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鶴の恩返し  作者: 雪桃
そして一年が経つ
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今日は実父の誕生日(本編とは全く関係ない)

 美智と待ち合わせた場所──遥達の元最寄(もよ)り駅──で一度落ち合う。


「おはよう遥。あれ、想像してたより落ち着いてるね。颯斗がいるから?」


 時間通りに来た美智にお手製のお守りを見せた。


「颯馬達が作ってくれたの」

「え、いいなー。こっちは一人っ子だからそういうの(うらや)ましいよ」


 充分見せびらかした後また丁寧にバッグの中にお守りをしまった。


「それじゃあ行こっか。颯斗は引き続き遥の見張りしてね」

「え?」


 意味がわかっていない遥を余所(よそ)に二人は何かを確かめるように頷きあっている。


「え? だって美智がついてるから」

「私も受験生だからね。流石に今日は見てられないよ」


 既に遥一人で大丈夫という考えは彼女達には無かった。恐らく今いない颯介もきっと同じようにするだろう。だからこそ遥は長女の威厳を(たも)てないのだが。


「さ、行くよ。遥、いつまでむくれてるの」


 親友と弟に間接的に(けな)されて不機嫌になる遥を引きずって目的駅まで辿(たど)り着いた。


「ここからなら二人でいいかもね」

「そうだ……っね!」


 フラグとはこういうのだろうか。美智の言葉に賛同しながら改札を抜けた遥はすぐに(すべ)って()けた。


「……颯斗。おいで」


 美智のただならぬ殺気を背後に感じながら遥はこれまで以上に注意深く歩いた。


「受験前に不吉なことが起こらなくて良かったわ」

「そ、ソウデスネ」


 センター試験会場まで着いた二人は受験票をバッグから取り出した。


「よっし。行こっか」

「うん。颯斗、行ってくるね」


 受験生の邪魔にならないように少し離れている颯斗に手を振ると笑いながら返してくれる。そんな弟に見守られながら会場の門をくぐり抜けた。

 わかってはいたがやはり会場内だけ外の空気と全く違う。ピンと張りついたような静けさと緊張感が(ただよ)う。


「私達は……丁度教室違ってるんだ」

「仕方ないね。志望校が違うもの」


 予想していたことなので二人は慌てることなく指定された場所へ向かった。

 美智と別れた後遥は教室にある自分の座席を探す。落ち着けるようにと集合時間よりずっと前に来たため着席している人も限られていた。


(そういえば古谷君はセンター受けるのかな……受けないよね)


 わかりきったことを疑問に思って苦笑を浮かべる。

 辛いことは時間が長くなる気がするとよく言われるが、遥の場合逆だった。手が痛くなるほど勉強したというのにまだ足らず、勉強道具をしまえと言われた時は絶望の表情さえ浮かべていた。


(大丈夫。いっぱい勉強したもん。大丈夫)


 自分に言い聞かせながら遥は配布された紙を凝視する。


「それでは試験を開始します。始め」




 翌日の夜。羽南は寒空の下、頬を赤くしたまま帰途に着いた。昨日は帰れなかったため少し早足になってしまう。


「お姉ちゃんはまだだよね。そういえば遥ちゃん今日まで試験なんだっけ。大丈夫かな」


 独り言を呟きながら羽南は家路を行く。すぐに我が家の灯りを見つけた。


(やっと着いたー。疲れた)

「ただいまー!」


 やけにテンションが高くなった羽南はそのままリビングに足を運んだ。


「ただいまー。君達何してるの?」


 颯斗と颯介が赤ペンと参考書で何か作業をしていた。ちびっ子二人はソファの下で何かを見ている。


「あ、おかえりなさい。ご苦労様です」


 集中していたらしく今気づいた颯斗が作業を止めて近づいてきた。


「何してたの」

「遥の解答をなんとなく丸つけしてます」

「へえ。で、本人は? もう疲れて部屋で……うおあ!?」


 荷物とコートをソファに置こうとした瞬間、羽南は絶叫を上げた。ソファにうつ伏せで倒れていた廃人のようなものは遥だった。


「ちょ、それは流石に想定外!」


得体の知れない何かを触るように羽南は折り畳み傘で遥の脇腹辺りを何度か(つつ)く。すると全く動かなかった体が少し反応した。


「はなさんくすぐったい」

「生きてる?」

「少なくとも死にかけのセミよりかは」


 返答次第では病院も考えていたが杞憂に終わったらしい。


「帰って早々颯斗にバッグ取られて颯介に押し倒されました」

「人聞き悪いこと言うな」


 どうやら二日連続試験のストレスで落ち着きがなくなった遥を弟二人が強引に勉強から遠ざけたらしい。力尽きて廃人になっていたわけではなかった。ちなみにちびっ子二人は見張り役のつもりだと言っていたからいつも通りと言えばそうなのだろう。

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