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鶴の恩返し  作者: 雪桃
冬の始まり〜新年
51/62

小休憩5

 一月一日。新年初めの日であり、めでたい日でもある。大半の人が初詣に行き、その後は家でのんびりテレビを見たり、買い物をしたり自由に過ごす。


『わー遥ちゃん声枯れてるね。叫んだ?』

「寝不足だからだと思いますけど。あ、何かお土産買ってきましょうか」


 パレードを見てまた一頻(ひとしき)り遊んだ後、古谷・沙樹・日奈と別れ、残りは地元の神社に初詣をするために行列に並んでいた。もうすぐ夜が明けそうだが生憎ビルが多すぎて日の出は拝めそうにない。


『いやいいよ。私達も後で行くし。ところでそんなに行列すごいの? 流石有名神社』


 去年までこの神社で参拝していたのならばともかく羽南は違う有名でも無名でもない普通の所に行っている。声音からして珍しいとでも思っているのだろう。


「帰る時にまた連絡しますね」


 遥は通話を切って周りを見渡す。十八年世話になった神社ということで慣れてはいる。慣れてはいるが寝不足に人混みは地獄というものだ。


「後一時間くらい?」

「そうだね。参拝したらどうする」

「帰って寝る」


 これ以上の行動は最悪体調を悪くさせる恐れがある。何より彼女達にはある重大イベントが残っている。

 警備員が誘導してくれているおかげでそれからの行列はスムーズに進んだ。小銭を入れて鐘を鳴らして手を打って願い事をする。


「神様お願いします。センター試験まで風邪持ってこないでください。というか三月いっぱいまで風邪菌を根絶やしにしてください本当にお願いします」

「遥心の中の声全部出てるよ」


 必死すぎるために溜めていたものが無意識に出ていたようだ。(ちょう)()の列が(つら)なっている中で迷惑になるためまだ願掛けをしている遥を引っ張って退散した。

 その後美智と別れた三人は寄り道もせずに帰途(きと)に着いた。


「ただいま」

「おかえりー!」


 遥が玄関扉を開けるのとほぼ同時頃に円と颯馬が飛びついてきた。


「明けましておめでとう二人とも」

「おめでとー!」


 寝不足にちびっ子の元気で大きな声は響くが可愛いで相殺(そうさい)される。(いや)されていると二人が見せびらかすようにポチ袋を見せてきた。


「……何それ」

「お年玉ー!」

「わかなさんにもらったのー!」


 遥は予感が的中したとばかりに額に手を当てて急いで羽奏の元に向かった。


「羽奏さん!」

「ん。お年玉」

「あ、ありがとうございます……じゃなくて!」

「おかえり。雑煮のお餅は何個?」

「ただいま。えっと二個……じゃなくて!」


 羽南と羽奏の呑気さに流されながらも遥は正気を取り戻すように首を横に振った。


「わざわざお年玉をいただいてしまって」

「子どもに渡すのは当たり前だろう。私は働いてるわけだし」


 恐縮(きょうしゅく)する遥に押し付けるように羽奏はポチ袋を渡した。後からやってきた弟二人にも同様に。


「ねえねお腹へったー」


 どうやら遥達が帰ってくるまで食事を待っていたらしい。羽南の方に視線を寄越すと手伝ってと言わんばかりに両手に重箱を持っていた。


「いやー今年は調子に乗って作りすぎちゃった。残すのも勿体(もったい)ないし皆遠慮せず食べてね」


 羽南の言う通り今まで以上の料理の多さによってテーブルは埋め尽くされていた。入りきらなかったものはまだキッチンに取り残されている。


「作りすぎた……ってこれ全部?」

「うんそうだよ。お(せち)は物が多いからちょっと大変だったけど」


 粗方(あらかた)用を済ませた羽南も席に着いて料理に手をつける。


「買ったりしないんですね」

「昔から暇で料理してたから。年越ししてる間に作れるし」


 羽南曰く、市販のものだと味付けが好ましくないものも多々あり廃棄してしまうそう。それより自分で作った方が食べやすいとのこと。


「どうしても偏っちゃうしね。円ちゃん(のど)詰まらせないようにね」


 雑煮の餅に苦戦している円を見守りながら羽南も食を進めた。




「ふう。お腹いっぱい」

「それは何より」


 普段少食気味な遥も今日は颯介と同じように頬張っていた。そのせいかいつもより体が(にぶ)くなっている気がする。


「颯介君はまだ余裕そうだけどね」

「あはは……食べすぎると筋肉落ちちゃうんですけどね」


 はしゃいでいる颯馬を抱きかかえながら颯介は苦笑する。


「成長期なんだから気にしなくていいのに。あ、もうこんな時間。お姉ちゃん買い物行こう」

「ああ」


 車の鍵を持っている所を見ると遠出をするのだろう。


「ちょっと出かけてくるね。遥ちゃん、戸締りは……遥ちゃん?」


 返事をせず机に伏している遥の顔を覗き込む。聞こえてきたのは安らかに眠っている遥の吐息だけ。


「あらら」


 羽南はタオルケットを持ってきて遥に掛けてやる。気になって見てきたちびっ子二人には静かにするよう言い聞かせてから家を出た。


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