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鶴の恩返し  作者: 雪桃
夏の終わり
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45

 三時間後。人気のない屋上に颯斗は一人上がってきた。


(公開は終わったし、羽南さんが言うんだから告白ではないんだろうけど)


 羽南は肝心の理由をいつも話してくれない。それに遥はいつも巻き込まれている。颯斗も何かあるのかと身構える。


「颯斗」


 振り返ると緑色のワンピースを着た日奈がいた。ワンピースは衣装の一つだ。


「何で着てんの」

「えっと……お姉さんに着ろって言われて。似合う?」

「まあ」


 よく亡き母が父に褒めろと言うような行動をしていたが、生憎颯斗はあまり人を称賛(しょうさん)できない。


「それだけ?」

「う、ううん。ちゃんと話をしたかったの。二人にならないと邪魔が入っちゃうから」


 日奈の言葉に颯斗は眉をひそめた。


「俺の言ったこと忘れた? また悪口言われるぞ」


 颯斗は苛ついたように乱暴に吐く。そういう意図を含んだわけではないが、つい声を荒げてしまった。日奈は一瞬怯えたように見えたが、すぐに颯斗に向き合った。


「わかってるよ。それでも話したかったの。ちゃんと、これからどうするか」


 日奈は友達に戻りたいと思っている。くだらない悪口で仲違(なかたが)いするなんてそれこそ後悔する。颯斗だってそれは思う。だが友達が陰で嫌味を言われているのは苦痛なのだ。それが自分に該当(がいとう)しているのなら尚更に。


「私も辛いよ。慣れてると平気は違うもん。けど友達が減るのと比べたら大丈夫になるんだよ」

「俺は嫌だ。当事者ならともかく俺が元凶、加害者なんだぞ。いじめてる奴といじめられてる奴が仲直りできないのと一緒だ」

「颯斗は加害者じゃない。巻き添えを喰らってるだけじゃない」

「赤城は優しいからそう言えんだよ」


 両者一歩も譲らずに言い合いを続ける。黙って睨みあっていた二人だが、先に日奈が折れた。


「……わかった」


 諦めてくれたという安堵と寂しさで肩の力を抜く。そんな颯斗に日奈は更に言葉を重ねる。


「じゃあ私も女子に紛れる」

「うん……うん?」

「ラブレターを渡したり告白したりする女子になる。それでいいでしょ」

「良くない」


 日奈の唐突な主張を根本(こんぽん)から否定する。


「友達は嫌なんでしょ。なら女子に紛れるくらいいいじゃない」

「絶対嫌だ」


 ただでさえ今面倒な告白処理が増えるのだけはまっぴらごめんだ。


「それなら友達でいる方がマシ……あ」


 失言(しつげん)してしまったことに後から気づいた。日奈はスマホを見せて録音ボタンを停止した。


「お姉さんに言われたの。颯斗は反論していけば必ず()(けつ)()るって。だからそれまで録音してろって」

(羽南さん……)


 弟を簡単に売る羽南に呆れを感じる。二人の関係性を見ていれば羽南ならやりかねない。これを知ったら遥が喧嘩しかねないが。


「ややこしくなるから私のことはもういいよ。友達に戻っていい?」

「……俺は別に」


 目を逸らしながら颯斗は素っ気なく答える。日奈はその姿を見て微笑む。


「じゃあ仲直り。はい握手」

「ん」


 嬉しそうに笑う日奈と戸惑う颯斗は手を重ね、握り合った。


「ところでそのワンピースはなんの意味があったんだ」

「ジャージより印象よくなるんじゃない? って」

「羽南さん……」


 ついに羽南が(さく)()というより楽しんでいるようにしか見えない颯斗であった。




 後日。


「羽南さん俺のこと売ったでしょ」

「オネエチャンシラナイヨ」

「大根か」


 文化祭が終わって幾日か。思い出した颯斗はすぐに羽南に詰め寄った。誤魔化(ごまか)しているが羽南の目は泳いでいる。


「……遥ちゃんには言わないで」

「聞こえてますが?」


 颯斗の後ろから黒いオーラをまとった遥が飛び出してきた。


「私の弟に何したんですか」

「いや、だって」

「問答無用!」

「言ってること違う……お玉振り回さないで危ないから」


 颯斗の予想通り喧嘩が始まった。遥の一方的な暴発とも取れるが。


「文化祭で何があったんだ」

「さあ?」


 その横で事情を知らない羽奏と颯介は首を傾げていた。

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