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鶴の恩返し  作者: 雪桃
夏休み
26/62

25

 翌日。古都子がカラー付きのプリントを颯介に渡す。


「それ顧問とコーチに見せて。無理なとこあったら教えて」

「……すげぇ」


 颯介が思わず呟いてしまうほど、カレンダー表式になっている八月の予定表は完璧だった。しかも何日もかけて推敲(すいこう)したものではなくて、昨日の夜に作成されたものだ。


「おー。内容びっしりすぎて夏休みなのに休みないじゃん」

「本当だ」

「遥ちゃんもだけどね」


 遥に関してはこれと言って外出予定はないが、夏期講習を受けるらしい。家でも外でも勉強漬けだ。


「颯介の将来にかかってると思ったら中途半端にできなくてね」

「あれ? お母さん私達の時そんなに真剣じゃなかったよね」

「あんたらは相談する前に全部決めてたでしょうが」


 古都子がジト目で見てくるが羽南は目を逸らす。羽奏は元より聞いてない。


「ありがとうございます古都子さん。これでやっと部活削らなくて済む」


 一通り目を通した颯介が顔を上げて礼を言う。大会が近づいている今、計画的でない予定を詰め込むことは避けたいのだ。


「どういたしまして。何かあったらすぐ電話してね。行ってらっしゃい」

「はい。行ってきます」


 颯介はスポーツバッグを背負うと早足で家を出ていった。


「やっぱ子犬だわ」

「だよねー」


 後ろ姿を見送る古都子と羽南が口々に言う。


「さて」

「何かまだやんの?」


 羽南の疑問に古都子はキョトンとした後、意地の悪そうな笑みを浮かべる。


「あんた達のお世話もしないとね」

「へ」


 なんだかわからないが羽南は()(かん)がして背筋が凍るような思いだった。




「どうでしょう先生。どこか駄目な点はありますか」

「……お前の引き取り人は何の職業に就いているんだ」

「え? えっと」


 住所の変更なども含めて颯介の担任は靏野家に何があったか知っている。だから『両親』ではなく『引き取り人』と言った。

 それはともかく改めて古都子と太郎の職業がわからない。海外出張が多いということだけは見ただけで理解できるが。


「長年事務仕事をしててもここまで正確に把握できる資料は少ないぞ」

「は、はあ」


 どうやら感心しているようだ。颯介は曖昧に頷く。


「監督には見せたか」

「今から行きます」


 担任はコピーしたものを自分の方へ。原版(げんばん)を颯介に返した。これを監督に見せろということだろう。


「それじゃあ失礼しま……」

「ちょっと待て」


 職員室を出ようとした颯介の腕を掴む。


「はい?」

「お前、進路は絞ったか?」


 身を縮こませる颯介に担任はため息を吐く。


「早く決めないと。十六校も見れないだろ?」

「……はい」

「バスケだけで選ぶのは難しいだろうが、留学も考えられるからな」

「……」


 がんばれ。そう言って担任は離れていった。


「……留学」


 颯介は小さく呟いた。




 颯介の面談よりも先に遥の方へ向かった。


「前回の模試ではかなりの好成績でしたが第一志望を考えると安心できません」


 古都子は結果を見てから遥の担任を見る。


「これって去年はどうでした」


 要するに遠回しにこれは環境の変化がかかわっているのか聞いているのだろう。


「あまり大差はありません。遥さんは学校のテストではいい結果を取るんですけど全国になると実力が発揮できないというか」

「緊張しちゃうのかな」


 古都子が聞くと遥は気まずそうに何度か頷く。慣れない場所で知らない人とテストを受けると思うように頭が働かなくなってしまうのは遥の根っからの悪い癖だ。


「どうする遥。もう一つ下の大学なら肩の荷が降りるよ」

「……いやです」


 古都子の提案に遥は首を振る。


「無謀なことをしてるのはわかっています。だけどどれだけ苦労しても私はそこで学びたいんです」

「ですって。どうしましょう先生」


 古都子が言ったことは遥の意欲を試したことらしい。遥の担任は少し考えた後、口を開いた。


「彼女の意思は去年から変わっていませんし。学力も向上しつつありますからこのままいきましょう」


 その返答に遥がホッとしたのを古都子は見逃さなかった。

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