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鶴の恩返し  作者: 雪桃
夏の始まり
21/62

20

 数分後。


「こっちの温和そうな男が芦屋太郎。そしてこのうるっさい女が芦屋古都子。遥ちゃん達の義理の親になる人です」

「ちょっと羽南! うるさいって何よ!」

「そういうとこだよ!」


 古都子と羽南が喧嘩を始めてしまった。止めようにも止められないので呑気に茶をすすっている羽奏の方に顔を向ける。


「つまりお二人は羽奏さんと羽南さんのご両親ということですか」

「今からお前たちの両親にもなるがな」


 羽奏がお前も何か話せと言うように太郎を(ひじ)で小突く。空気と化していた太郎が意図を読み取って遥達に目を向ける。


「久しぶりだね遥ちゃん。と言っても覚えてないだろうけど」

「さっきも言ってましたけどお会いしたことがあるんですか」


 座っているのに飽きた円と颯馬は遊びの続きを始めてしまった。


「あるよ。でも遥ちゃんは幼稚園に入る前だし颯斗君は赤ちゃんだったし。あれ? そこに羽奏いなかったっけ」

「挨拶だけした。後は知らん」


 羽奏はいくつになっても羽奏だった。颯介が産まれる前と言われれば遥も曖昧にしか覚えていない。


「初対面からいられなくてごめんね」


 頭の中で思考を巡らせていると太郎が謝ってきた。


「いえそんな。お仕事でアメリカにいらしてたんですよね。プレゼントまでいただいて」

「無事届いたかい。それは良かった。後二人はいい加減喧嘩をやめなさい」


 飽きずに口喧嘩を続けている羽南と古都子を(たしな)める。


「そんなことをしている場合じゃないだろう。何か渡すものがあったんじゃないのか古都子」

「あーそうだった。ちびちゃんおいでー」


 手招きされた二人は喜んで近寄っていった。


「二人にプレゼントがあります」


 古都子は自分の青いスーツケースの中から前に送ったものと同じ大きさのぬいぐるみを二人に渡した。


「ごめんねー。スーツケースじゃ二つが限界だったあの」

「むしろもう持ってこないで。家が人形だらけになる」


 今の言動では収まるのだった全部持ってくるつもりだったとでも言うつもりだろうか。純粋な円と颯馬は喜んでいる。


「二人とも。ありがとうは?」

「ことこさんありがとう」

「ありがとう」


 素直のお礼を言った二人だったが古都子は不思議そうに首を傾げる。


「何してんのお母さん」

「古都子さん、ね」


 顎に手を当てて古都子は(しん)(みょう)な顔で何やら考え込む。だが長い付き合いの羽南にはわかる。この顔は良からぬことを考えている。


「ちょっと古都子ママって呼んでみて」

「ことこママ」

「よし」

「いやよしじゃない。娘にまでわかんないことさせないで」

「こっちは太郎パパね」

「たろうパパ」

「ちょっと洗脳(せんのう)しないでよ。お父さんからも何か言って……鼻の下を伸ばすな」

「羽南さん落ち着いて。(こぶし)はダメです」

「それなんだけどさ」


 両親二人に振り回されて──主に古都子に──我慢の限界が来た羽南を止める。そんなことも気にせず古都子指摘する。


「そのさんとか敬語ってずっとなの?」

「うん。なんか問題でもある?」

「そんな他人行儀やめましょうよ。兄弟で敬語なんて……いることにはいるけどうちは違うし」


 確かに言われてみればそうだが違和感はある。要は血のつながりと養子縁組のどちらを優先するかというだけの話だ。


「いいじゃん。私も呼ぶから。ね、遥?」

「え!?」

「簡単に言うけど年齢もあるし中々大変だよ」

「あんたは羽奏に敬語を使うの?」

「あー」


 やけに説得力が強くて思わず羽南は納得してしまった。


「いや納得しないでください。急には無理です」

「うん。私も無理。でもこの人こう決めたら動かないんだよ」


 今の短時間で大体古都子の性格はよくわかった。だとしてもそれとこれとは話が別だ。


「諦めて」

「えぇ……」

「それならお姉ちゃん。お姉ちゃんも言うんだよ。できる?」

「普通にできるだろ。遥」

「そりゃずぼらなお姉ちゃんなら簡単で……え?」


 普段から他人を呼び捨てにしている羽奏だから、と羽南は適当に流そうとして違和感に気づいた。


「お姉ちゃん今なんて言った?」

「普通にできる」

「その後」

「遥」


 そこで呼ばれた本人も気づいた。傍から見ればただ名前を呼んでいるだけだろう。だが違う。確か羽奏は。


「ちょ、ちょいお姉ちゃん。上から言ってみて」

「何してんの羽南」


 状況が(つか)めていない古都子を無視して羽奏に詰め寄る。


「遥、颯斗、颯介、円、颯馬」


 呼ばれたと思ったちびっ子二人が寄ってきたので羽奏は頭を撫でてやる。満足した二人は離れていった。羽南は開いた口が閉まらなくなった。


「何。羽奏何かしたの?」

「してない」

「お姉ちゃん名前覚えてたの!?」


 話についていけてない古都子とよくわかっていない羽奏に向かって叫んだ。

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