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やはり学校の目玉というだけあって混んでいる。恋人、親子、友達など多種多様だ。
「はやとにいにー!」
「にいにー!」
子どもは見つけるのが早い。大人が探している間にもう兄のもとへ駆け寄っていった。
「はやっ」
「これのせいで迷子になるんじゃないかしら」
子どもに免疫がない羽南と活発な子どもに免疫がない古都子はそのスピードに驚いている。それに慣れている遥は慌てて追いかける。
「もう! 勝手に行かないでって何度も言ってるのに……ああ颯斗。お疲れ様」
「来たのか。メールしないと」
颯斗は誰かに向けてメールを打っている。恐らく颯介に会いたいと言っていたクラスメイトだろう。
「すごい混みようね。去年もこうだったっけ」
「知らん。去年は風邪で休んでた」
「あ、そっか」
颯斗の案内で比較的人の少ない場所まで進んでいった。そこには颯斗がメールしたであろう男子が待っていた。
「よお。連れてきたぞ」
そこは簡単に学生のレポートなどが壁に飾ってある。ちびっ子二人と羽南・古都子はそれを観察している。颯斗は弟を手招きしながら呼んだ。
「満足か」
「本物か?」
男子の好奇心旺盛な目にたじろぎながら颯介はお辞儀をする。
「はじめまして。いつも兄がお世話になっています。靏野颯介です」
「まじで本物だ! うわすげえ有名人じゃん!」
颯介の肩を掴んで激しく揺する男子を慌てて引き離す。
「お前この足見えねえのか。つーか騒ぐなっつっただろ」
「わ、悪い。ついテンション上がっちゃって。ごめんな颯介君」
「いいえ」
手を合わせて謝る男子に颯介は笑いかける。
「優しいなー。兄ちゃんとは大違い」
「うるさい」
男子はバスケこそしたことないものの、スポーツ系の雑誌を見た時に颯介が写っていたことがあり、そこからファンになったらしい。颯介は嬉しそうだったがサインを求められた時は断った。まだプロでもなく有名でもないかららしい。
「そういえば靏野。お前姉ちゃんとは似てないのな」
しばらく颯介とバスケについて歓談していた男子が不意に颯斗に聞いてきた。
颯斗と颯介は顔を見合わせて首を傾げる。颯介と似ていないと言われたことはあるが、遥と似ていないと言われたことはない。
「え、だってあの焦げ茶髪の人だろ? 全然似てないじゃん」
焦げ茶髪というのは羽南のことだろう。血が一切繋がっていないのだから似ていないのは当たり前なのだが事情を知らせていないので間違えられても仕方がない。
「あっちは似てないけどもう一人の方は似てる」
「まだいんの? 今日は来てないとか?」
「は? そこにいるだろ」
後ろを見てもいるのは羽南達だけ。肝心の彼らの姉はいない。颯斗は羽南の傍に寄っていき肩を叩く。
「遥どこ行きました」
「え? そっちじゃないの」
羽南と辺りを見回してみたがどこにもいない。携帯も繋がらない。
「なんかデジャブだね」
「言ってる場合ですか」
今度は遥が迷子になってしまった。
「いつまでいたっけ。ここに入るまではいたと思うんだけど」
「正直もう高三なんで放っといてもいいんですけど携帯が繋がらないのは不安ですね」
男子は職場に戻っていった。だが遥からは何の連絡もない。迷子センターのようなものもあるが遥が行くわけないだろう。
「んー。遥ちゃんよく変な男に捕まるからなー」
「うちの姉になんて見方してんすか」
だが事実だから否定はできない。とりあえず颯斗のシフトも考えて一度戻ることにした。
女子更衣室前が騒がしい。
「颯斗君はこっちなのに?」
疑問に思う全員のもとに女子が一人やってきた。
「赤城、これなんだ」
羽南の代わりに颯斗が聞く。日奈は女子の群がりを見ながら苦笑する。
「美人の女性がいたからみんなで人形にしてるそうだよ」
日奈も写真を撮ったらしく、「見る?」と言ってスマホを向けてきた。
「はあー本当に美人ね。お人形さんみたい」
古都子が覗き込んで感心する。その美人はウェディングドレスのような衣装を着ているが、その純白に負けないくらい陶磁器のような細やかな肌を持っており、まるで西洋の人形が現実に飛び出してきたようだ。
「颯斗君達に負けず劣らずだね」
羽南はからかい半分に言いながら輪の中を見やる。恐らくあの中心にこの美人がいるのだろう。と、その美人と目が合った。
(わあ。実物も綺麗。とりあえず挨拶しとこう)
羽南は笑顔を作りながら小さく頭を下げた。そのままじっとしてると段々美人が涙を浮かべて走ってきた。