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鶴の恩返し  作者: 雪桃
夏休み
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33

必殺! 雪桃美形好き作戦!

 そして二日後。


「……眠いです」

「慣れろ」

「なんで朝一の便を選んだの」


 早朝五時。羽奏の出張にくっついて沖縄へ行くことになった遥だが、あまりにも早すぎてまだ寝ぼけている。羽南は見送りのために来た。


「一泊二日ってことは明日には帰ってくるでしょ。何時(いつ)(ごろ)?」

「二十時」

「遥ちゃんきつそう」


 バスケを見る以外遥はやることがない。宿泊先にずっといるわけでもないしどうするのか。


「中学校のご(こう)()で見た後は羽奏さんが帰ってくるまでそちらに行きます」


 事情を話していたらしい。元々円達を連れて行くつもりだったから報告しなければいけなかったのだろう。


「じゃあ気をつけてね。何があるかわからないから」

「はい。行ってきます」


 まだ日が出て間もなく、遥と羽奏は家を出ていった。


(遥ちゃんって呼吸するように面倒ごとを引き受けるのね)


 羽南は苦笑を浮かべながら手を振って見送った。




東京から沖縄までの飛行機は難なく運行(うんこう)してくれた。夏ということもあって沖縄は暑い。


「車借りてくる」


 家を出てから三時間。沖縄に着いてすぐ、羽奏はレンタカーを借りに行った。


(暑い……こんな中でバスケするんだ)


 体育館だから冷房は効いているだろうが人混みと熱気で恐らく気温は上昇するだろう。


(羽奏さんってなんでスーツ姿で汗かかないんだろ)


 車が目の前に来たので乗り込む。会場まで運転する羽奏の隣で遥はトーナメント表を見る。


「数が少ないな」

「今日は一回戦と二回戦です。明日が決勝で」

「ふうん」


 一回戦で八校から四校。二回戦で四校から二校に分けられる。


「颯介の中学校は……十三時からです」

「それなら先に職場に行く。お前は先に行ってろ」

「はい」


 体育館まではすぐだった。全国大会なだけあって保護者だけでなく地方テレビもいくつかある。遥を降ろした車は早急に去っていった。


(えっと、確かここに……)


 遥は周りを見渡して中学のスローガンが書いてある旗を見つける。母校だからすぐにわかる。


「お隣失礼します」


 遥が着いた時には既にすし詰めのような状態で席が埋まっていた。何とか自分の席は確保する。


(これ、試合始まったら混んでるどころの騒ぎじゃないんじゃ)


 今はウォーミングアップ中らしい。当たり前だが颯介の姿はない。


(出たかっただろうなあ)


 去年は優勝こそ逃したものの颯介が誰よりも得点を取っていた。あの時の颯介は本当に楽しそうだった。


「……あれ?」


 遥はふと思い出す。確かに去年は楽しそうだった。同学年のチームメイトと笑いながら、楽しみながらバスケをしていた。くどいと思うほど家でもバスケの話をしていたものだ。


(あの子……もしかして)


 遥はある予感を思いつき、そして悲しそうに目を閉じた。

 十時から一回戦目が始まった。遥の予想通り、バスケ部ではなくとも応援に来た中学生や家族たちだけでも会場は埋め尽くされた。


(こんなに人多かったかな)


 どちらかと言うと女子生徒の方が多い気がする。誰か人気な選手がいるのだろうかと遥はコート内を見回してみる。


「あら? 遥ちゃん?」


 呼ばれて振り返ると丁度後ろに中年女性が立っていた。


「……あ! お久しぶりです」


 中学で仲の良かった友達の母親だった。


「久しぶりね。遥ちゃんは一人?」

「えっと……はい、今は。おばさんは?」

「私は娘にせがまれたのよ。受験してる私の代わりに行ってきてーって」

「そんなにバスケ好きでしたっけ」

「何言ってるの。お目当ては颯介君よ」


 遥の隣に座り直した母親は遥に訂正(ていせい)した。どうやらこの女子生徒の多さも颯介絡みらしい。


「どうして?」

「どうしてって颯介君イケメンじゃない」

「へ?」


 遥の予想を超えた返答だった。もちろん颯介は小学校の頃からバスケ一筋で、色恋沙汰なんてものは一切聞いてこなかった。


「知らなかったの? 告白もされてるのよ。他校の子からも」


 遥は開いた口が(ふさ)がらなかった。


「まあ誰とも付き合ってないんだけど」

「あ、良かった」


 遥はあからさまにホッとした。彼女はしっかりしているが弟離れができていないと母親は思った。


「でも颯介いないんですよ」

「え? あれ、引退まだでしょ?」

「事故に遭いまして。今は東京の病院で(りょう)(よう)(ちゅう)です」

「あらあら。大丈夫なの?」

「重症ですけど何とか。でも夏休みじゃ治らなそうですね」

「お大事に。でもそれなら颯介君を見に来た子達は残念でしょうね。生で見れる機会なんてこれだけでしょうに」


 改めて遥は会場を見回す。確かに言われてみれば浮かれている女子生徒が多い。期待が高すぎて颯介がいないと知ったら落ち込むだろう。


(颯介ってモテてたんだ)


 遥も大抵整っている顔立ちだが勉強一筋で気づいていない。羽奏がいるせいで余計感覚が麻痺していた。

 折角だからと一緒に観戦していたが、試合時間三十分前に羽奏が着いた。


「遥」

「はい……よくわかりましたねこの人混みで」


 何も教えていないにもかかわらず、羽奏は遥の元に来た。


「とりあえず外行きましょう」


 羽奏は疑いなく美人なので周りから視線が集中する。遥はいたたまれなくなって母親に会釈してから外へ出た。

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