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編集事情で短めです。
それからの面談もスムーズに終わって教室を出る。
「反対されると思った?」
気を緩めていた遥は身を強張らせて隣の古都子を凝視する。
「え……」
「だって私と先生が賛成した時あからさまに肩の力を抜いたよね」
遥は図星を突かれたように目を泳がせて戸惑いの表情を浮かべる。本人に自覚はないが、彼女は顔によく出る嘘を吐けないタイプだ。
「その……私、高校に入ってからずっとこうで。大学は前から決めてたんですけど、もう諦めた方がいいのかなと思って」
「確かに何もしてないなら止めるわ。遊びじゃないからね。でも真面目に努力してる子の意思を折るほど鬼畜じゃないよ」
安心しきっている遥は応援されているとしか思っていなかったが、よくよく聞いてみるとちょっとでも気を抜いたら許しはないと思えという一種の脅しだ。古都子も微笑んでいたから伝えるつもりもなかったのだろう。
「そういえば三日後には颯介の面談なのよね。羽南は絞っといたけどこれから構ってやれないし。絞ると言えば高校もあれだけ候補があるとわからなくなるわ」
とりあえず話を直に聞いた颯介に八校まで削ってもらったがそれでもまだ多い。最低でも五校、できたら三校まで減らした方がありがたい。
「うちの弟がすいません」
「全然。私にだって息子同然だもの。受験くらいいくらだって協力するわ」
おおらかな性格の古都子に釣られて遥も笑う。玄関まで歩いてきた時、遥は何かを感じ取って中庭の方へ寄ってみた。
「やっぱり。久しぶり古谷君」
「……おう」
相変わらず長い金髪は寝癖がついたまま伸びているし、眠そうな目も変わらない。ただ、友達となった遥は恐れることなく木に寄りかかっている古谷の方へ歩く。
「どうしたの? 補習?」
「面談。親父が先に行けっつーから」
遥の質問にすぐ答えるが、目線は違う方――遥の斜め後ろでこちらを見ている古都子に向いていた。
「あ、この人が義理のお母さん。古都子さん、彼は古谷君。クラスメイトで友達です」
「そう。はじめまして、芦屋古都子です」
「……っす」
少々気まずそうに古谷は立ち上がって会釈する。こういうところはしっかりしているんだなと遥は一人思う。
「どうする遥。私は帰るけどもう少し古谷君と話してく?」
「あ、えっと」
ちら、と古谷の方を見ると構わないと言うような目線を送られたので古都子と別れることにした。
「どうしたの古谷君」
古都子がいなくなった後も戸惑っているような困っているような表情を浮かべている古谷に疑問を抱く。
「いや。普通俺と一緒だと嫌な顔をする大人が多いから」
「自分で言うくらいなら直せばいいのに」
臆することなく言うのも遥は気にしない。肝が据わっていると言えばそうなのだろう。
「でも古都子さんって何に対してもポジティブ思考なんだよね。私達五人を引き取ったのも気分って言ってたし」
古都子が子どもを産めない体質で、羽南と羽奏を引き取ったのは知っている。だが友達の子を育てるなんて考える人がそう多くいるだろうか。それも五人。
「不思議な人なんだよね」
思い返してみれば古都子のことは何も知らない。アメリカに長期出張しているということはわかっても何の職業をしているのかはわからない。
「今更聞くのもどうかと思うし……どこ見てるの古谷君」
「親父」
振り返るとスーツをしっかり着た初老の男がこちらを見ていた。
「じゃあこれで終わりだね。バイバイ古谷君」
「ああ」
荷物を持って手を振る遥に軽く手を挙げて返した。