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鶴の恩返し  作者: 雪野真白
夏休み
30/62

29

「ねえ遥に颯斗。ちょっと聞きたいんだけど」


 遥の部屋で勉強をしている二人の元に古都子は入った。颯介の勉強面を改めて見返して文系理系の勉強を教えることにしたようだ。


「君達、最近の颯介について何かない?」

「何か?」


 遥と颯斗は顔を見合わせて首を傾げた。次いで入口に立っている古都子を見やる。


「最近思い詰めてたり」

「いや、見たことありませんけど」

「そう」


 口に手を当てて古都子が考え込む様子を二人は静かに(うかが)う。


「もう一個聞いていい?」

「はい」

「颯介ってバスケ好き?」

「へ?」


 当たり前のことを()(ごく)真面目に聞いてきた古都子に二人は揃って思わず変な声が出てしまう。


「えっと、好きだと思いますけど。でなきゃ部活に入ってないだろうし」


 颯斗が戸惑いながらも答える。


「そう。そうよね。やっぱ好き、なのよね」


 だが答えを聞いても古都子は腑に落ちていない。今日のことを思い出して遥は口を開いた。


「あの。今日の三者面談で何かあったんですか? 帰ってきた時の颯介は何ともなかったですけど」

「何かって程大袈裟ではないんだけど」


 古都子は面談の最後の颯介を思い出しながら説明した。先に古都子が成績の話をしていたからかもしれないが。


「それにしたってあまりにも神妙すぎる気がしない? 確かにいいとは言えないけど推薦を取るってことはそれなりに配慮(はいりょ)はしてくれるってことでしょ? そもそもバスケをしたくてその高校に入るわけなのにやめる気があるのは深い理由を持ってると思うのよね」


 一人で()(ろん)を唱え始めてしまった古都子をどうしようか迷っていると太郎が二階に上がってきた。


「何してるの?」

「わかんないです」


 状況を理解した太郎が周りに気づかずいまだ自分の世界に入っている古都子を連れていった。

 静けさの戻った部屋で二人はまた勉強を再開した。


「……颯斗」

「ん?」

「さっきのどう思う?」

「さっきのって颯介?」


 遥は肯定を意味するように一つ頷いた。


「今まで練習がどれだけ酷くてもやめるなんて一言も口にしなかったじゃない」

「仮定の話だろ?」

「そうなんだけど」


 遥は口を尖らせてシャーペンの頭で何度もつついた。颯斗はそんな姉に疑問を持ちながらも座り直してシャーペンを走らせた。




 正確に血が繋がっていなくても二十年以上一緒にいると性質も似てくるらしい。


「最近颯介君様子おかしくない?」

「それ昨日古都子さんにも言われました」


 朝食を作っている羽南は颯介を観察しながら言う。実姉の遥から見ればただ寝ぼけているようにしか見えない。


「眠いからじゃないですか?」

「まあ眠そうだね。でもそういうんじゃなくて。うーんこういう説明下手なんだよなー」


 考えあぐねている間も料理の手は止めない。大家族の分を短時間で作れる手際の良さも古都子譲りなのかもしれない。


「聞くのが手っ取り早いんだろうけど干渉してほしくないところもあるだろうし。難しいお年頃だよね」


 颯介が親に(たて)ついたことなど片手でも余るくらいだが、何か思うところでもあるのだろうか。


「私にはよくわかりません」

「そっか。まあ私達より颯介君のこと知ってるんだし気にしなくていっか。私も断言できるわけじゃないし」


 全員分の朝食を皿に盛った羽南がダイニングテーブルの方に戻ったので話も終えてついていった。




「行ってきます」


 朝食も終わって身支度も済んだ颯介は一番に外へ出ていった。


「毎度のことながら起きて三十分で支度ってすごいわ」

「うちの男はそういうのちゃっちゃとやるんです。おかげですぐ洗面所は空くけど」


 羽奏ももうすぐ仕事に行くらしい。颯斗は図書館に向かっていた。


「こっちの姉はただずぼらなだけだな」

「そ、そうですね」


 化粧をしなくても羽奏の顔は整っているのだから羨ましいものだ。


「全国大会かー。私達は縁がないなー」


 古都子が冷蔵庫から取り出した牛乳を飲みながら懐かしむ。


「あれ? お母さん高校の頃テニスで全国行ってなかった?」

「高二の頃ね。しかも一回戦敗退だから」


 全国に行けるだけでもすごいと思う未経験者の二人だが、素人と玄人では勝手が違うのだろう。


「さて。颯介の件も一段落したし。そろそろ仕事するかな」

「というよりよく今まで仕事せずにやってこれたね」


 古都子曰く、アメリカでひと月半分の仕事は終わらせ、臨時は部下に任せているそう。


(本当なんの職業なんだろう)


 特殊でも海外出張でも気になってしまうのは仕方ない。たとえそれが聞いてはいけないとしてもだ。


「お昼はー?」

「ドアの前に置いといて」


 古都子は短く羽南に告げるとさっさと二階へ上がってしまった。太郎も羽奏も既にいない。


「一気に静かになりましたね」

「お母さん集中しだすと止まらなくなるんだよなー。おにぎりでいっか」


 そこは羽奏が引き継いだらしい。引き継いではいけないものな気がする。


「あ、そういえば羽南さん八月の最終日近く空いてます?」

「多分」

「颯介の中学は二十三日に予選らしいです」


 遥はコピーしたバスケ部年間予定表を見せる。


「どれどれ……沖縄でやんの!?」

「ええ。部員は三泊四日らしいです。ちなみに去年は神戸でした」


 羽南は苦い顔をして空を(あお)いだ。


「行きたい」

「え?」

「行きたい。けど沖縄じゃ日帰りは難しい。補講もある。行きたい……」

「あの。私も颯斗も行きますし。お土産も買ってきますから」


 あやすように説得された羽南は渋々ながらも身を引いた。義弟のバスケを見たかったのだろう。


「多分お母さん達も行けないだろうから二人だけになるかな。ちびちゃん達は危ないし」

「そうですね」


 遥は勉強の合間に買ってくる土産リストを作ってみた。

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