

「わかんない」


 二人揃って首を(かし)げる。女はため息を吐いた。


「迷子か。とんだ面倒事見つけた。ほら、迷子センター行くぞ」

「いや! まだあそぶの!」


 駄々をこねる円を一瞥(いちべつ)したあと、女は何かをパンツスーツの中から取り出す。


「ほら」

「これなに?」

(あめ)だ。それやるからついてこい。でないと姉に会えなくなるぞ」


 会えない、と聞いて二人とも飛びついた。


「待って!」

「まって!」


 二人は女のスーツにしがみついて後をついていく。

 迷子センターに着いて名前を言うとアナウンスの人がすぐに気づいた。


「さっき保護者の方がお見えになったんです。良かった。すぐ見つかって」

「そう。それなら後は任せます。私は仕事があるので」

「え、あ、はい。それでは」


 女は表情を変えることなく迷子センターを去っていった。アナウンスの人は顔を赤く染める。


(すっごい美人。それに背も高くて細いし。モデルさんかな)

女(アナウンスの人が持ってた紙……筆跡が誰かに似てたような。まあ気のせいか)



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