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鶴の恩返し  作者: 雪桃
夏の始まり
23/62

22

作者は虐待・ドラッグなどを推奨しているわけではありません。ご了承ください。

 羽奏達が墓参りをしている間。羽南は自分の過去を何となくで説明していた。


「捨て子って……」

「うん。お姉ちゃんは典型的な虐待。私はどちらかというとネグレクト。あ、お姉ちゃんと私も血、繋がってないのよ」


 正直血が繋がっていなくてももう驚きはしなかった。

 羽奏の両親はギャンブルとドラッグが好きで、中絶費用もなかったために産んだそう。そんな環境でまともな生活ができるはずもなく、毎日毎日、羽奏が五歳になるまで暴行を続けられていた。

 一方の羽南はそれに比べるとマシだった。虐待に変わりはないが。飯を与えられ服を与えられる。それだけ。母は一日中携帯を見続け羽南に(かま)いもしない。父は生きているのかもわからない。

 二人は同じアパートの隣に住んでいた。出会ったのは四歳と二歳の時。暇になった羽南が外に出ると下着姿で寒い中追い出されている羽奏が座っているのを見つけた。幼いながらに感情を失った羽奏に自分のご飯を分け与え、逃げるように公園へ行く。見かける大人は少なくなかったが、(うす)(ぎたな)い子どもを助ける者は一人もいなかった。特に羽奏は今では考えられないくらいに暴力を受けて人間とは思えないくらいだった。警察も病院も知らない二人にとって逃げ場は近くの公園くらいしかなかった。


 ある日のこと。五歳の羽奏は羽南に連れられて部屋に入った。


「?」

「まま、てるてるぼうず。ほら」


 (した)()らずに羽南は言う。目の前には首に縄を巻いて天井からぶら下がっている羽南の母の姿。


「まま、ごはん」


 足を揺すってみるが起きない。二人は知らない。母に何が起こっているのか。だから毎日与えられる飯がないことに不満を言う。

 返事のない母に痺れを切らして公園へ向かうことにした。早くしないと羽奏が殴られるからだ。


「おなかすいた」


 二人はベンチに座っていつものように何時間も過ごす。羽奏も言葉は知っているが(しゃべ)らない。喋ると殴られるから。

 日が暮れ始める。何も食べていない二人は限界に近かった。帰ったらちゃんと飯を与えてもらおう。そう思って帰ろうとした時だった。


「ねえお嬢ちゃん達。お姉さんの所に来ない?」


 目の前にいた女が声をかけてきた。




「それから一週間も経たずに私とお姉ちゃんはここの子どもになりました。めでたしめでた……」

「話飛ばし過ぎです!」

「えー。でも私達もあんま記憶ないんだよ。こっちの死体処理もお姉ちゃんの親の説得も全部お母さんがやってたし。お姉ちゃんは半年間包帯女だったし。全部大人に任せてたからなー」

「トラウマとか」

「私はないよ。放置されてただけだし。ていうか遥ちゃん達が思い詰める必要なんてないよ。今は十分幸せだし」

「そう、ですか」


 後ろ髪を引かれるような思いで遥はそれ以上深く追求(ついきゅう)することはなかった。


「あくまで『私は』なんだけどね」

「え?」


 羽南が呟いた声は聞こえなかった。


「さてと、夕飯の準備しないと。二人増えたから時間かかるし」

「あ、手伝います」


 キッチンに立つ羽南の後をついていく。


「でも本当すごかったんだよ。今じゃ想像できないくらいお姉ちゃんボコボコのガリガリでさ。あの状態で拾ったお母さんが信じられなくて……」


 羽南がじゃがいもの皮を()く手を止める。遥がどうしたのかと覗き込むと眉を寄せている。


「そういえば知らない」

「何を?」

「拾った理由」




「というわけで単刀直入に聞きます。なんで?」

「子どもが欲しかったから」


 太郎は何とも思っていないが他は意味不明である。暇なちびっ子二人はとうとうソファで昼寝である。


「それがさー。私もタロちゃんも治療しても子どもは絶望的って言われてさー。でも子どもは欲しいわけよ。だから美歩に子どもたくさん産んでって頼んだんだけど突っぱねられてさ」

「みほ?」

「私達のお母さんです」


 古都子は美歩に十人くらい産んでほしい。そして養子に欲しいと頼んだ。結果、大人しい美歩が大激怒。


「だろうね」

「冗談をあの子本気にするから」


 そんなこんなで二十五の冬。仕事帰りにふらっと公園へ寄ってみると一目でわかる程虐待児が二人いた。けれど皆見て見ぬふり。聞いてみれば毎日暴力と無視。誰も助けようとしないのは、その昔、親を叱った隣人が病院送りにされたから。とりあえず古都子は思った。


「いい(かも)釣れた」

「鴨……」

「元からこの女が善意で拾ったとは考えにくいがな」

「羽奏ひどーい。善意くらいあったわよ。タロちゃんが」

「あんたねーじゃんか!」


 住所や家族構成を聞いて色々計画を練った。太郎に言ってみたら普通に承諾(しょうだく)した。両親・義両親は初めこそ渋ったが、家族になった途端孫バカになった。子どもが欲しかったのは全員一緒だ。

 親を説得する前に子どもから。外堀(そとぼり)はガチガチに固め、警察・弁護士・児童相談所諸々にも話を通した上で二人を家へ誘拐した、というわけだった。

これ現実にあったら警察沙汰ですね。虐待児だろうとほとんど誘拐じゃないか?

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