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鶴の恩返し  作者: 雪桃
春から梅雨
19/62

18

 下駄箱に靴はなく、終業式にもホームルームにもいなかった。でもそれはいつものこと。問題は放課後だ。


「遥。今日も行くの?」

「うん。ごめん美智。先に帰ってて」


 こうなった遥は何をしても動かない。美智は心配と呆れを抱えながらも遥の思い通りにさせた。


(この前はごめんなさい。ついカッとなってしまいました。また友達として仲良くしたいです)


 何度も練習してセリフを反芻(はんすう)してから中庭へと向かう。弁当を二つ持って。

 指定した場所へ向かうと木にもたれかかっている金髪の男がいた。


「古谷君っ!」


 遥は出した言葉に古谷が振り返る。


「あ、えっと……」


 据わった目で見られた遥は考えてきた言葉を出せないままどもる。


「その、急に呼び出してごめんなさい。この前のこと、謝りたくて。も、もちろん許してほしいなんて思ってないよ。ただ、えっと……」


 支離(しり)滅裂(めつれつ)な言動に遥は苛ついてきた。これでは不信がられて終わりではないのか。今まで思い詰めていた記憶が(よみがえ)って涙が溢れてくる。


「靏野」

「はい!?」


 怒られるか。殴られるか。遥が目をつむって身構えた時だった。


「悪かった」

「……え?」


 予想していたものは来なかった。恐る恐る目を開けると古谷が頭を下げていた。


「え!? ちょっと古谷君!?」


 涙も引っ込むほどに驚いた遥は慌てて古谷を戻す。


「あの後、自分で考えてみた。親に甘えていたことと、八つ当たりをしてたこと。靏野に言われて気づいた」

「いや。私はそんなつもりで言ったわけじゃ」


 古谷が怒っているわけではないのはわかったが、それよりも古谷が遥の言葉を予想以上に重く受け取ってしまっていた。


「あの。私はただ仲直りしたかっただけで」

「仲直り……こんな俺よりももっといいやつがいるだろ」

「そうじゃなくて……ていうかそもそもこれは私が悪いんであって」


 遥はふと思い立って止まる。


『半々。どっちも悪いけどどっちも正しい』


「古谷君。私、古谷君と友達になりたい。仮にも顔見知りになった相手と気まずい関係で終わりたくない」


 遥は一つ深呼吸をして古谷の目を見据える。


「良かったら友達になって。古谷君」


 差し出された手を見て古谷は眉を寄せて頭をガシガシと掻く。


「?」

「……俺と一緒にいると、ハブられんじゃねえの」

「それはないと思うよ」

(元々そんなに友達いないし)


 それは飲み込んでおいた。遥は真剣な表情を崩し、頬を緩める。


「ところで嫌とは言わないの? 私、勝手にしちゃうよ?」

「別に。どうでもいいし」


 古谷は何も考えず、適当に流しただけだが、肯定と受け取った遥は喜んだ。


「じ、じゃあお弁当持ってきたから一緒に食べよう。それとスマホ持ってる? メアド交換しよ!」


 長く思い詰めていたせいなのか反動で、遥はすぐに距離を詰めようとする。


「お、おう……」


 古谷は戸惑って後ずさりしながらも遥の要望に応えていく。


「これで羽南さんに心配かけないで済むよ」

「はなさん?」

「うん。私達を養子にしてくれたお義姉(ねえ)さん。あ、よかったら今度遊びに来てよ」


 アドレス欄に新しく入った古谷の名前を嬉しそうに眺める。


「あ、荷物教室に置いたままだ」


 久しぶりに見る古谷のリス姿と共に弁当を食べていた遥はふと思い出した。


「帰らないと。古谷君は?」

「寝る」


 相変わらずだと苦笑してから空になった弁当箱を受け取って席を立つ。


「またね。古谷君」


 遥は嬉しそうに微笑みながら荷物を持って校舎を後にした。




「無事古谷君と仲直りできました」

「おお。しかもメアドまで。急進歩だね」


 スマホを覗き込む羽南に言われて遥は笑う。重荷が解けたことで一安心したのだろう。


「お姉ちゃんからも言ってあげなよ」

「……お前ら。そんな呑気なこと言ってる場合か?」

「え?」


 向かいに座る羽奏が冷めた目で紙を取り出す。『不採用通知』と『Dランク通知の模試結果』だ。


「……」

「……」

「……。夏休み、覚悟しろよ?」

「「ごめんなさい!」」


 羽奏の冷え切った声音に二人は合わせて謝ったのであった。

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