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鶴の恩返し  作者: 雪桃
夏の終わり
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50話を目途にしてたのに絶対無理だとわかった今日この頃。

 ラッシュが過ぎた電車は若干(じゃっかん)空いていた。羽南は壁に背中を預けて一息吐いた。


「あー疲れたー」


 車内は話し声で少し騒がしかった。だから少し大きな声を出しても誰も気にしなかった。


「文化祭の準備って大変そうねー。ご苦労様」

「まあ後一週間くらいですから。羽南さんは就活……」

「そう聞いて!」


 羽南が無邪気な目をしながら颯斗の肩を揺さぶる。こうしてみるとどうしても年上には思えない。五つも離れているのに。


「ようやく内定が取れそうなの! まだ研修とかがあるけど一次は通ったんだよ!」

「よ、良かったですね」


 ずっと遥のように悩みに悩んでいたため、喜びも爆発的なものになったらしい。颯斗は激しく揺さぶられる。


「またとないチャンスだからね。逃さないようにしないと」

「そうすると文化祭は来れませんか。忙しくて」

「行く。それは行く」


 どうやらイベント事には出たいらしい。つくづく年上とは思えない。電車から降りると辺りは大分暗くなっている。


「悪いけど夕飯は惣菜(そうざい)ね。遥ちゃんにも料理はしなくていいって言ってあるから」


 羽南は大変だろう。家族の分のご飯を作って弁当も作って仕事もして。以前はもっと楽だっただろう。


「いつもすいません羽南さん」

「謝られるよりお礼を言われる方がいいな」


 からかうように微笑まれて颯斗は大きく開いた目を何度か開閉する。そして意図に気づいて眉を小さく寄せて苦笑した。


「いつもありがとうございます。羽南さん」




 文化祭は準備から楽しいものである。そして楽しいことはあっという間に過ぎていき、文化祭当日になった。


「……」

「おはよー靏野! 何下駄箱覗いてん……うおすげえ」


 颯斗の下駄箱は中身が見えないくらい手紙で埋まっていた。全てラブレターだろう。


「うちってイベントがあると恋人率高くなるから」

「去年はなかったぞ」

「だって風邪で休んでたじゃん。大変だったんだからな片づけんの」


 男子が持っていたビニール袋を借りてラブレターを取り除いていく。だが取っても取ってもなくならない。


「どうすんのそれ」

「捨てる。知り合いならまだしも挨拶すらしたことない人とつきあえない」


 傍から見れば()(どう)だが一目見ただけで百通以上あるものを(さば)けるほど颯斗には時間がない。一気に重くなった袋を持って教室へ向かう。


「そういや靏野颯介来る? 約束だもんな」

「来るけど怪我してるからあんま騒ぐなよ。後フルネームで呼ぶな。颯介でいい」


 コスプレをするため男子と女子で更衣室が分かれている。流石に男子更衣室まで乗り込む女子はいないらしい。颯斗はすぐに衣装に腕を通した。


「おー。(さま)になってるじゃん」

「メガネなんて授業中にしかかけねえよ」


 折角上着があるというのに暑いからという理由でシャツを(まく)っている。それも受けがいい装いだが。


「ファンが増えるな」

「これ以上は困る」


 シフトを作っていたクラスメイトの情けなのか颯斗はほとんど裏方のコスプレをしたい人の手伝いになった。それでも動き回るから人の目に映ってしまうのだが受付などで行列を作られるよりかはましだ。


「颯介が来たらメールするから。ほら仕事行け」

「絶対だからな」


 仕事内容が違う男子は念押ししながら持ち場へ行った。颯斗も更衣室を抜けて準備を始める。


「あ……」


 荷物を運んでいる颯斗の前にジャージ姿の日奈が現れた。


「……」

「お、おはよう。やっぱ似合ってるね」

「なんでジャージ?」


 どもりながら何とか話そうとする日奈の装いを見て首を傾げる。


「え、だって動くから」

「コスプレしないのか」

「しないよ。全員やるわけじゃないって言ったじゃない」


 それなら自分もしたくなかった。そう言おうとした矢先、役員に日奈は呼ばれてしまった。折角二人で話す時間ができたというのにすぐ誰かに邪魔されてしまう。


(まあ。俺が拒絶したんだけど)


 自分が決めたことに少なからず後悔するがどうにもならない。颯斗は胃の中が妙な気分になりながら仕事を始めた。




 数時間後。一般人が来場して混み始めた頃に遥達はやってきた。


「はー懐かしいわー。何年ぶりだろ」

「あんたより私達の方が懐かしいわよ。どっちも公立で文化祭見れなかったし。円、颯馬、勝手に行かない」


 羽南と喋りながらちびっ子二人を引き止める。一切無駄のない動きにつくづく古都子は要領がいいと思う。


「すみません古都子さん。お(もり)なんかさせて」

「全然。遥は颯介を見てて。混んでたら怪我しちゃうかもしれないし」


 松葉杖をついている颯介は、ぶつかられたら悪化するかもしれない。颯斗の友達が颯介のファンということで来てみたが、治るまでは安静にと言われているのだ。


「颯斗君には連絡したの?」

「したんですけど忙しくて抜けられないから来てって返されました」

「じゃあ行こうね」


 全員で颯斗の待っている教室へ向かった。

後2,3話で終わらせるつもりです。颯介が長かった……。

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