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鶴の恩返し  作者: 雪桃
冬の始まり〜新年
50/62

小休憩4

今更ですが、季節外れはご了承くださ……(殴)

 その場で話していても時間がもったいないため目的地へと足を運ぶことにした。道中古谷の姿に怯えた人々がそぞろと避けていった。


「おお。すごいね古谷君」

「まるでモーゼの十戒っす!」

「むらさきちゃんこっち来てよっか」


 遥と共にテンションを高くする沙樹を引きずる。事前に不良ということを教えてもらっていて小動物のようにビクビクしていた彼女はどこへやら。遥は言わずもがななので誰も止めない。

 初対面の中で気まずい雰囲気になるかもしれないという()(ねん)を余所に全員打ち解けたようだ。


「そういえば円ちゃん達は? 羽南さんと留守番?」


 既に開園してから時間が経っているため受付の列もそれほど待つこともなく入場できた。


「後から来るの。ほら、あの子達飽き性だから」


 子守りを任せてしまったことに申し訳なく思う遥だが羽南も楽しそうにしていたし何よりちびっ子がいないと大人二人は遊びに行くことすらしないかもしれない。


「よし。この際いっぱい楽しもう」

「おっ。じゃあカチューシャつける?」

「ウサギとネコどっちがいいっすか?」

「ウサギは前コスプレしたからネコ希望で」

「「コスプレ?」」

「颯斗止めて! 赤城さんを止めて!」


 遥が一言話しただけで女子三人が取り囲んできた。その後日奈の爆弾発言によって遥の(自称)()(たい)(さら)されたことは言うまでもない。

 どこのアトラクションに行っても大混雑は避けられなかった。だがそれは想定内である。


「なんすかこれ」

「羽奏さんが超高速で作った最適ルート」

「相変わらずすげえなあの人」


 遥がメールで全員の周りたいところをアンケートし、まとめるのに悩んでいたところを見かけた羽奏がものの数分で所有時間やら簡単に着ける道やらを紙に収めてしまった。


(なんだかんだ言って親切なんだよなーあの人)


 折角作ってくれたのでその通りに動くことにした。ジェットコースターに乗りメリーゴーランドに乗り日が暮れる前に大方希望アトラクションは体験できた。


「ねえねえ。まだパレードまで時間あるし空いてるとこ行こうよ」

「場所取り禁止っすもんね。颯介先輩どこがいいっすか」

「姉ちゃん達が疲れないとこを考えようかな」


 体育会系の彼らはまだ体力が有り余っているがそうでない遥と颯斗はとっくにダウン状態でベンチに腰かけている。


「遥さんは仕方ないとして颯斗はもっと体力つけなよ」

「うるせーよ赤城」

「私達ここで休んでるから好きなとこ行ってきて」

「え、それは無理だよ。姉ちゃんよく変な人に捕まるし兄ちゃんじゃ勝てないし」

「颯介の言う通り」


 美智にまで同意されてしまっては反論もできない。二人──特に颯斗の方は不本意ながら黙っていた。しかしこの二人に付き合っていたら誰かが遊べなくなってしまう。


「俺が残る」


 美智の横から今まであまり話してこなかった古谷が小さく口を開いた。


「別にもう充分だし」

「まあ古谷がいれば大丈夫かもね……」


 納得したような美智と颯介だったが何かに思いついたらしく颯斗を引っ張っていった。


「おい!?」

「空気読みなさい颯斗」

「リア充誕生かもしれないっす」


 さっさと人混みの中に消えていった彼らを呆然と見送った後遥は古谷に隣に腰かけるよう誘った。


「楽しかったね古谷君」

「ああ」


 もう日も暮れて空は暗いというのに目の前では老若男女問わず楽しそうに遊んでいる。


「昔はこういう所に来ることもほとんどなかったんだよね。友達はいたけど特別どこかに行くこともなかったし。ずっと勉強してたせいで家族とも全然関わってなくて」

「……」

「結局何もできないままいなくなっちゃって」


 遥の眼が揺れる。テーマパークに入る前も遊んでいた時もずっと。楽しかった。だが少し冷静になりかけた時に片隅に過るものがあった。


「お母さん達ももっと遊びたかったのかな。まだ小さい円と颯馬とも……」


 遥の声が細く震えていく。古谷が肩に手を置くと俯いていた顔を上げる。その目尻には涙が薄らと浮かんでいた。


「ごめんね。楽しい時に」

「……別に」


 素っ気なく返す古谷だが、肩に乗せていた手を遥の頭に置く。


「後悔してんならその分お前らが楽しめばいいんじゃないの。もういなくなった人のことをどれだけ悔やんだって靏野がただそこに立ち止まってるだけだろ」

「古谷君……」


 遥は顔を彼の方に向ける。古谷は目だけを寄越して再び口を開く。


「もう気負う必要だってねえよ。いい加減、解放されたって」

「古谷君がそんな格好いいこと言うなんて」


 本当に驚いたように声を上げる遥の頭を力を込めて押す。


「あうっ」

「人が折角心配してんのに」

「ご、ごめん。ちょっと意外すぎて」


 押さえつけられた頭を擦りながら遥は笑みを零す。


「でもありがとう古谷君」


 古谷は呆れたように息を吐きながらも何も言わずにまた前を向いた。


「折角こうやって遊びに来て、しんみりしてたらチケットをくれた羽南さん達に申し訳ないもの」


 ベンチから降りた遥は一つ深呼吸をして落ち着くと古谷に向き直って笑いかける。その時小さな男の子が遥の足にしがみついた。


「わっ」

「ねえね!」


 暖かそうなマフラーと耳当てをした少し鼻が赤い颯馬が満面の笑みで足元にいた。


「颯馬? あれ、羽南さんは? もしかしてまた迷子……」

「大丈夫。流石に注意してるから」


 目の前から聞き慣れた声がする。颯馬から視線を移した先には苦笑を浮かべながらこちらに歩いてくる羽南の姿があった。


「急に走り出したから何事かと思ったわ。遥ちゃんだったのね」

「毎回本当にすみません」


 まだ小さいから仕方ないのか。いや、しっかり叱った方がいいのか。遥が悩んでいると遊びに行っていた者の数人が帰ってきた。


「ただいまー。あれ羽南さんが」

「おかえり颯介。他は?」

「場所取りが許可されたので先に探してもらってるっす」


 古谷と話している間にパレードの時間が近づきつつあったらしい。二人が案内してくる方向に行く前に羽南を見る。


「あの、羽南さん達は」

「ん? 私達は違う所で見るよ。円ちゃんとお姉ちゃんも待ってるし」


 羽南は颯馬の手を引くとそのまま人混みの中に紛れていった。

年末話は楽しいけどいつも雪桃は最後を考えない。

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