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鶴の恩返し  作者: 雪桃
夏休み
24/62

23

新キャラ。そして新章? 新話? 颯介編です。

 バッシュの音。ボールが床を叩く音。チームのかけ声が聞こえる。


「靏野」


 監督に呼ばれる。コートを抜けてそちらへ向かう。外に出ろと(うなが)されたのでついていく。


「午後から高校のバスケ部コーチが来るのは聞いてるな?」

「はい」

「今日来る所はかなりの強豪(きょうごう)(こう)だ。練習は厳しいがその分プロに近い実力をつけられる」

「……はい」

「一度話を聞いて見学してみて。行けると思ったら焦点(しょうてん)を当ててみろ。きっとお前にはいい環境だと思うぞ」


 お前は期待されてるからな。そう肩を軽く叩いて監督(かんとく)はコートへ戻っていく。


「……」


 颯介はすぐには戻らずにその場に立ち尽くしていた。




「颯介君。ちょっとあれ取って」


 キッチンに立つ羽南が上を指す。颯介には余裕だが羽南は台がないと届かない場所だ。


「これですか?」

「そう。いいなー高身長」


 180もある颯介を(うらや)ましそうに見上げる。


「やっぱバスケって身長高い方がいいの?」

「そうでもないです。確かにシュートはしやすくなりますけど狙われやすいですし。小柄は逆に身軽ですし」

「へー。授業でやったけどボロボロだったからなー」


 颯介は思春期特有の多感な年頃だとは思えないくらいに裏表のない無邪気なスポーツ少年だ。


「大きな子犬だよねー」

「矛盾が過ぎるぞ」


 羽南が頭を撫でると恥ずかしがりはするが、払ったりはしない。やっぱり子犬だ。


「円もなでてー」


 要望に応えてやる。三年生になった円は勉強もスポーツも楽しくやっている。活発な子だ。


「それにしても兄弟って一緒にいても全く違うのね」

「どういう意味ですか?」


 用が済んだ羽南は息抜きに単語帳を開いている遥の隣に座る。


「颯斗君と颯介君なんて全然違うじゃない。文学少年とスポーツ少年で。しかも円ちゃんもスポーツ少女になりそうだし」


 羽南と羽奏は姉妹だが、実質は一人っ子だ。それに捨て子からの養子のため性格も少し──いや、大分(かたよ)っている。


「それより君達出すものあるんじゃない?」


 古都子が大人組三人に手を差し出す。羽南も含めれば何か試験だろうかとも思うが、何のことだろうと目を合わせる。


「もらってない? プリントとか紙とか用紙とか」

「全部同じ意味だよ」


 それでもわかっていない三人。ちなみに羽南もわかっていない。


「もったいぶってないでさっさと言いなよ」

「三者面談よ。確か全員あったでしょ?」

「三者……あ!」


 最初に気づいた遥が急いで自分の部屋に向かった。戻ってきた時には三枚紙を持ってきた。


「はいどーも……なんで三人分持ってるの? まさか遥一人でやろうなんて」

「えっと……えへへ」


 古都子の問いかけに誤魔化(ごまか)したように笑う遥。古都子よりも先に羽南が遥の頬を両手の指で引っ張る。


「報・連・相! また胃に穴空くよ!」

「ごめんなひゃいたたた!!」


 まだ靏野夫妻が生きていた頃。高校が難関なためにストレスを溜め続けた結果、夏休み中に胃に穴を空けて入院したそう。それを聞いた羽南は(こま)めに報告をするよう頼んだ。


「まあまあ。まだ予約はしてないのよね。悪いけど颯斗はちょっと置いとくわね。受験生を優先させるから」

「はい」


 引っ張られたせいで少し赤くなった頬をさすりながら遥は手帳を開く。兄弟の予定を全てまとめているそう。本当にマメな長女だ。


「遥ちゃんはどこでもいいの?」

「はい。部活もないですしずっと勉強する気だったので。颯斗も特にはないよね」


 受験生で引退した遥と元々部活に入っていない颯斗は入れやすい。


「で、問題は」


 その場にいた大人全員が颯介に注目した。一気に視線を浴びた颯介は少したじろいだ。


「空きがほとんどないのね」

「去年はまだ受験生じゃなかったので余裕があったんですけど今年はそうも行かなくて」

「スポーツ推薦は経験したことないからなるべく早めがいいんだけど」


 部長職は後輩に譲っているものの、エースとしては一歩も引けを取らない。一年の頃からスタメンに選ばれていた颯介は受験勉強よりもバスケを優先させている。


「この予選中は全部出るの?」

「いえ。八割近くは校内練習です。えっと。二週間校内合宿で、合間に推薦校と面談って感じです」

「合宿ってずっとバスケ漬け?」

「はい。飯と風呂以外はずっとバスケです」

「うへぇ」


 運動部所属ではなかった羽南が変な声を出す。後で聞いたところ、プロの見込みがある颯介は倍以上厳しく指導されて吐いたり倒れたりしたことも一回や二回ではないらしい。遥曰く、今ほど安心できるときはなかったそう。


「あれ。そういえば颯介君の担任ってバスケ部の顧問じゃなかったっけ」


 羽南が中学のパンフレットを見ながら言う。


「そうですね」

「この人に融通(ゆうづう)利かせてもらえば? 他のクラスメイトの面談もあるんでしょ?」

「教師と生徒は違うだろ」


 空いている日はほとんどない。あったとしても担任の用事が被っていては結局まともな話し合いができない。


「うーん。とりあえずコーチの人に掛け合ってみてくれない? 多分いくらか配慮してくれると思うんだけど」

「前例がないわけじゃないしね」

「はい。明日話してみます」


 本当に無理だとわかるところに遥と颯斗を入れて、明日まで保留することにした。

颯介編とか言ってるけどちょくちょく遥入ってきます。だって主人公だもの。(作者はいまだに遥と羽南のどちらが主人公なのかわかっていません)

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